高校で探究を経験した大学生の今。「探究は進路や人生に大きく影響した!」

OBOGインタビュー

中学や高校で実施している探究学習は、本当に生徒たちの人生の糧になっているのでしょうか。

自分の生徒たちがこの先どのような進路に進むのか、そしてどのように就職しキャリアを形成していくのか。どうか幸せな人生を歩んでほしいと願い、中学高校で生徒たちのためになにができるのか日々模索している先生方も多いのではないかと思います。

そこで今回は、高校で探究学習を経験し現在大学生4年生となった立岡さんに、大学生活や就職先の選択、高校時代に探究を経験して得られたこと、また当時先生にしてもらって嬉しかったことについてお話をうかがいました。

高校で学んだ「探究の面白さ」で大学でもどんどんチャレンジ!

立岡さんは現在国際基督教大学(ICU)4年生。高校2年生の時に、探究学習で企業からの課題にチームで挑戦し全国大会に出場、見事グランプリを受賞しました。

この高校で探究に取り組んできた経験が、大学での様々なチャレンジにつながったそうです。

立岡:高校でみんなで懸命に探究してきたことが楽しかったので、大学でもそんな経験をしたいと思いました。そこでまずは、「とりあえず色んな活動をしてみよう」とたくさんのことに挑戦してみたんです。

大学1年生ではビジネスコンテストに出たり、長野県の天龍村で滞在ボランティアをしたり、大学3年生ではアルゼンチンのフィールドワークの授業に行きました。

そうして様々なことを経験していくうちに、「食」という自分の興味がはっきりしてきたんです。そうして大学での研究テーマが固まり始め、奨学金をもらって食のプロジェクトを立ち上げました。

色々やってみたことで、自分が大切にしたいことや熱意を持って取り組めることがわかり、かなり具体的に将来の軸が見えてきたと思います。

長野県天龍村にて。山奥で1人暮らしをする高齢者に食料をデリバリーするなど、さまざまな活動に参加しながら2週間滞在した。

大学3年生では、地球の裏側、アルゼンチンでフィールドワーク。この辺りから、関心のあるテーマが固まり始めた。

自分の軸を発見!就職先でも「探究していきたい」

ー大学卒業後の進路はいかがですか。

立岡:4月からは、「食」や「サステナビリティ」に関わる企業に就職します。自分の興味関心がわかってきて、卒論のテーマも「食」や「サステナビリティ」に関することにしていたので、引き続きこのテーマを働きながら探究していきたいです。

実は、就活をする中で、コンサル業界に就職することを考えていた時期もありました。「深く考えてみること」が好きで、自分の考えが、商品として価値があるような職種に興味があったのだと思います。とことん考えを巡らせられるような環境が整っている場所にも惹かれていました。

結局コンサル業界には就職しなかったけれど、「深く考えてみることが好き」「それを仕事にしてみたい」と思えたのも、高校の探究が楽しかったからです。「考えること」はどんな物事にも付き物なので、これからも新しい就職先で、自分なりの「探究」を続けていきたいと思っています。

ーほかに、就職活動などにおいて、探究学習から影響を受けたことはありましたか?

探究学習で、自分たちの発表に対して、実際に働いている企業の方など、学校外の方からリフレクションを受ける中で、「働くことって、なんか楽しそうだな」という希望のようなものを漠然と持ちました。

学校外の方から話を聞く中で、「今、会社ではこんな取り組みが行われているのか」とか、「働いたら、こういうことができるんだ」みたいな、自分の探究学習での取り組みが、実際に働くことと繋がっていることが感じられたからです。

また、ある企業の方が、自分たちの発表に対して、とても熱心にアドバイスをくださって、「こんな風に自分の考えをしっかり受け止めて考えてくれる人がいるんだ」と嬉しかったのを覚えています。

「働くことってしんどいことばっかりなのかな…」って不安になりがちな世の中だけど、「楽しいこともできるかも」って感じることができたのは、そんな風に、学校外の方と交流したり、自分たちの考えを肯定できたりしたおかげかなと思います。

高校時代の探究学習のようす

ー高校時代の探究学習は、どのようなようすでしたか。

立岡:私は奈良にある聖心学園中等教育学校(以下、「聖心」)に通っていました。聖心では高校2年生になるとクエストエデュケーション(以下、クエスト)という探究の授業があります。

私は高校1年生のときから、先輩たちの発表を見てクエストをやることに憧れがありました。先輩たちは堂々と自分たちの企画を発表していて、本当に楽しそうだったんです!

いよいよ高校2年生になってクエストが始まると、私は先生に「本気のメンバーで全国大会に行きたい!」と直談判しました。グループを自ら作る了承を得て、メンバーに声をかけてヘッドハンティングしていったんです。(笑)

その甲斐もあって、本気で一緒に探究できる熱いメンバーが集まりました。授業の時間以外にも、朝や放課後に時間をとって、グループで集まって議論していました。

ーグループで探究を進めていて、いかがでしたか?

5人のグループだったので、アイデアや意見はよく2対3に分かれていました。「理想・夢を叶えること」「現実的にできること」のどちらを大切にするかというような、正解や間違いのないものです。全国大会の1st ステージの発表のあと、2nd ステージの発表までの1週間という短い間の中でも、みんなでアイデアを練り直し、発表内容を作りなおしたりしました。話し過ぎてみんな余裕もなくなっていくので、意見のぶつかり合いでチームの雰囲気が悪くなったこともありました。

ーグループで意見があわないときはどのように工夫したのでしょうか?

立岡:そう簡単には行かないけど、一度自分の考えをまとめてくることにしていました。お互いに一旦持ち帰り、自分の意見を考えてまとめて、次の日改めて話し合います。みんなで納得できる答えを探すことに妥協しませんでした。

こうして、チーム内で様々な意見がある中で、合意形成を行った経験は、後の自分にとってとても意味のあるものだったと感じています。

チーム内で意見がぶつかり合った時、このように自分1人で考える時間を取ることがとても大切だと気付いたのですが、その理由は、自分の考えがある程度整理されていないと、他者の意見を聞くばかりで、自分の意見をしっかりと伝えることができなかったからでした。今でも、他者と合意形成を行って何かに取り組んで行く必要がある中、なかなか上手くいかない時は、「自分は、何を相手に伝えたいのか」「自分は、何を大切にしたいのか」など、自分の軸を整理する時間を取るようにしています。

このように1人で考える時間の重要性を学んだと同時に、ゴールの見えない問いを考える時、チームの仲間が助けてくれることを実感したとも思います。自分とは違う考え方を持つチームメイトと話すうち、「こういう考え方もできるのか」という新たな発見や、「自分一人だったら辿り着かなかった答えだな」といった他者とともに考えるからこそ得られるおもしろさを知ることができました。

そして、探究学習を振り返る時、私が一番に思い出すのは、こうして仲間とともに考えたかけがえのない時間のように思います。みんなで一生懸命考えて伝えた発表で、全国大会でグランプリを受賞したこともすごく嬉しかったけれど、それ以上に、あれだけ長い間、同じメンバーで議論しあった時間が、今振り返ると本当に楽しかったな、と思うんです。

授業外でも、朝や放課後に集まって話していたあの頃。

ー探究したテーマについて教えてください。

私たちが取り組んだのは、クエストの「コーポレートアクセス」です。そこでは企業から「ミッション(課題)」が出され、チームを組んで企画を考え発表します。私は富士通のチームで、ミッションが「思いもよらぬものが繋がることで、生きる歓びが溢れ出す新サービスを提案せよ」でした。

「生きる歓びとはなにか」「思いもよらぬものが繋がるとは?」と、半年間ずっとにらめっこしていたので、このミッションは一生忘れないと思います。(笑)

企業からのミッションを深掘りするため、ひたすら付箋に書き出したこともあった。

「やって終わり」ではない。探究は自分の進路にも繋がった

ー高校での探究を通しての学びや気づきは?

立岡:問いが問いを生むことを学び、探究の面白さに気づきました。どんどん掘り下げていく感じがすごく好きで、それで大学も、幅広い学問分野を探究できるリベラルアーツのカリキュラムがある場所を選びました。

大学に入ってからはレポートや授業などで「どうしてだろう?」と思うことに対して図書館で文献を読み漁り、色々な人にインタビューしていきました。例えば、子どもへのお弁当作りに関してインタビューをする中で、日本のジェンダー観を探ってみたり、日本の近現代史の授業で戦争の歴史資料を読んでみたり。自分から生まれた問いから、学びを深めていくことができました。

高校時代に探究の楽しさを経験していたから、「探究していけば、面白い答えが見つかる」という姿が明確になっていました。しかも「また探究したい!」と思っていたのです。(笑)そういう意味で、クエストは「学びの原動力」になっていると感じます。

ただ、ある意味クエストの経験に苦しめられることもありました。クエストは何にも代えがたい瞬間で、あんなに長い時間考えられる時間はそうそうない。賞を取るみたいな、目に見えての成果があるわけでもない。ふと、たまに「クエスト楽しかったな〜。最近そこまで面白いことがないな~」って落ち込む時もあります(笑)

でも目の前のことに一生懸命取り組んでみたり、「おもしろい!」と思うものに飛び込んでみたりすることを繰り返す中で、少しずつクエストにこだわる気持ちが薄れてきました。

生徒は「深い学びまで連れて行ってくれる」先生のサポートを求めている

ー先生のどのようなサポートが印象に残っていますか?

立岡:私の学校の先生方は、私たちが朝や放課後にクエストに取り組んでいるのを「勉強しいや」などと言わずに自由にやらせてくれました。まさに「見守ってくれた」んです。ただひたすら考えるという環境を作ってくれました

一方で、行き詰まり、助けを求めれば、全力で答えてくれました。自分たちの発表動画をyoutubeで作って、他の先生にアドバイスを求めたこともありました。その時、色んな先生が、熱心に答えてくれたのを今でも覚えています。そのおかげで、多角的な視点で自分たちの発表を考えることが出来て、いろんな人に届く発表や探究ができました。

このように先生方はいろいろな働きかけをして、私たち生徒が自然にどんどん探究したくなる場にしてくれていたのだと感じます。

大学入学後、今度は私が、以前自分たちが出場した探究学習の全国大会「クエストカップ」でファシリテーションをする側になりました。中高生に向けてやっているのですが、生徒たちが深く探究できていないときにどうしたらいいか、分からなくなったりもします。

そんなとき、当時先生方にしていただいた関わり方を思い出しながら、深いところに一緒に潜ってくれるダイビングのインストラクターのような人になりたいと思っています。潜っていくのは生徒自身だけど、深く潜っていくために導けるような。具体的にすることは問いかけですが、その問いかけひとつひとつにもこだわりたいです。

クエストカップ2019 全国大会。チーム名は「富士田フジコ」。

まだクエストに参加したことのない人・これから参加する人へ

立岡:とにかく「問い」に対して深いところまでダイブした経験があると、今後の人生に大きく役に立ちます。

深くなっていくにつれ、考え続ける体力がなくなって諦めたくなります。それでも頑張って潜ってみたら面白い所に行きつきます。でも、そのためには周囲のサポートが重要だし、将来、探究を続けるには、「深く探究したことで面白い経験が出来た」という経験が大事だと思っています。クエストはその良い機会になると思っています。

大学生になってからは、毎年2月に開催されているクエストカップでファシリテータ―もしていて、今年で4年目になります。全国の中高生の発表を聞くたびに、毎年自分のクエストカップのことを思い出します。ただ、毎回、自分の中にあるクエストの思い出との繋がりが変わるんですよね。大学1年生の頃は未練があったと感じていましたが、去年は距離が出来てきたなぁとか。だけどまだ今の私に影響があるなぁとか。それに、いろんな生徒が楽しそうに発表しているのを見ると、クエストに夢中になったのは、私だけじゃないんだなぁと思えて、こんな風に探究学習に取り組んだみんなで、未来を築いていけるのが楽しみになります

クエストはすごく贅沢な時間だと思っています。なぜなら大学生になって、自分の考えにあそこまでとことん向き合って7分で発表する機会はなかなかないからです。この貴重な機会を楽しんでほしいです!

クエストカップ2023 全国大会、メニコンの発表部屋にて。

立岡さんが出場した、クエストカップ2019 全国大会の動画はこちら!全国大会の様子がありありと伝わってくるのでおすすめです!

クエストカップ2019全国大会 ダイジェストムービー

西村拓真

東京学芸大学院修士2年。教育と探求社ライターインターン。集団塾講師を3年経験し、「生徒が駆動される瞬間」を探求するようになる。一般社団法人東京学芸大Expl...

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