探究の授業と生成AI─その出会いは、学びをどう変えるのか?

探究の授業と生成AI─その出会いは、学びをどう変えるのか?
探究学習入門

探究学習が抱える構造的な課題

近年、授業における「探究学習」が、多くの学校で定着しつつあります。生徒は自分の問いを立て、調べ、考え、仲間と語り合い、発表する──そういった活動を通じて「答えのない問い」に向き合っています。

しかし、現場の先生たちからこんな悩みを聞くようになりました。

 「先生一人では全員の様子を見てあげられない」

 「企画や課題がそれぞれ違うから、何をどうアドバイスしたらいいのか迷う…」

 「生徒の問いが浅い。でも、どんな声かけをしたら深まるのかわからない」

探究の授業を支えるには、生徒一人ひとりの問いに寄り添いながら、現場で即興的に判断していく力が求められます。しかし、40人規模のクラスで7〜9グループが同時進行している状況では、すべてを一人の先生が担うのは現実的ではありません。

   

生成AIを「問いを生み出す存在」として活用する

この構造的課題に対して、私たち教育と探求社は生成AIの新たな活用方法を提案します。それは、生成AIを「答えを提供する道具」ではなく、「問い続ける学びを支える存在」として位置づけることです。

従来、生徒たちは生成AIを次のように活用していました。

 「地域活性化のアイデアを5つ出して」

 「”食品ロス”について、高校生向けにわかりやすく説明して」

 「プレゼンの締めの一言を考えて」

あっという間に答えが返ってきて、とても便利です。

しかし、このようにすぐに答えにアクセスすることが探究の本質である「自分なりの答えを求める学び」と言えるのでしょうか。

私たちが目指すのは、生成AIが各グループに個別の問いを投げかけ、”生徒の伴走者”として機能することです。こうしたアプローチにより、生徒一人ひとりの問いに寄り添う力を高めることが可能になります。

  

実証結果:確かな効果が確認された3つの成果

私たち教育と探求社では、2024年度経産省「未来の教室」実証事業の一環として、生成AIを活用した探究授業の試験導入を行いました。同じ探究学習プログラムに取り組む学年において、一部のクラスに生成AIツールを導入し、使用しないクラスとのデータを比較した結果、次のような確かな成果が得られました。

成果①:生徒間の議論が活性化

生成AIツール未使用時に発話数が少なかったグループにおいて、使用時には約2.7~5.5倍の発話数の増加が確認されました。また、16グループ中15グループが、授業中生成AIが示した問いをもとに議論を行っており、生成AIの問いかけが生徒の議論のきっかけとして機能したと言えます。

先生からも「生成AI使用グループの中には、教師の声かけを必要とせずに自走できているグループもありました。生成AIが議論のきっかけを提供し、生徒が自分たちの企画の特徴や課題を見つける助けになったと思います」との声が聞かれました。

  

成果②:アイデアの量と多様性が増加

生成AIツール使用グループは未使用グループに比べて、全体的にアイデア量が多く、付箋に書き出された視点も多様である傾向が確認されました。問いや新たな視点を投げかける生成AIが、生徒の視点取得の補助として機能したことが分かります。

以下のグラフは、付箋1つにつき「困っている人」を1人ずつ書き出していき、「身近な人」と「身近でない人」の付箋の枚数を表した図です。

生成AI未使用グループ(青)が「身近な人」にしか課題感を持てておらず、思考に偏りがある傾向に対し、使用したグループ(赤)は「身近な人」「身近でない人」両方にアイデアが分散しました。

つまり、生成AIの問いをきっかけに思考の偏りが和らぎ、自分の視点の外にいる存在に気づきやすくなったと考えられます。

※企画のターゲットとなる「困っている人、助けたい人」のアイデア出しにおけるデータ

  

成果③:生徒の学ぶ姿勢の変化と探究心の増大

授業後のアンケートにおいて、生成AIツール使用グループは「自分が努力して学んだことを社会の役に立てたい」「自分から進んで何かを学ぶのは楽しい」など「自発的学び」の項目の上昇が見られ、「はっきりした答えが出るまで、ずっと考え続ける」「問題解決のために、長い時間じっくり考える」などの「特殊的好奇心」の項目でも大きな伸びが見られました。

これらの結果から、生成AIツールによって生徒の学ぶ姿勢や探究心が増大したと言えます。

  

生徒に「問い続ける」ための生成AIの活用

今回の実証を通じて、生成AIは先生の負担を軽減しながら、生徒の探究活動を促進し、学びを深めることができると私たちは確信しました。

これまでは先生が一人では声をかけきれなかった生徒たちも、端末があれば全員に必要な問いかけやサポートを提供することができます。答えを教えるのではなく、生徒の学びを促進する問いを投げることで、より個別最適かつ深い学びを実現できるのです。

私たちはいま、「問いを投げ、生徒の学びを深める技術」として生成AIをどう設計できるかに取り組んでいます。時代の変化を受け入れ新たな技術を活用することで、生徒の学びを後押しするプログラムを届けていきたいと考えます。

後編記事はこちら:生徒の探究を止めない生成AIとは?問いを起点にしたツールの挑戦

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