グランプリ受賞!プロセスに学びがある。生徒に伴走した1年。千葉県立東葛飾中学校高等学校 山元 洋 先生 前半

先生インタビュー

「生徒たちに、何かを教え込もうとしたり、また『俺についてこい』という態度でいたり、私のメガネにかなうような方向や内容へ誘導することはしていません」

千葉県立東葛飾中学校で探究学習を担当する山元洋先生は、そう話します。

同校で探究学習に取り組む生徒たちは、どんな探求の道のりをたどっているのでしょうか。教員はどう関わるのでしょうか。2021年度の中学2年生の1年を振り返り、見えたものを語ってもらいました。

前後編に分けてご紹介します。

(敬称略)

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探究学習の全国大会「クエストカップ全国大会 2022」でグランプリを獲得した千葉県立東葛飾中学校高等学校のチーム「CM(centimeter)」。

日本最大級の探究学習の祭典「クエストカップ2022 全国大会」は全国の中高154校の4098チームが応募、審査を通過した261チームが参加しました。千葉県立東葛飾中学校から出場したチーム「CM(centimeter)」の作品は同大会企業探究部門でグランプリを受賞。2016年4月に開校された同校は、創立翌年の2017年度から中学2年生の探究学習に、教育と探求社の探究学習プログラム「クエストエデュケーション」のコーポレートアクセスを導入しています。

人事交流先で見た風景

東葛飾中学校では、2017年度から2年生の探究学習で「クエストエデュケーション」のコースの一つ、「コーポレートアクセス」を実施しています。

山元 私が「クエストエデュケーション」を知ったのは、本当に偶然のことでした。

1都3県の教員人事交流で派遣された、都立両国高等学校・附属中学校で、当時の高校1年生が、「総合的な学習の時間」に、コーポレートアクセスに取り組んでいました。

その活動を目の当たりにし「これは面白い」と強烈なインパクトを受けて、千葉県に戻ったら必ず導入するという意志を固めました。

2016年度、東葛飾中学校の開校と同時に赴任した私は、1期生と共に学校を作る日々を送り始めました。活動の全てを生徒・教員が協力しながら、一から作り上げていくということは大変ながら刺激的でやりがいのあるものです。

そしていよいよ1期生が中学2年生になるというとき、2年次の活動を話し合う機会があり、私からコーポレートアクセスを提案しました。

それから毎年、東葛飾中学校では中学2年でコーポレートアクセスを実施しています。

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山元 東葛飾中学校は併設高校へ進学するまでの3年間、上図のような取り組みを行います。

教育目標である「世界で活躍する心豊かな時代のリーダーの育成」を具現化するために、各教科で特徴的な取り組みを行い、プロジェクト型の教科統合的な活動を学年進行で行なっています。

私は生徒たちに、何かを教え込もうとしたり、また「俺についてこい」というような態度でいたり、私のメガネにかなうような方向や内容へ誘導することはしていません。

生徒たちには、「設定された条件を踏まえた上であれば、内容はどんなものでも構わない」と常に伝えています。私たちの仕事は、場づくり、環境づくり、舞台作り。その舞台でどんなパフォーマンスを見せるかは生徒の可能性に委ねるというスタンスです。

当然私はリスクを負うわけですが、よい結果を出すことが目的ではなく、そこへ向かう過程にこそ真の学びがある、という信念を持って場づくりに心血を注いでいます。

【5月】修学旅行が延期、探究学習が前倒しに…

2021年度の探究学習は、どう始まったのでしょうか。

山元 2021年は、中学2年生の5月に予定されていた修学旅行がコロナの影響で延期となってしまいました。これにより5、6月の行事予定に大きな穴が開きました。

そこで、例年は夏休み後から始めている「コーポレートアクセス」を、今年は夏休み前からスタートしてみようということになり、6月からキックオフとなりました。

【6月】生徒が画用紙を掲げ仲間集め

山元 まずは「企業について知る」のが最初の大きな活動です。6月はそのためのグループ作りから始まりました。

コーポレートアクセスの活動を通して、生徒たちは自分たちの選んだ企業について、企業理念を調べたり、企業から出されたお題(ミッション)に取り組んでいきます。そのため、比較的早くグループを組み、選んだ企業に専念するのが標準的な動き方です。

しかし2021年度、私の学年では、企業からのミッション提示後の活動のことも考え、企業を選んでグループを組むのに、50分の授業を3コマと、多めに時間を取りました。生徒たちには「なんとなくの直感」ではなく、熟慮した上で根拠を持って企業を選んでもらいたいと思ったのです。

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山元 誰とグループを組み、どの企業を担当するのか。生徒たちは画用紙を掲げ、あたかもヒッチハイクをするかのようなスタイルで、それをもとに徹底的に話し合いながらグループ作りを行いました。画用紙の表には、自分の希望する企業を、画用紙の裏には「なぜその企業でクエストエデュケーションをやりたいのか」「どこからそう思ったのか」が書かれています。

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山元 通常、生徒たちにグループを自由に決めさせると、気の合う仲間同士になることが多いと思います。だからといって教員が決めたグループで行うというのは、私は生徒たちが嫌がることだと考えています。

またこの活動は、「ただ時間を過ごし、こなせばよい」というのではなく、活動を通して何かしら学びがあるべきです。けれどもそれは、教員が提示し生徒が受け取る一方通行では得られません。

最初は教員側からの材料提供や導きがあったとしても、それをどう料理するかを生徒に委ね、生徒が考え作り上げるその過程に、数字には現れない学びがあると私は考えています。

ヒッチハイクボードを用いたグループ作りに入る前には、「気の合う友達同士ではなく、選んだ企業のミッションを具現化するために必要なもの同士で組む方がよい」ということは伝えていました。

生徒たちはそこで自ら考え、男女混合、男子1人あとは全部女子、その逆で男子ばかり、女子ばかりなど、さまざまな組み合わせのグループができあがりました。そこには、日常の学校生活ではおよそ一緒になることはない組み合わせもたくさんできていました。

【7月】文化祭に向けた準備

山元 夏休みに入ると、自分のグループの企業リサーチと、教材の中にあるアンケートを行って、その成果を9月に行われる文化祭で発表するということを伝えました。

本校の文化祭は学習発表会の色合いがとても強いので、ちょうどよいタイミングだったと思います。

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夏休みあけには、集めたデータや調査で明らかになったことを元に、文化祭で発表しました。

教材にデータ集計ツールもついてくるので、それを使ってグラフを作った生徒も多くいます。コロナで急速に整備が進み、1人1台パソコンが実現しましたので、ご覧のように、学校でのリサーチが、より効率的に進みます=上写真。

【9月】企業から「ミッション」が発表

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山元 文化祭が終わり、各グループが自分たちが選んだ企業への理解を深めたところで、いよいよ企業から生徒たちに「ミッション」が示されます。

企業からのミッションは、例えば「『キミの疑う力』から世界をつくり変える新しい教科を提案せよ!(博報堂)」「『未来を生きる人々の疲れ』を解消する大正製薬の新商品を提案せよ!(大正製薬)」といったものです。生徒たちは、どうしたらこうしたことを達成できるか、ミッションを達成するための企画を練る段階に入っていきます。

グループワークを行う際の工夫

山元 生徒たちが企画を練る段階で、生徒たちがアイデアを出しやすかったり、共有しやすいよう、少々工夫しました。

みなさまの学校にも、有孔ボードや展示板と呼ばれるような、穴があいていて、足にタイヤが付いた、移動式の大きな板が何かしらあると思います。

生徒たちはこうした板や壁、ホワイトボードに模造紙を貼り付け、フロア全体にグループごとに散らばって、企画のためのブレーンストーミングを行いました。

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山元 グループ間で距離を取りながら、壁面の模造紙に付箋を貼り付けたり直接書き込むため、チーム全員の顔が上がって一方向を向き、対面で飛沫を飛ばしあう可能性も少なくなります。

さらに移動式の板に張り付けた場合は、片づけの際にそのまま保管し、次回貼り付ける手間を省くこともできます。ホワイトボードを使用する場合は、貼り付けた模造紙をはみだして、広大なスペースを使用して書くことができます。

こうしたブレーンストーミングのやり方は、私がゼロから思いついた訳ではなく、教育と探求社さんから提供された「三密を避けるグループワークのアイデア集」から着想を得ました。

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また、このように広く場所を使用すると、出たアイデアが一目瞭然で全て可視化され、全体の流れを見ながら、今やっていることを検討することができます。

さらに、視界に入るところに他のチームがいますので、他のチームの進捗を見ることができたり、他のチームに見られているという状況が、いい雰囲気と適度な緊張感を生んでいました。

時間中はいつでも好きなように行き来していいようにしてありましたので、生徒は頻繁に行き来をしアイデアを検討し合い、議論する姿が多く見られました。

学んだことを“使う”生徒たち

山元 グループワークで企画を練る際、生徒たちが自ら、これまでの学びを活かして活動している様子が多くみられました。

たとえば、商品やサービスの対象者を具体的に想定するための「ペルソナ」(下画像)を設定したり、

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グラフィックオーガナイザーとも呼ばれるような、思考を整理するシンキングツールを用いたりしていました。(下写真左、ピラミッド型)

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ペルソナの概念や、シンキングツールについては、別の活動で導入したものです。生徒たちは、教員から言われるのではなく、自分たちがすでに学んでいた概念を今回の活動に活用していました。

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後編では、生徒たちが企業人に企画を発表する「中間発表」や、大会エントリーなど、10〜2月の様子をご紹介します。

後編につづく)

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【教師と探究学習】プロセスに学びがある。生徒に伴走した1年(東葛飾中・前編)

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