「生徒に主体的な力を身につけさせたい」学年の先生を巻き込む総合探究事例【埼玉県立坂戸高等学校 石川好夫先生】

「生徒に主体的な力を身につけさせたい」学年の先生を巻き込む総合探究事例【埼玉県立坂戸高等学校 石川好夫先生】
先生インタビュー

埼玉県立坂戸高等学校(以下、坂戸高校)は、「生徒に主体的に学ぶ力を身につけさせたい」、「課題発見力・課題解決力を身につけさせたい」といった想いを実現させるため、「総合的な探究の時間」に力を注いでいます。一方で、体系的なカリキュラムを新規に作成して実施することは、担当する先生方の負担が大きいという課題感を感じていました。

そこで、2022年度、社会課題を解決する探究学習プログラム「ソーシャルチェンジ」を導入しました。その結果、生徒たちの変化に加えて先生方にも意識の変化が見られ、「総合的な探究の時間」が有意義な時間になりました。坂戸高校で進路指導主事を6年間担当され、「総探プロジェクトチーム」の責任者も務める石川好夫先生にお話を伺いました。

生徒に「一歩を踏み出す力」を。体系的に学べる探究学習を作りたい

「生徒に主体的な力を身につけさせたい」学年の先生を巻き込む総合探究事例【埼玉県立坂戸高等学校 石川好夫先生】

坂戸高校は、埼玉県西部にある、一千名を超える生徒が在籍する普通科及び外国語科がある全日制の共学の学校です。

生徒たちは素直で、宿題などの指示された課題は着実にやります。しかし、「自ら一歩を踏み出す」生徒が少ないと感じていました。

3年生に、進路指導の面談をした時に「何のために大学に行くのか」の問いかけに対して、明確に答えられない生徒が複数いることに気づきました。一方で、将来のやりたいことが明確に答えられる生徒は、たとえ模擬試験の成績が悪かったとしても、将来に向けて粘り強く努力し、次のステージへ力強く踏み出していきました。

私は、その様子をみて、大学に合格することも大事だけれども、それ以上に「将来は何をやりたいのか」を決めるきっかけになるような活動や体験ができないかと考えていました。やりたいことが見えてくれば、自ら学びに向かう行動もとれるようになる。教科の勉強だけでなく、様々な活動や体験もして欲しいという想いを持っていました。

そんな話を職員室や準備室でしていると、同僚の先生方も同じようなことを考えていることがわかりました。自ら考え行動する「課題発見力や課題解決力」、わかりやすく他者に伝える「表現力や思考力」、お互いに学び高めあう「共生力」を身につけて欲しいという想いです。

そこで、「総合的な探究の時間」いわゆる「総探」を場当たり的にやるのではなく、目指すゴールを定めた体系的なものを作りたい、やってみたい、主体性が身につけられる「坂戸高校としての総探」を作っていきたいという話になりました。

学年でバラバラに…

そして、坂戸高校では2019年度から進路指導やホームルームの時間に充てていた「総合的な探究の時間」を、生徒の主体的な学びに変える取り組みを始めました。

はじめに、埼玉県の総探プログラムに参加し、広告代理店と一緒に授業を作ることに挑戦しました。突然のコロナ禍になり、思うようにいかない場面もありましたが、模索しながら自分たちが関心を寄せた社会課題に取り組んでいきました。その結果、生徒の中には、やってきた総探の取り組みを武器にして大学入試に挑戦するものも出ました。

そして、迎えた2020年度、私たちの学年が先陣を切って取り組んだ総探の授業内容を次の学年が継承していくことを望んでいましたが、「同じことをするのはハードルが高い」という声があがり、最終的には学年の裁量で計画することになり、学年毎にバラバラの内容になってしまいました。本校では、総探の分掌が無く、各学年から選出された委員によって運営されていたので、学校全体で計画を立てることも難しい状況にありました。

そうした状況の中、「教育と探求社」の探究学習プログラム「ソーシャルチェンジ」に出会いました。

外部の力を借りてつくる学校オリジナルの探究学習

「ソーシャルチェンジ」は、生徒たちが身近にある社会課題を発見し、解決策を考えるプログラムです。

「身近で困っている人を助ける」という問いから社会課題を考えるため、友人や家族などの具体的な顔を思い浮かべながら課題について考えることができます。「外国の貧困問題」や「地球の環境問題」となると、生徒たちにとって広くて遠いテーマになりがちで、自分事にするのは難しい面があります。一方、「身近で困っている人を助ける」という問いは、具体的なアイディアが浮かびやすく、主体的に取り組みやすいものです。

授業の進め方に関しては、生徒たちには読み進めていくテキストがあり、先生方に対しては指導に困らないように指導ガイドや授業計画が付いています。また、何か困ったときにはコーディネーターが付いてくれているので、細かい相談に乗ることもできます。

そして、それらのことを十分に検討し、総探プロジェクトチーム及び学年会議を経て、2022年度「ソーシャルチェンジ」プログラムの導入が決まりました。

「生徒に主体的な力を身につけさせたい」学年の先生を巻き込む総合探究事例【埼玉県立坂戸高等学校 石川好夫先生】

先生方で目標を一つに同じ方向を向いて生徒の前に立ちたいとあらためて話し合い、「生徒たちに身に付けて欲しい力」を明確にしていきました。

探究学習、1年間の取り組みの様子

「生徒に主体的な力を身につけさせたい」学年の先生を巻き込む総合探究事例【埼玉県立坂戸高等学校 石川好夫先生】

実際の取り組みの様子を紹介します。坂戸高校では、2022年度の1年生の1学期から3学期にかけて、「ソーシャルチェンジ」に取り組みました。

まず、「ソーシャルチェンジ」を始める前に「教育と探求社」のコーディネーターに学校にお越しいただき、学年の先生方と研修会を実施しました。そこで、授業の流れや注意点を確認しました。授業で具体的に何をすれば良いかについては、テキストの中の「学習の流れ」に具体的な項目や時間が書かれているので、それらを参考に取り組みました(画像右2段目)。先生方との事前研修を通して、授業内容はハードルが高いものではないということを共有しました。

そして、1学期、「ソーシャルチェンジ」で設計されている全12回のうちの1~3回に取り組みました。ここでは、学校の身近な課題に取り組み、お互いに意見を出し合い、グループで発表を行う練習をしました(画像右1段目)。

2学期の4~10回の取り組みは、「困っている人を探し、笑顔にする企画」を考えて、ポスターにまとめ、班どうしで中間発表まで行いました。また、2学期の冒頭に地域の魅力や課題を知る目的で、「坂戸市を知る」講演会を実施しました。

3学期は、11回~12回に取り組み、模造紙大のポスターを作成して学外の人を招いて発表会を実施しました。学外の人は、本校の他学年を持っている先生方、講演会でお世話になった市役所の方及び近隣の小中学校の先生方です。生徒たちの最終発表を見ていただき、多くのコメントをいただきました。さらに、2月には「ソーシャルチェンジ」に取り組む全国の中高生が集まる「クエストカップ全国大会」にも、本校から2チームが出場しました。驚くことに、その1チームが「チェンジメーカー賞」を受賞しました。(大会視聴URL

クエストカップ全国大会 チェンジメーカー賞受賞 埼玉県立坂戸高等学校 チーム名「Happiness」作品名「給食届け隊」
クエストカップ全国大会 チェンジメーカー賞受賞 埼玉県立坂戸高等学校 チーム名「Happiness」作品名「給食届け隊」

授業は1年生の学年全体で一斉に取り組みました。生徒4人で一班(学年で90班)とし、先生一人が5~6班になるよう17グループ(1学年の教員数)作りました。

授業の運営に関して、「どのように先生が関われば良いのか」、「指導はむずかしい」という不安の声もありましたが、研修会を通して「まずは見守りながら生徒たちにやらせてみよう」という視点を共有して授業に臨みました。特に、先生の役割として、「生徒たちが自由に発言し、自由にやってみる場」ができるような安心安全の場作り、「いつまでに何をやっていくのか」の時間管理をお願いしました。

生徒の変容、職員室が生徒の話題で盛り上がる!

「生徒に主体的な力を身につけさせたい」学年の先生を巻き込む総合探究事例【埼玉県立坂戸高等学校 石川好夫先生】

探究学習プログラムである「ソーシャルチェンジ」をやってみて、生徒たちはもちろんのこと、先生方にも変化があったと感じています。

生徒たちは、チームで課題に取り組む過程において、様々な考え方や見方があることに気づき、異なる意見であっても話し合って一つのものにまとめ上げていく大変さを体験しました。お互いの意見を擦り合わせていくことの難しさを感じながらも、その過程が大事なことであることを認識して取り組んでいました。また、チーム同士でお互いに発表をすることを通して、互いに刺激しあっている姿も見ることができました。

さらに、課題を深堀していく過程において、「インタビューをしてみたい」という声があがるなど、主体的な発言や行動が見られるようになりました。導入前は「一歩踏み出す生徒が少ない」という課題がありましたが、生徒自らが主体的に行動する姿に成長していきました。

先生方についても当初探究活動に対するハードルの高さや負担感を感じていましたが、やっていくうちに負担感も気にならなくなりました。授業で実施する内容は、学年会で確認し、学年団全員で共有しました。

また、探究活動を実施する時は、学年団の先生全員に生徒のグループ担当を割り振りしました。先生方は、事前に研修を受けているので、「大変だ、大変だ!」という声は減少しました。生徒たちに刺激され、「次の総探は何をやるの?」、「次は、これを準備しよう」という前向きな言動も聞かれるようになりました。担当する先生方からも、「あの生徒、こんなだったよ!」と、生徒の成長を喜んだり、話題になったことを取り上げて盛り上がる光景も見られました。

先生方も肩ひじ張らずに、生徒目線で探究活動を楽しむところは楽しんでいました。

最後に、生徒も先生も総探を楽しもう

最後に私が言いたいことは、生徒たちはもちろん、先生方も探究活動のワクワク感を楽しむことが必要だということです。自然体で取り組み、「失敗しても良いじゃないか」という感覚で挑戦していくことが大切だと思います。

次に、臆することなく「とにかくやってみる」ことが大切です。なかでも、先に口を出さずに、生徒たちが自由な発想の下、探究活動を進めて欲しいと思います。これから先、生徒がどのように成長していくか、とても楽しみです。ときめく総探を目指して、今後も取り組んでいきます。ありがとうございました。

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