生徒に本気で向き合い、数々の変容を引き起こす。先生にうかがう明星中学校の探究学習の取組み
2018年度、120チーム、533名の生徒たちが出場した探究学習の祭典、クエストカップ全国大会。厳しい戦いを勝ち抜きその頂点であるグランプリを受賞したチームのひとつに、大阪の男子校 明星中学校のチームがありました。
ここまでの一年間、彼らはどのように歩んできたのか、先生はどのように関わってきたのか。そして今、どのように次の年を過ごしているのか。
今回は、大阪明星学園 明星中学校・明星高等学校の校長 松田進先生、昨年度グランプリ受賞チームの担任をされていた今村先生に、探究学習の取組みを通じて起きた様々なドラマについてお話をうかがいました。
→明星中学校 生徒さんインタビュー記事(前編)
→明星中学校 生徒さんインタビュー記事(後編)
放課後に希望する生徒が集まりクエストを実施
ー2018年度のクエストカップ全国大会でグランプリを獲得したとのことですが、今年2019年はクエストエデュケーション(以下クエスト)にどのようにとりくまれているのでしょうか?
今村先生:昨年度は総合の授業としてクエストにとりくんでいましたが、今年は放課後に有志でクエストを行っています。希望する子どもたちが集まって、週1回ずつ2つのコース、コーポレートアクセスとスモールスタートにそれぞれ取り組んでいます。
ー今年はなぜクエストを放課後に実施されているのでしょうか。
今村先生:実はもともと今年はクエストを実施する予定はなかったんです。私の担当学年は今年中学3年生なので、卒業論文を作るなど他のプログラムを行う予定でカリキュラムが進んでいました。
ただ一方で、子どもたちのほうから「クエストをやりたい」という声があがったんです。去年1年やって、他のコースもやってみたいという声が多々あがったんですね。それだけ意欲ある子どもたちがいますので、やはりその芽をつみたくない、やらせてやりたいと学校全体の先生方で相談し、放課後の希望制という形で実施することにしました。
ーそうだったのですね。放課後は部活動などもあるかと思いますが、それだけ意欲あふれているとはすごいですね。
今村先生:勉強も部活も、そしてクエストも両立しながらよくやっていると思います。子どもたちによっては生徒会に入っている子もいます。やっぱりクエストをやろうと自分から言っている子供たちというのは、いろんなことをやりたいと。去年クエストをやったおかげだと思いますけれど、どんどん積極的にチャレンジできるようになっています。
たとえば本校は中学3年生で海外留学に行く生徒をつのるのですけれど、クエストを体験した今の学年ではいままで以上に留学に行きたいという言う子の人数が集まりました。チャレンジする姿勢というのは、かなり出てきているのではないかなと思ってみています。
生徒会や留学…子どもたちが積極的になったのはなぜなのか
ー生徒さんたちが、いろいろなことをやりたいと興味を持ったり、積極的にチャレンジできるようになっていったのはなぜだと思われますか?
今村先生:「やったらできるんだ」と自信が持てるようになるからだと思います。
本校は成績によって3つのコースにわかれていて、私の担当クラスは学習が苦手な子どもたちも多いクラスなんです。勉強やスポーツで順位がでてきますと、やはりそれだけで自信が持てなくなってしまったりします。
一方でクエストをやっていると、努力次第で報われる、やると結果が出てくるという体験ができます。子どもたちは「こうしたらできる」「ああやったらできる」と自信を得られて、いろいろとやれるようになっていくのではないかと思います。
ー校長先生は、生徒さんたちを見ていてどのように感じられましたか?
松田校長:英数コースと、ひとつ上に特進コースというものがあるんです。英数コースは全員ではありませんがやはり教科の勉強については意欲がのらないという生徒は多いです。
でもだからといって自信をなくすのではなく、教科の勉強以外になにか自分の興味のあること、あるいは関心をもったこと、それにチャレンジするというのはとても大事だと思います。
去年グランプリをいただいた彼らは英数コースなのですが、クエストカップ全国大会で一生懸命しゃべっていました。びっくりするほどしゃべってましたわ。グランプリ発表でばっとチーム名が出たときは、泣きそうになりました。たしかに指導が大変とは思いますけれど、あれを見ていると本当にやってよかったなぁと思います。
松田校長:中学生や高校生ってね、仲間内ではえらそうにしてますけど、なかなか人前で話をするのが苦手です。
だから外にいって、自分たちで間違ってもいいから発表する、みなさんに聞いてもらう。どうしたら聞いてもらえるのか、どんな言葉を使ったらみなさんの心の中に入っていけるのか。そんなこともだいぶ勉強したと思いますよ。
あの4人のグループも「優秀な子たちばかりでしょう」とときどき言われるんです。それぞれにいろいろな悩みを抱えた生徒もいますしね、学業の成績だけでいえば決して上位の生徒じゃないですよ。
やっぱりなにか、自分でやってみようと。彼らのやる気スイッチがどこにあるか、我々もつかみきれていないと思います。
悩みや課題をかかえていた生徒がガラッと変わったきっかけ
ー本当に堂々とした発表で、ぐっとひきこまれるものがありました。いろいろな悩みや課題を抱えていたというのは、どのようなことがあったのでしょうか?
今村先生:昨年クエストをやっていた生徒の中の1人に、反抗期なのでなかなかやる気がでなかったり、言うことを聞いてくれない子がいました。
私が去年担任を持っていたのですが、本当によく最初から反発していました。人の話は聞かないし、始業式の日から、私もしょっちゅう怒っていました。
その中で一度こっぴどく叱られることがあり、彼も涙を流していました。そのとき彼と話したんです、「今度先生に呼ばれるときは、『がんばったな』といってもらえるようなことで呼ばれるようにしよう」と。そこから本当にガラッと変わりました。クエストも一生懸命取り組むようになったんです。
その後は本当にクエストが好きで好きで、最初はなんか嫌やったらしいですけど(笑)、途中から楽しくなってきたらしいです。最後は全国大会まで選ばれて、グランプリをとるところまで成長しました。
成績も最初に比べて見違えるほどの優れた成績になりました。「自分はこうしたい」「こうしていきたい」と色々自分なりに考えられるようになって、落ち着いて考えて生活できるようになりました。
今年は学級委員長に選ばれたりもしていました。もちろんまだまだなところもありますけれど、1年半前に比べたらかなり成長したなと思います。
ーそうだったのですね。先生方が子どもたちに本気で向き合っていることをひしひしと感じます。校長先生はクエストをやっている子供たちにどのようなお話をされたのですか?
松田校長:「いややったらやめとけ」と。
いややったらやめといたらいいんですよ。子どものことってわかりません。いややったらやめとけいうとったら一生懸命やるしね、やれいうたらやれへんしね。まあ僕らもそうだったかわからんですけどね。
あとはまあ、やっぱ教員も本気でかからんとね。本気かうわべだけかなんていうのは、子どもらもようわかりますわ。それはなにごとにしてもね。ほんまに思ってくれてるんやなってわかれば男の子はついてくると思います。古いかもしれんけど。
周りとつきあわざるを得ない環境が、学校に居場所を生んだ
ーグランプリ受賞にいたるまでの一年間、様々なドラマがあったのだと感じます。他にも印象的だったことはありますか?
今村先生:不登校だった子が、学校にくるのがいやではなくなったと言っていました。当初周りとつきあうのがいやで、家でゲームをしていたいと言っていたのですが、最後はガッツ※にも参加するぐらいに成長した子もいました。
結局クエストをやることで周りの子らとしゃべらざるを得ませんし、そうしてつきあっていくなかで学校に行くのがいやじゃなくなってきたと言うてました。
(※ガッツ:各プログラムを受講した生徒たちが自らの意思で参加し、来場者の目の前で自分たちの企画を発表するポスターセッション形式のプレゼン大会)
他にも同じく不登校だった子がいてたんですけど、その子も学校を休むのがもうほとんどなくなりました。
その子はどうやら中一のときから不登校で、私が担任をした中2のときもよく休んでいたんです。理由を聞いたら、やはり家でゲームをしたりとかしていたらしいです。
彼はクエストで、グランプリをとったチームにあと一歩で負けたチーム、悔しくて泣いていた子と一緒のチームでした。
松田校長:去年全国大会に出場できる一組を選んでもらったとき、もう一組ええのがあったんですよ。どっちがどうやいうくらい、ええのがあったんです。選ばれなかった子たちがものすごい悔しがってました。あれは見てられなかったねえ。
今村先生:皆の前でわあわあ泣いていました。中学生でこういったことで泣く子というのはあまりおりませんので、本当に悔しかったんだと思います。
不登校の子もそんなチームの中におりまして。彼はもともと友だちづきあいも非常に苦手な子で、周りと全然しゃべれなかったんですけれど、今はもう生意気なことを周りに言うくらい、自分の意見を言ったりしています。
先日実力テストというのがありまして、数学で学年一位をとったりもしていました。英数コースなのですけれど、特進コースやそのなかの選抜コースというのも飛び越えてダントツの一位でした。なかなかそう簡単にできるものではありません。勉強もすごい身が入ってきて、全然見違えるようにその子も変わりました。
人としゃべるもの絶対嫌がるような子だったんですけれど、今は平気でしゃべったりしています。来年くらいたぶん学級委員長になるんではないかなと思っています。
意見のぶつかり合いから生まれる学び
ー周りとしゃべるのが苦手なとき、クエストがひとつのきっかけになれたとは嬉しいです。チームメンバーが聞いたり受け止めたり、周りの力もすごくあったのかなと思いました。
今村先生:そうですね。でも一方で、チームがいつもまとまっているというわけでもありません。あるチームは、元々5人だったところ、ケンカをして4人になったところがあります。
それまでも各グループ内でいろんなケンカはよくしていて、それも勉強なのでみていたのですが、あるチームでは練習している中で、完全にケンカしてしまったことがありました。それからケンカした1人の子が学校にこなくなってしまって。
ただでも、そのチームが最終的にグランプリをとってチームメンバーが大阪に戻ってきたときに、新幹線を降りたところに彼が立って待っていたんです。花束を持って迎えてくれて。
ごめんとお互い言いあって仲直りをし、そこから学校に来れるようになり、現在は一番の友達になっています。
でもクエストを途中でやめたのがやはり悔しいと、自分もやっぱりやっていたらよかったと言っていました。
彼、今年は希望制のほうで再びもう一度チャレンジしています。
「どんどん自分で考えて行動して」探究学習の取組みで子どもたちの意欲をひきだす
ー変化してきた生徒さんたちも、それに向き合ってきた先生方も本当に素敵です。先生方はどのようにしてクエストを始められたのですか。
松田校長:クエストは、ある先生が見つけてきて2017年度から取り組んでいます。私は2018年から校長になってから初めてクエストを知りました。
先生らが一生懸命子どもらと毎日遅うまでやってまして、「何をしてんねん、遅うまで。はよ帰れ」いうてたんですけど。まあ子ども一生懸命やってますからね、応援せないかんなぁと思いました。
今村先生:いま高校2年生の学年主任をされている岩井先生がきっかけで、当時私と、他教員2名、学年の先生2名の5名でクエストをはじめました。探究学習の取組みをいろいろと調べられて、前からやりたいとあたためていた話とうかがっています。
最初にクエストの研修を受けにいきまして、そのうえでやり始めました。最初は初めてで手探り状態ではありましたが一年やらせていただいて、子どもたちも本当に一生懸命やっている姿をみて、いろんな先生とお話した結果昨年学年で導入という形になりました。
教材と指導書とかもいただいてましたんで、今までは自分たちで、たとえば学年で総合学習で使うものなど1から全部作っていたところを、丁寧な解説書とかをいただいて、それをみながら進めていきました。どの先生ともある程度共有ができますので、先生同士のコミュニケーションはとりやすかったと思います。「次このステップやね」とかいう形で予習をしやすかったです。
ー最初、結構大変だなと思ったりはしませんでしたか?夜遅くまでやっていたとか。
今村先生:やっぱり全国大会が決まった後や、学校内での発表の前というのは、もうどの子どもたちもみんな夜遅くまで残ってやっていました。調べ物をしたりとか、模造紙なりパワーポイントなりを作って、毎日遅くまでやっていました。
ですからそのときは大変でしたけれど、ただまあ、怒るようなことしませんし、まあイライラすることももちろんありましたけど(笑)、基本的に意欲をもってみんなやってくれたかなと思っています。
なかなか5教科の授業ではやる気がなかったりだとか、学習意欲がわかなかったりというのもあると思うんですけれども、やっぱり好きなテーマに、与えられたテーマから自分の好きな方向に持っていけましたんで、それで子どもたちも意欲的にできたのではないのかなと感じています。
松田校長:国語も数学も英語もとっても大事です、大事ですけれども、それ以外に全然違うことで自分で興味をもって積極的に動いていく。そうしたことはとても大切なことです。失敗することもたくさんあると思います。でも失敗することから学ぶことはとても多いと思います。
もうこれからの時代っていわゆる教員主導で、先生のいうことをきいておけというような、そんな時代じゃないですからね。どんどん自分で考えて自分で動いて失敗して。そして何かを学びとっていく。そしてみんなでやっていく。そういうものに変えていこうと考えています。
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