全国大会で3度目のグランプリ受賞。奈良の小さく温かい学校、聖心学園中等教育学校の探究事例

学校事例

「探究が楽しい!」「考えることが面白い!」

中学・高校で生徒たちがいきいきと探究学習にとりくみ、その経験がその後の大学進学や就職活動でも活かされていたらいいと思いませんか?

私、フジコこと立岡は、2019年、奈良県の聖心学園中等教育学校(以下、聖心)で、高校2年生のときに探究学習を経験、全国大会に出場してグランプリを獲得しました。フジコというあだ名は、全国大会に出場した時のチーム名「富士田フジコ」から来ています。

2024年現在、大学4年生になり就職を控えた今、高校時代に探究した経験が人生に大きく影響していると感じています!また、このような生徒は私だけではありません。私が在学していた聖心では、多くの生徒たちが探究を楽しみ、そして全国大会出場や受賞といった結果も残しています。

中学・高校で生徒たちがのびのび探究を楽しみ、そして成果を出していくために、聖心ではいったいどのように探究をとらえ、進めているのでしょうか?

そこで今回は、今年聖心で探究学習に関わった、吉澤先生・飯野先生・奥田先生、そしてグランプリを受賞した生徒のみなさん(チーム「布団が吹っ飛んだ!!」)に、探究学習への考え方や様子についてお話をうかがいました!

*インタビュアー・フジコについての記事はこちら!

奈良の小さく温かい学校、聖心学園中等教育学校の探究

ー聖心では、どのように探究学習を行っているのでしょうか?

吉澤先生:中等教育学校である聖心学園中等教育学校(以下、聖心)では、中学1年生から高校2年生までの5年間、学校が一丸となって探究学習を行っています。

中学1年生から3年生は、「あすかプロジェクト」という地元の地域の探究に取り組み、高校2年生では、実在する企業に関わりながらインターンを行う「コーポレートアクセス(クエストエデュケーション)」を行います。

これら、それぞれの学年が行っている探究学習を、毎年、年度末に開催される「SEISHIN探究グランプリ」という場で、異なる学年が発表しあうという場があります。

中学1年生から5年間、学校が一丸となって探究学習に取り組む。

ー聖心学園自体は、どのような学校でしょうか?

飯野先生:生徒の好奇心が強くて、自分の意見を臆病にならずに言える姿勢があると思います。僕は教員になる前、構想中の教育プログラムを持って、色々な学校で授業を行う仕事をしていたのですが、聖心に初めて来た時、「この学校って最高じゃん!」と思いました。

こんな風に生徒が自分の意見を言えるのは、生徒と先生の距離の近さが背景にあると思います。

奥田先生:僕もそこがすごく好きなポイントです。生徒が少人数ということもあり、先生が一人ひとりをよく見れる、面倒見がいい学校だと思っています。

吉澤先生:月曜から土曜まで授業があるし、先生が生徒と話す時間も長いですよね。

フジコ:私も在校中、期末テストの前、先生に一対一でたくさん質問して答えてもらっていました。学校にいる時間も長いので、その分、先生と他愛もない話もたくさんして、楽しかった記憶があります(笑)。学校内ではよく、そんな自分たちのことを「聖心ファミリー」と表現していましたが、まさにそうで、居心地のいい場所だったなぁと思います。

緑に囲まれた建物で、少人数で教育を行う聖心学園

小さな学校でも探究が強い!その理由は?

ー全国大会でグランプリを3回受賞していることもあり、「聖心って探究強いね」との声を聞くこともよくあります。探究が強い理由はなんだと思いますか?

奥田先生:これは探究学習の授業に限りませんが、生徒1人1人が発言の時間を持てていたり、先生と普段からよく話してることが関係あるのではないでしょうか。普段から生徒一人ひとりと向き合えているということが、生徒たちの探究にとってよい方向に働いていると感じています。

飯野先生:生徒が「こういうこと言って怒られないかな」とか「間違えたこと言ったら恥ずかしいな」という思いを持たずに、自分の思ったことをポンポン言える雰囲気がありますよね。

吉澤先生:僕らも、探究学習をしながら、生徒と同じくらい、「楽しい」とか、「悔しい」とか、「難しい」とか、色んな感情を感じてるなって思います。生徒と話してる時が一番楽しいよね。

普段の探究学習での先生と生徒の様子

ー吉澤先生:逆に、フジコさんが、聖心の生徒だったからグランプリ取れたなって思うポイントはあったりするの?

フジコ:そうですね…もう5年前の経験になるんですけど、当時を振り返ってすごく感じるのが、「ずっと話し続けられる安心な環境」があったなぁと思います。

今でも記憶に残ってるのが、音楽室の横で、ずーーーっとチームのメンバーで話し合っている風景です。一度考えてたアイディアを0から作り直したり、発表の一言一句にめちゃくちゃこだわったり、色んなことを時間をかけて話をしていました。そんな私たちを先生方は温かく見守ってくださっていましたよね。

奥田先生:先生の視点でそれを振り返ると、「生徒に回り道をさせてあげられる」場が生み出せているのかなぁ、と思う。

目が届くところで、目が届く人数でやってるからこそ、生徒に対して、「いいんちゃう、もっと考えてみたら?」と言えるし、「ここはこうやで」「これは違うで」と色々言いすぎずに、生徒が悩み考えてる姿を見守っていれるのかなと思う。

フジコ:そうですね、私たちも最後の発表に辿り着くまでに、いろんな回り道をさせてもらいました(笑)。結局そういう回り道が、一番の近道だったりするんですよね。

先生やクラスメイトと向き合い、探究が深まる

クエストカップ全国大会 2024にて、チーム「布団が吹っ飛んだ!!」受賞の様子

ー今年、グランプリを獲ったチーム「「布団が吹っ飛んだ!!」」の生徒と関わっている中で、印象的だったことありますか?

吉澤先生:「布団が吹っ飛んだ!!」チーム、実は一回くじけていたんです。彼らは「感覚」に注目して、インターネットの世界に触れる「触覚スーツ」を企画していたのですが…「なんかそれ、もうすでにありそうだよね」と言われて、悩んでいました。

飯野先生:相談を受けたとき、「もうすでにこんな商品がたくさんあるみたいなので、やめます!!」とまで言っていました。そこで僕は、「すでにあるものだったらやめるの?その分野の研究がすでにされていて、実用化できる可能性があるってことじゃない?」「自分たちがおもしろいと思っているのに、やめていいの?」って伝えたんですよね。

奥田先生:僕の場合は、「ここはどういうことやねん?」「これは何が特別やと思う?」と色々と突っ込んでいました。それで、「絶対先生を納得させるぞ!」とチームの話し合いが活発になっていたのが印象に残っています。生徒やチームの性格や姿勢によって、関わり方を変化させていますが、「布団が吹っ飛んだ!!」チームにはそんな向き合い方をしていました。

ーフジコ:先生と生徒の距離が近いからこそ、時に厳しい意見を言うやりとりができるのだなと感じました!

飯野先生:そうですね。また、先生と生徒のあいだだけではなく、チーム内の生徒同士の関係もよかったなあと思います。

うまく協働できたら、それだけで探究はうまくいくと思うんです。それぞれの力を掛け算していくことができるんですね。探究って、どれだけ深く考えられるかなので、一人の意見だけじゃなく、ちゃんとみんなで考えられるかがとても大事です。

その点で、「布団が吹っ飛んだ!!」チームは、チームでそれぞれの個性を活かしてうまく役割分担していました。推進力がある子がいたり、スライド・技術面を担当してる子がいたり、コンピューターの知識が豊富な子がいたり、細かいことを考えることで客観性が優れている子がいたり。そうした個性をいかしてチームでひとつのものをつくりあげていくことができたから、いい発表に繋がったのだと思います。

吉澤先生:いいチームだよね。

飯野先生:そう思います。そうして、チームで一生懸命やっていくと、自分の個性も分かります。それって、普通は会社とかに入ってからでないと気付けないことだったりするんですよね。探究を通して、とことん人と関わる中で、自分がどういう人間かを知ることもできると思っています。

探究学習は別に特別なことではない!

ー最後に、これから探究学習をやる中学・高校の先生方や生徒さんに向けて、伝えたいメッセージをお願いします!

奥田先生:探究学習、って聞くと、構えちゃうことが多いような気がするけど、別に特別なことはやってないな、と思うんです。僕の教科の国語でも、「なぜこの登場人物は泣いてるのか?」を、生徒自身の言葉で考えてみるとか。「探究」っていう枠組みがなくても、普段の授業で探究をすることもできると思います。

飯野先生:そうですね、そして、いつもの授業、いつもの生徒との関わり方が大事だなと思います。生徒をよくみて、安心して意見を言える関係性を普段から築き、その積み重ねが、探究の時間にも生かされていくのではないでしょうか。

ー先生方、貴重なお話をありがとうございました!

生徒「先生にボロクソ言われてがんばれた!」

次に、今年クエストカップ全国大会でグランプリを受賞したチーム、「布団が吹っ飛んだ!!」にお話をうかがいました!

ーこれまで、どんな風に練習を重ねてきましたか?

プレゼンテーションが好きで、スティーブ・ジョブズの発表動画を何回も見ながら、プレゼンの練習を重ねました。中間発表の段階では、正直どこの班よりも企画内容は遅れていました。でも、プレゼン力だけはありました!

ーたしかに、スティーブ・ジョブスを彷彿とさせるような、会場全体を巻き込む圧巻のプレゼンテーションだったね。全国大会に出るまではどんな道のりでしたか?

クエストカップ全国大会にエントリーして、動画を提出したのですが、実は選ばれるとは思っていなかったんです。学年のみんなが集まって、ドキドキしながら全国大会に出場するチームを聞いたのですが、出場できることが分かったときはすごく嬉しかった!!そこから一気にやる気が出ました。

そして、それまで「自分たちだけでなんとかしよう」と思っていましたが、全国大会出場が決まってから先生たちにも積極的に相談するようになりました。その中で、奥田先生に「論理づけられてない」「言わないでいいところが多い」ってボロクソ言われて、すごくくやしかった!!

でも、そこで初めて「自己満足で終わっていた!」と気づきました。発表の魅せ方はうまいけど、商品がなぜ必要なのか、それがあると世界がどう変わるのか、全然伝えられていなかった。そこからチームワークを持って、論理的につめていこうと頑張ることができました!

ー他の人の意見を聞く中で、さらに企画が磨かれていったんだね。

そうですね。正直、先生にボロクソに言われた時はめっちゃ悔しかったですけど、今思うと、俺たちは「言われやなやらんタイプ」やし、そのくらい言ってくれる先生じゃないとあそこまでちゃんと考えようとしなかったなと。先生があってこその優勝だと思います。

受賞後、奥田先生と布団が吹っ飛んだ!!チーム

ー聖心学園の先生たちは、ほかにどんな風に関わってくれましたか?

小さい学校なので、同じ学年の先生じゃなくても、相談に乗ってもらうことがありました。色んな先生の様々な意見が聞けて、すごく参考になりました。普段の学校生活でもよく先生と話すので、相談しに行きやすかったです。

全国大会出場が決まった後も、廊下で先生とすれ違うと、「おめでとう、頑張っておいで」と声をかけてもらいました。グランプリを受賞して、学校に帰ってきた時は、思ったより軽い反応で、拍子抜けでしたけど(笑)

だから、自分たちから先生に、「グランプリ取りました!」って言って、「おめでとう!!!」って言ってもらいました!(笑)

ーなるほど!(笑)。改めて、グランプリ受賞おめでとう!!!

さいごに インタビューを終えて 

今回、グランプリを受賞した布団が吹っ飛んだ!!チームは、私(フジコ)の5つ下の後輩です。そして、2024年2月、5年ぶりの対面開催となったクエストカップ全国大会で、彼らがグランプリを受賞する姿を見た時、本当に嬉しかったです!

今回、久しぶりに母校の聖心に訪れ、先生方や後輩たちと話す中で、私が高校2年生で探究学習に取り組んでいた当時のことを思い出しました。

答えのない問いに対して、ひたすら考え続けた探究学習で学んだのは、深く考えるとそれだけ面白いことが見つかるということ。そして同時に、そんなふうに本気で考えることは楽しい反面、とても大変なことなのだと実感しました。大学生になり、社会人を目の前にした今でも、その思いは消えることがありません。

しかし、そんな時、ともに考えてくれる仲間の存在や、見守ってくださる先生方の存在を思い出します。5年前、探究学習に取り組んでいた当時の私は、その存在に助けられながら、最後まで探究を続けることができました。そして5年後の今回も、これからも、自分らしく、考え、悩み、行動していいのだなと思うことができました。

布団が吹っ飛んだ!!チームへ。グランプリという特別な賞を受賞し、探究学習を終えた後も、これからの人生では、たくさんの探究が待ち構えています。大学選びなどで自分の進路選択を考える時、大学で学ぶ時、社会人になって仕事に取り組む時、様々な場面で、探究学習の経験と、そこで出会った存在が、心の拠り所になり、探究を続けていくことができますように!私も頑張ります!!

*聖心学園に関する記事はほかにも!こちらの記事では、2016年にクエストエデュケーションを導入して以降の、学校内での試行錯誤の様子を知ることができます。

フジコ

国際基督教大学4年。高校2年生の時にコーポレートアクセス部門でグランプリを受賞。大学生になった今でも、自分の人生に大きな影響を与えたクエストに関わりたい思い...

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