探究学習、テーマが大きくなりすぎていませんか?「身近なこと」から始める社会課題解決

探究学習、テーマが大きくなりすぎていませんか?「身近なこと」から始める社会課題解決
探究学習入門

「テーマが大きすぎて取り組みづらい…」

「単なる調べ学習になってしまう」

総合的な探究学習の授業で社会課題やSDGsをテーマにすると「貧困」「環境」のようにテーマが大きくなりすぎて、単なる調べ学習で終わってしまうことはありませんか?

実は、社会課題やSDGsに関わるテーマに取り組むには、最初に壮大なテーマを設定するのではなく、生徒たちの「身近な気になること」から社会課題につなげていくことが重要です。

今回は教育と探求社(以下、「探求社」)の取り組みのひとつ、「ソーシャルチェンジオンラインイベント」から、「身近な気になること」がどのように社会課題につながっていくか、2つの事例を紹介します!

「ソーシャルチェンジオンラインイベント」とは
探求社が運営する中高生対象のオンラインイベント。今回は、探究学習プログラム「ソーシャルチェンジ」に取り組む生徒たちが集まり、社会起業家2名から事例共有後、学校を越えて生徒たちが意見交換を行いました。

事例1:「台風で倒れた木を使ってみたい」

「身近な気になること」が社会課題解決につながっていく。

一つ目の事例紹介は、国産木材の良さや利用意義を伝える活動をしている、 前田 彩世さんです。

一般社団法人東京学芸大Explayground推進機構 木育研究所 代表 前田 彩世
「木育ガール キキちゃん」という名前でYouTubeやワークショップ・学校での出張授業を通して国産木材の良さや利用の意義を伝える活動をしている。YouTubeリンク

「倒れているこの木で何か作ってもいいですか?」

前田:木育活動を始めたきっかけは、台風の日に大学の木が倒れていたことです。(笑)

小さい時からおままごとなどものづくりが好きだったこともあり、教授に「倒れているこの木で何か作ってもいいですか?」と聞きました。

ー当時、東京学芸大学の技術科専攻学部4年生だった前田さん。この「ちょっとした日常の関心」が、この後の木育活動にいたるきっかけとなりました。

前田:教授からは、「(この木は)水分を含んでいるから歪むし、乾燥させないとすぐ割れちゃうよ」と言われ、「丸太から木材になるまでに乾燥が必要なのか」と思うと同時に、木についてほとんど何も知らないことに気づかされました。

知るたびに生まれる「なぜだろう?」が原動力に

前田:そこから、木について深く知りたいと思い、林業の方にインタビューに行きました。そこでは木についての興味が深まると同時に、「林業ってこんな仕事なのか!面白い!」と林業の面白さにも気づきました。

本などの文献よりも、実際に木と関わる人からお話を聞きたかったので、色んな人に聞いていきました。話を聞いた後に、また新たな「なぜだろう」が生まれ、それを解決するためにまた聞きに行く、そういったことを繰り返していきました。

何度か行う中で、「これはみんなが知るべきだ」と感じ、木育として伝えたいと思うようになりました。

偶然の中で増えるメンバー

前田:東京学芸大学院に進学した際、偶然出会った同学年の1人が、たまたま森林学科専攻の子でした。そこで自分の活動を紹介すると、共感してもらい、2人で活動するようになりました。

2人で活動していると、活動を聞きつけた後輩が「活動に興味あります。何か手伝えることはありませんか?」と話しかけてもらえるようになりました。

偶然の重なりで、団体メンバーが増えていきました。しかしその一方で、チーム内での課題も出てきました。その課題を解決する中で、チームビルディングやチームマネジメントの力もつきました。

一般社団法人として木育の情報発信

ーそして台風からおよそ10ヶ月後、前田さんは一般社団法人東京学芸大Explayground推進機構 木育研究所の代表となりました。

前田:当初、自分の想いを理解してくれる人はいない、と思い込んでいました。誰かに説明するよりも自分でやったほうが早い、そう思っていました。

しかしながら、仲間の輪が広がり、団体になってからは、自分一人で出来ないことが物凄く増えていきました。自分の得意なことも苦手なことも明確になっていきました。

そういった中で、自分の苦手なことを得意とする仲間が助けてくれたことがあり、その時初めて本当の意味でみんなでやることの大切さに気づきました。今では「人」が大切で、組織運営や、メンバーが成長することに喜びを感じています。

事例2:「同じ福島県出身の人が、面白そうなことをしている!」

「身近な気になること」が社会課題解決につながった2つ目の事例は、紺野 陽奈さん。

東日本大震災をきっかけに発足した、福島県を盛り上げる取り組みを行う学生コミュニティの代表を務めています。

立教大学コミュニティ福祉学部2年 Spread From Fukushima(SFF)代表 紺野 陽奈
高校2年から地域活動に関わり、人生が変わった体験を経て、「学生の『やりたい』に挑戦できる環境を創る」をミッションに掲げた福島最大級の学生コミュニティの代表を務める。

「私も一緒にやってみたい」

紺野:Instagramで投稿を見かけたことが全てのきっかけです。

いつものようにSNSを見ていると、偶然、福島県に関連するクラウドファンディングが目にとまりました。

調べてみると、主催のSpread From Fukushima(以下「SFF」)は、東日本大震災をきっかけに生まれた福島を盛り上げるための学生コミュニティ。私の出身が福島県ということもあり、その団体に興味が湧き、当時の代表にDMを送って、コミュニティに参加することを決めました。

ーまさに「日常の気になったこと」から活動が始まった紺野さん。この後、数々のイベントを企画運営し、SFFの代表を務めることとなります。

福島の学生と地域がつながる運動会を開催

ー2023年8月には、郡山市との共同開催で、福島の学生と地域がつながる体育祭を開催しました。

紺野:体育祭を開催することになったきっかけは、SFFメンバーとのワークショップでした。「1年間で1,000人の学生がコミュニティに入るには?」という問いと向き合い、その答えを出すために、「私たちが同じように団体やイベントに参加する時に、求めていたことはなんだっけ?」と自分と向き合っていきました。

その時、「学生は自由で楽しく過ごせる時期なのに、なぜわざわざ解決すべき課題があったり時間的拘束がある課外活動に取り組むのだろう」という疑問が出てきたんです。それは私たちが活動する理由につながる問いでした。

あえて大変なことに取り組む人たちのことを考えてみると、そういった人たちにはまず最初に、強いワクワクがあり、その先に人や社会につながっていくことが大事にされていることに気づきました。そこで、「もっとワクワクしたことをやろうよ」という話になり、体育祭イベントが生まれました。

200人の学生団体の代表へ

ーふとしたきっかけから参加したコミュニティ。現在、紺野さんはSFFの代表を務めています。

紺野:活動をする中で、イベントが生まれ、そこからクラウドファンディングなどに、広がっていきます。活動をするからこそ学べることや、得られるものが多くありました。

また、コロナ禍を経験したからこそ、オフラインのリアルなつながりを大切にしたいと思えるようになり、体育祭のイベントなどもリアルな出会いにつながりました。

生徒の声「将来の夢、日常から考えることに感動」

以上、「身近な気になること」がどのように社会課題につながっていくか、2つの事例を紹介しました。

参加した中高生のみなさんは、「身近な気になること」の探究が、将来の夢ややりたいことにつながることに感動された様子でした。以下、実際にイベントに参加した生徒の声をご紹介します!

「自分では知らなかった観点に気づくことができた」

「将来の夢について、職業からではなく日常から考える方法を知ることができた」

「将来の夢に対して、どうすれば答えが見つかるのかというヒントが一個、一個参考になった」

まとめ

社会課題やSDGsに関わるテーマに取り組むには、最初に壮大なテーマを設定するのではなく、生徒たちの「身近な気になること」から始めることが大切です。そうすることによって、生徒たちは自分ごととして問題をとらえ、課題を解決しようとしていくことができます。そしてそうした活動が、社会課題解決につながっていきます。前田さんと紺野さんの活動からもその重要性をうかがえたのではないでしょうか。

生徒と「身近な気になること」に注目して、そこから探究活動を始めてみてはいかがでしょうか。

社会課題に、生徒たちが等身大で向き合える!
探究学習プログラム 「ソーシャルチェンジ」はこちら

西村拓真

東京学芸大学院修士1年。教育と探求社ライターインターン。集団塾講師を3年経験し、「生徒に軸を育む」ことがミッションになる。その他、N/S中等部・高等学校イン...

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