生徒の探究を止めない生成AIとは?問いを起点にしたツールの挑戦
導入:なぜ「問い」にこだわるのか
前編の記事では、私たち教育と探求社が取り組んだ生成AIツール開発の経緯と実証試験で得られた成果について紹介しました。今回の記事では、探究学習の現場で実際にどのようなツールが活用できるのか、実証試験を元に解説していきます。
答えのない問いに向き合う探究学習では、考えるプロセスこそが学びの本質です。だからこそ、私たちが目指したのは、答えを与える道具ではなく、問いを投げ返す“対話の相棒”のようなツールです。
生成AIに“答えをもらう”のではなく、“問い返される”体験─どのような形でツールとして実装したのか、ぜひご覧ください。
「ソーシャルチェンジ」という学びの舞台
私たちが開発する探究学習プログラム「ソーシャルチェンジ」では、生徒たちは“身近な困っている人を助ける企画”を立ち上げていきます。単なる調べ学習ではなく、「困っている人を笑顔にしたい!」という気持ちから出発することで、自分ごととして課題に向き合う構成になっています。
今回このプログラムに生成AIを組み込み、生徒の学びをさらに深める仕組みをつくることにしました。
4つのツールを紹介
ここでは、「ソーシャルチェンジ」の授業構成に組み込まれた、4つのデジタルツールをご紹介します。
どのツールにも共通する設計思想は、「生徒の思考を促す問いを返す」こと。
生徒が自分の頭で考え、仲間と語り合うための“とっかかり”として、生成AIがそっと背中を押す存在になるよう意図しています。
ツール①ブレインストーミングのサポート
企画づくりの入口として、生徒たちはまず「身近な困っている人」「助けたい人」のブレインストーミングから始まります。なかなかアイデアが出ない生徒や、アイデアに偏りがある生徒、付箋に書き出すのをためらってしまう生徒などもおり、「どのように問いかけたらいいのか」と悩む声も聞かれました。
● どんなツール?
生徒が最初に思いついた「困っている人」を入力すると、「その人は何に困っていますか?」「本当にその人自身の問題ですか?」「他にその〇〇で困っていそうな人はいますか?」など生成AIが質問を返します。これにより、その困りごとにさらに近い存在を連想させたり、視点を変えて新しい発想を引き出したりと、多角的な視点を引き出し、質を高めながらたくさんのアイデアを出すサポートをします。

使用した生徒の声
先生が授業を進める場合は、『これはこういうことだよね』と、先生が示した方向にしか進めないような感じがします。でも、サポートツールを使うと、先生がいないので、自分たちで自由にいろんな方向に考えを進めることができました。
使用した先生の声
生徒はこれまでAIに対して、『自分が質問する』経験は多くしてきましたが、「質問されて答える」機会はほとんどありませんでした。授業でその経験を積むことは、思考を深めるうえで良い影響があると感じました。
ツール②:課題の原因深掘りのサポート
生徒が「困っている人」「助けたい人」を見つけた後は、その人が笑顔になるための企画づくりの足がかりとして、「その人が困っている原因」や「その原因の原因」を考えていきます。
困りごとを深堀りすることで本質的な解決につながりますが、生徒が難しく感じることもあるステップで、問いに寄り添ったサポートが求められます。
● どんなツール?
自分たちが「助けたい」と選んだ困っている存在をこのツールに打ち込むと「誰が困っていますか?」「その人は具体的に、どんなことに困っていますか?」「他にも困っていることはありそうですか?」といった、その人やその困りごとの背景を深掘りする問いが示されます。すぐに原因が出てくるのではなく、段階的な質問によって、対象についての考えや原因に対する洞察が深まっていきます。
もっともらしい原因を思いつくこと以上に、会話の中で「もしかしてこれも原因かも」「同じ状況でも困ると感じない人がいるかも」と生徒自身の意識や思考が拡張されることで、本質的な原因を発見するという学びにつながります。

使用した先生の声
教師が全員に質問するのは時間的に難しいですが、ツールを活用することで、生徒が繰り返し問われる機会を得られるのは大きな利点です。小さな変化でも、探究学習においてプラスになっていると思います。
ツール③:アイデア観点出しのサポート
課題とその原因を見つけた後は、いよいよ企画のアイデア出しとしてグループ内でのブレインストーミングを行います。アイデアがうまく広がらなかったり、出てきたアイデアを整理することが難しかったりと、苦戦する生徒たちもいます。
● どんなツール?
ブレインストーミングで出たアイデアを書き出した付箋を撮影し、生成AIに読み込ませると、アイデアが自動で分類されます。さらに、まだ出ていないアイデアにつながる新たな観点が提示され、生徒のさらなる思考の広がりを手助けします。
例えば、「提出物が出せなくて困っている人」を笑顔にするアイデアに対して、以下のような2つの働きかけをします。
まず、生徒のアイデアを整理・グルーピング化。
・誰かと一緒に取り組める、手伝ってもらうなどの「サポート」グループ
・教科別にTODO整理する、プリントを忘れないように管理するなどの「タスク管理」グループ
・ご褒美や怠け防止の施策などの「モチベーション管理」グループ
続いて、まだ出ていないグループを考え、アイデアを出すきっかけとなる観点を投げかけます。
「“集中できる場所”という側面から、その人を支援する方法はありそう?」
これは、思考の整理をした結果、アイデアが「その人自身にどうアプローチするか」という観点に偏っていたので「環境を変える」という異なる観点を投げかけ、生徒の視野を広げてアイデアの促進を狙った問いかけです。

使用した生徒の声
ツールを使うことで、頭の中が整理されて考えがまとまりました。おかげで、意見も出しやすくなったと思います。
ツール④:企画へのレビューツール
アイデアは発表や検討を重ねてブラッシュアップしていきます。「ソーシャルチェンジ」ではクラス内での中間発表や、近くのチームとのペアプレゼンの時間が設定されており、生徒同士で投げ合うコメントをブラッシュアップの材料の一つとしています。
しかし、他の生徒からのコメントが表面的なフィードバックや感想にとどまり、企画の中身にまでは言及されないことも多く、先生からも「適切なコメントが難しい」という声も聞かれます。
● どんなツール?
企画を音声・文章・画像で入力すると、生成AIがコメントや問いを返し、企画のブラッシュアップのきっかけをつくります。
例えば、「発表の中で、困っている人が抱える問題をしっかりと捉え、それを解決するための具体的な方法を考案した点が印象的でした」と言ったように、企画内容を要約し、承認を送ります。その上で、「このアプリで授業中のどんな問題が解決されそうですか?」「開発で一番苦労しそうな点はどこでしょうか?」といった学びを深めるための問いを投げかけます。
問いの内容も抽象度の高い問いから考えやすい具体的な問い、企画の価値や生徒の学びを深めるための社会全体へつながる問いなど、多様な視点が用意されています。

使用した生徒の声
ここまでしか考えられないと行き詰っていたところ、生成AIが質問をしてくれたおかげで、新しいアイデアが浮かんできました。しかも自分が見ていた方向からじゃないところから質問を出してくれて、いつもの自分とは違う考え方ができました。
学びを止めないために、問いを止めない
どれほど便利な技術があっても、生徒が問いを持ち、自分で考え、仲間と語り合いながら学ぶことの価値は変わりません。
学校現場には、生徒、先生、クラスの状況などによって、先生一人で抱えるには大きすぎるさまざまな課題がありますが、生成AIを活用することによって、解決できるかもしれません。
私たちはこれからもプログラムを磨きながら、先生の負担を軽減しつつ、個別最適な学びを支え、より学びが深まる探究学習ツールを届けていきたいと考えています。
前編記事はこちら:探究の授業と生成AI─その出会いは、学びをどう変えるのか?


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