休校でも、グループワークが実施制限されても探究学習を続けるための「個人学習」の方法

休校でも、グループワークが実施制限されても探究学習を続けるための「個人学習」の方法
探究学習入門

新型コロナウイルス感染症流行防止のための休校措置や、「三密」を避けるための教室での生徒同士の話し合いの実施制限によって、生徒たちが探究学習に取り組むことが難しくなっている。そんな不安の声が、多くの先生方から届いています。

オンライン教材や、社会人が活用するweb会議システムが一部の学校には広がりつつある一方、多くの学校では、課題やドリルを配布し、生徒それぞれが自宅学習にて学びをすすめられるようになんとか工夫している状況です。そんな中、探究学習は一体どのように実施していけばよいのでしょうか。

今日は、自宅学習、個人学習でも探究型の学びを実現するための方法についてお伝えします。

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「グループワークがないと探究学習ができない」わけではない

休校でも、グループワークが実施制限されても探究学習を続けるための「個人学習」の方法

まず知っていただきたいのは、「探究学習はグループワークがないとできない」わけではないということです。

「探究学習」は一般的に、生徒自らが課題を設定し、解決に向けて情報を収集したり、整理したり、分析したり、そして周囲の人と意見交換・協働したりしながら進めていく学習活動のことといわれます。「探究学習」の定義自体に、グループワークなど、生徒同士の協働が含まれていることも少なくありません。

しかし、探究学習はグループワークなどの生徒同士の協働的な活動がなければ実現できないものではありません。そもそも探究学習の授業は、グループワークを行うことそのものではなく、そうしたことを通して生徒自らが自分の在り方や生き方を考えること、そして生徒たちに、新たな価値の創造に向かうための資質、能力および姿勢が育まれることを目指しています。

グループワークでは生徒たちが他者と関わることを通して、そのことが行われています。「同じ問いに対して他の人はこんなふうに考えるのか」「その視点は自分にはなかった」と、他者の存在を通じて新しい気づきや発見に出会い、視野を拡張していくのです。そうした体験を通して、探究型の学びに向かう面白さを体感するとともに、新たな発見や気づきを得る感性や視点を育み、自身の生き方や、日常における課題の発見、価値創造に向かう糸口を探求していくことにつながるのです。

では、どうすれば個人学習でも、「これまで得られなかった気づきや発見に生徒が出会う体験」を届けることが出来るのでしょうか。

個人で進める探究学習のポイント1:知識を活性化する

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ひとつめのポイントは、子ども自身がすでに持っている知識や情報を活性化させることです。

子どもたちは日常の中で様々な体験をし、多くの情報に触れ、知識を獲得しています。中学生、高校生であれば、それまでの人生を通してすでに多くの知識の蓄積があります。

しかしながら、そうした多くの知識は必ずしも生徒自身のなかで明示的に認識されたり、言語化されているわけではありません。そうした記憶の奥底にある情報を、再発見する体験をしてもらうのです。

たとえば、「学校を使って一億円儲けてみよう!」という問いを設定して、普段考えないようなことを考えてもらう。

生徒にとって「学校」は、いつも登校している場所であり、体験し触れてきた多くの情報がある場所です。普段、意識せず、言語化されてもいないけれど、「学校を使って一億円儲けてみよう!」という問いをきっかけに、様々な情報を意識にのぼらせることができます。

「そういえば階段の下にあったあれって、何に使っているんだろう?」「学校がもつ価値っていったいなんだろう?」こうして自分の中に蓄積されていたものが言語化されていく、意識にのぼってくることが、「知識を活性化」するということです。

知識や情報を活性化すると、自分の中にある何の変哲もないと思っていた思いつきに、新たな価値が生まれてきます。あんなことをやったらおもしろいなと思っていたけれど黙っていたことなど、日々感じていたこと、考えていたこと、それらに意味が付与されます。これまでの体験や知識に、新たな意味とともに出会いなおすことで気づきと発見があるのです。

そうした発見をとおして、「自分は意外といろいろなことを見ているし考えているのだ」、「自分の視点って結構面白いな」と新たな自分に気づくこともあるでしょう。自己内省により発見し、視野を広げる体験ができるのです。

こうした体験を生徒に届けるときに気をつけたいのは、どのような「問い」を設定するかです。ただ単に記憶をさかのぼることで答えがだせる問いでは、知識や情報を反芻するだけの「作業」になってしまいます。

通常では考えないこと、例えば「ありえないこと」や「とてつもなく難しいこと」を、日常の体験を元に考えていく問いなどが非常に有効です。生徒たちがその問いに向き合うことで日常生活での発見や気づきが自ずと湧き上がってくるような問いを設定しましょう。

あるいは、自由に発想できるような、答えが一つに定まらない問いを設定したうえで、1つの答えを考えるのではなく、10個、20個とたくさんの答えを考えるよう促すことも有効です。最初の何個かは日常的に考えていることや知っていることの延長で考えられても、たくさん考えていく中で、これまでは考えてもいなかったことを考えるきっかけになり、発見や気づきが生まれていきます。

探究学習を個人で進める方法2:知識の関連付け

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個人で行う探究学習において大切な2つめのポイントは、「知識を関連付ける」体験です。

「深堀りする問い」によって、知識同士を関連付けて因果関係を導いたり、論理を組み立てたりするプロセスが、生徒の新しい気づきや発見を促します。

例えば、「困っている人を笑顔にする企画を考える」という問いに対して、生徒が10個のアイディアを考え、そのなかから一つのアイディアを選んだとします。このとき、「なぜそのアイディアが有効だと思ったのか?」などと問うことで、生徒は説明に必要な知識や情報を自分の中から探し、それらを用いて論理を紡ぐことで知識同士を関連付けることができます。

知識同士を組み合わせて新たなものをつくることで創造的な取り組みも生まれます。逆に、一見思い付きでぱっとできたようなアイデアに見えても、一つ一つ丁寧に思考を紐解いてみると様々な論理が積み重なってできていることがわかります。そのことを生徒自身で振り返り、言語化していくことが大切です。

「意外と自分はこのように考えていたのか」「このように組み立てていたのか」と気づいたとき、それは生徒にとってこれまで得られなかった気づきや発見に出会う体験となるでしょう。

こうした「深堀りする問い」を設定するときの注意点としては、自由に取り組めそうな問いの表現を意識することことです。「なぜそう考えたの?」という問いは昨今の学校現場では、否定や戒めの前段や、決まった正解がある問いにおいて用いられることも多く、生徒に「もっともらしいこと(正解っぽいこと)」を答えなければいけないと思わせてしまいがちです。

「そのアイディアにはどんな有効性があると思ったのか?」「そのアイディアによってどんな素晴らしいことが起こるのか?」「どんなことがおきていくのか?」など、様々な発想や解釈、表現が可能となる問いを設定し、自由に取り組めるようにすることが重要です。多様な答えが生徒からでてくるような聞き方で、生徒に考えさせたいことを問うということがポイントになります。

一人で取り組むモチベーションを保つ

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さて、ここまでで探究学習を個人で行うためのポイントを2つお伝えしました。

この2つのポイントを押さえるだけでも、生徒は個人での探究学習を通して、新たな気付きや発見をし、生徒自身の世界を見る目に変化を起こしていきます。

最後に、特に自宅学習で探究学習を行う際に注意しておかなければいけないことをお伝えします。それは「答えのない問いに取り組む」という性質上、そのほかの教科学習以上に、一人で取り組むことの難しさに十分配慮する必要があるということです。

グループワークという形式は、他者の知識や発見からの気づき、説明相手としての他者など、他者が存在していることの目に見える効果も大きいですが、「ともに取り組む」ということ自体がモチベーションを高めたり、取り組み自体の楽しさを生み出してくれていたりします。

したがって個人での探究学習においては、取り組み始めのハードルを著しく低く設定したり、取り組むことの目的や意義を先生が生徒に丁寧に説明すること、そして、彼らの取り組みをできるだけ定期的に承認したり、生徒の変化や気づき、発見に先生が関心を持ち、ポジティブなフィードバックをしていくということが、教室での授業以上に重要となります。

 まとめ:自らと向き合い深める探究学習を

グループワークはたしかに探究学習において非常に有効ですが、それが実施できない中では、対話を通した気づきや発見とは異なる探究学習の価値に焦点を当てて、学びを設計し、実施していくことが重要です。

言葉やワークシートを用いて「何かを発信して、他者との相互作用の中で気付きを得ていく学び」という探究学習の側面ではなく、「問いに向き合う中で内省し自分の中にある体験や情報、知識と出会い直し、それを言語化したり意味付けしたりする学び」、「自身の体験、情報、知識同士に化学反応を起こしながら新しいアイディアや企画を作り上げていくことで、生徒に変化を起こしていく学び」という側面を重視することが有効です。

また個人学習だからこそ、時間を取って探究してみるべきテーマというのもあります。例えば自身の過去や未来に向き合うような探究学習は、ゆっくりと丁寧に時間をとって取り組めるときに、扱ってみてもよいテーマかもしれません。この期間に生徒それぞれが新しい自分と出会い直し、世界を見つめる新たな視点を得たとしたら、それからの学校生活での過ごし方も大きく変わっていくかもしれません。 

新型コロナウィルス感染症の世界的な流行というこの状況は、人類史に残るインパクトの大きな出来事です。日常生活、地域や日本全体の社会情勢、さらには世界の状況など、様々な領域に著しい変化を起こし、これまで見えていなかったことを明らかにするとともに先行きへの不透明性を圧倒的に高めています。そんないまだからこそ、生徒たちに、本当に必要な学びを共に届けていけたらと思っています。

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※生徒にとって身近なテーマで知識を活性化させる問いが16種類用意されています。

福島創太

早稲田大学法学部卒業後、株式会社リクルートに入社。転職サイト「リクナビNEXT」の企画開発等、企業の中途採用に関するさまざまな業務に携わる。退社後、東京大学...

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