制限をかけていたのは教員自身かもしれないー浦和麗明高等学校のクエストエデュケーション導入事例

制限をかけていたのは教員自身かもしれないー浦和麗明高等学校のクエストエデュケーション導入事例
先生インタビュー

浦和麗明高等学校では、探究学習プログラム「クエストエデュケーション(以下クエスト)」を2017年より導入し、現在4年目をむかえています。

今回は、浦和麗明高等学校教科指導部長 猪野良靖(いのよしやす)先生に、クエストと出会ったきっかけから、導入の経緯、そして実施の様子について、お話をうかがいました。

クエストエデュケーションを知ったきっかけ

ークエストを導入しようと思ったきっかけはなんですか?

総合的な学習の時間でプログラムを作ろうとしていたときに、前任の教科指導部長に紹介してもらい、クエストの存在を知りました。

4年前に「公職選挙法」の改正により選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられました。ちょうどその時期に本校で宙ぶらりんな状態になっていた「総合的な学習の時間(現:総合的な探求の時間)」を活用して、「有権者教育」をテーマに3年間を通したプログラムをやってみたいなと思っていました。その中で、1年次は職業・労働・お金など「世の中を知る」ことをテーマに掲げ、学校にいながら社会や企業と関わる体験ができたらいいなと思い、クエストに行きつきました。

ーそれまで探究学習はどのようにされていたのでしょうか。

各担任の先生の裁量で実施する、となっていましたが、正直探究学習は「0(ゼロ)」に等しい状態だったと思います

導入するときに大変だったこと

制限をかけていたのは教員自身かもしれないー浦和麗明高等学校のクエストエデュケーション導入事例

ークエストを導入しようと思ったときに、障壁となるようなものはありましたか?

今振り返ると、導入における最大の障壁は、決定権を与えられていた私自身だったと思います。

言い方は悪いですが「クエスト=得体のしれないもの、先が見通せないもの」と思っていたので、導入の際はそのような恐怖感や「しっかり指導できるか」不安でいっぱいでしたね。

ーそうだったのですね。何がクエストを導入しようと決意した決め手となったのでしょうか。

クエストに対する恐怖感や不安よりも、変化の激しい今後の未来に対する恐怖感や不安の方が大きかったからだと思います。そんな今後の時代を生きていく生徒に、私は何ができるのか、何もできていないと思ったとき、とにかく「何かはじめなきゃ」と。

導入の際に、他の探究学習のプログラムも検討しましたが、「未来はこうなる」という押し付け感が強く、私はあまり好きではなかったんです。クエストは押し付け感なく、ただ課題を自由に考えるというのがいいなと思いました。

それで、新しい学びの形として「クエスト」を導入しようと決めました。周りの先生も、私と同じように不安がっていましたが、「何かはじめなきゃ」という想いに共感し、協力してくれました。

実際に「クエスト」に取り組んでみて、導入当初に私の感じていた恐怖感や不安は、ネガティブな「先入観」だったのかなと思いました。可能性を否定するような「先入観」を持つことはいけないと、反省しています。

ーはじめはどのようにクエストに取り組んだのでしょうか。

クエストには指導ガイドもついていますが、クエストを実施するための資料を独自で作成しました。よく先生方が研究授業などで作っているような、学習指導計画やこういった声掛けをしよう、というものをできる限り箇条書きにまとめたものです。

最初は、他の先生方を巻き込んでしまったという意識が強かったので、巻き込んでしまったからには、できるだけ労力をかけないようにする、という気持ちが強かったです。

しかし、今思うと、それはあまり良くなかったかもしれません。「クエスト」の良い意味での「余白」や「遊び心」を私が制約してしまっていたと思いました。計画に従ってしっかり取り組ませるのではなく、担当する教員が大きな裁量権を持って、状況や生徒の様子を見ながら自由に進めていくべきものだと思っています。

ー導入においては、金銭面での障壁はなかったのでしょうか。

そうですね、お金がかかるものですので、若干いやな顔をされることもあります。笑

クエストの学習成果を発表するための学校行事として、1年次に各クラスの代表チームを集めて「プレゼンテーションコンクール」を開催しています。また、この経験を生かして2年次にもコンクールやポスターセッションを行っています。このような行事は、同学年・他学年の生徒はもちろん、保護者や一般の方々にも見てもらうことで、生徒たちには良い刺激になっていると思います。

そのような行事に向けた生徒たちの様子を見て、先生や保護者の多くがクエストの必要性を感じてくれていると思うので、現段階でお金を理由にやめるということは考えていないですね。

実際にクエストを実施してみて

ークエストを行ってみて、感じた変化はありましたか。

先生の意識が変わったな、と感じています。

他のクエスト導入校の話を聞くと「子どもたちが変わった!」というようなことが多く言われますが、私は本校においては、その点について明確に判断はできないですね。正直、分かりません。ただ、肌感覚ではありますが、生徒よりも先生方の意識が変わった、生徒を見る目が変わったと感じています。

ー先生の見方はどのように変化したのでしょうか。

こんなことができるのね、というように生徒を見るようになりました。「どうせできないでしょ」「無理でしょ」と思っていたことがあっても、生徒たちにやらせてみたら、できるじゃないですか。

そうした先生方の意識の変化により、良い意味で先生が生徒の「ストッパー」でなくなったことで、生徒たちの「ストッパー」が外れたように感じます。

ー生徒たちのストッパーが外れたというのは、どのようなところに感じられていますか。

全部の生徒をみているわけではないからなんともいえませんが、こんなことを言ってもいいんだ、こんなことをやってもいいんだ、という遊び心が出てきたと感じています。作業をしていたり、授業していたりすると、そう感じるところがあります。

私立学校なので、校則で「あれはだめ」「これはだめ」と言ってしまうことが多々ありますが、それは良い面もあれば悪い面もあるんですよね。

歴史を見ても、例えば江戸時代に文化・文芸が発達したのって、政治の規制が緩んだ時期じゃないですか。やはり、ある程度の自由があってこそ時代は発展していくと思うし、その発展を担う生徒を、言われたことだけに従い、吸収していくだけの「スポンジ人間」ではなく、「遊び」を通していろいろなことを知り、気づき、他者に助けてもらいながら課題を解決していく人になるよう、我々は微力ながら導いていかなければいけないと思います。

ークエストを導入して今年で4年目ですが、クエストの位置づけに変化はありますか。

「クエスト」を含めた3年間のプログラムの最初の目的は「有権者教育」という部分が濃くありました。しかし、その後、いろいろな文献を読んだり研修を受けて、変化の激しいこれからの未来を生き抜く力、「Adapt to Changeする力」を生徒に身につけさせることを新たな目的としています。

そうしたところにおいて、本校でのクエストの必要性は強くなったなと思います。

ー今後やっていきたいことについて教えてください。

普段接しない人たちとたくさん関わる機会を作ることです。

2年前のクエストカップ全国大会に出場したとき、生徒が堂々とプレゼンをする姿以上に、他校の生徒と積極的に会話をし、意見交換をする姿にとても驚きました。引率した4人の女子生徒は皆、学校では大人しく活発に意見を言う子たちではなかったのですが、自分の思いや考えを相手に伝えようとしていて、相手の話から何かを吸収しようと誠実な態度で耳を傾け、頷いていました。

現地で解散する前に、「なんで予選敗退となってしまったと思う?」と生徒に聞いたら、4人がそれぞれ自分の気づいたことを話してくれて、お互いの気づきからまた新たな気づきが生まれて、次はこうしたらいいんじゃないかと自分の意見を真っすぐに伝えてくれたのです。私の想定をはるかに超えた4人の学びを目にして、「無理だろう」「話せないだろう」という先入観で生徒を見ていた自分を恥じました。

4人は懸命に、その場にいる他校の生徒に負けないよう「背伸び」をしていたんだと思います。部活での他校との練習試合って、練習よりも得られるものが多いし、練習の質を高める経験を積むことができる場だと思います。他校のチームや生徒から刺激を受けるのと同じで、「背伸び」する経験って、大事だと思います。学校でもこのような経験を作り出すことは不可能ではないと思いますが、あえて生徒を学校の外に引きずり出して、多くの「背伸び」体験をさせることで生徒を刺激し、いろいろな人と関わり、考えを吸収する場を生徒に提供できたらいいなと思っています。
わからないことを教員自身が「やってみよう」と思えるかどうか。

ー最後に、ひとことお願いします。

先の見えない社会を生きていく子どもたちにとって、「21世紀型能力」は必須のスキルと言われています。

しかし、そのスキルを磨く場である学校でやっていることって、昔も今もほとんどかわっていないと思います。ただ、学校の中ですべてを身につけさせるのって、現場で働く身としては正直難しいとも感じています。ましてや、私を含め教える側の先生自身にそのようなスキルが身についているとは言えないですし。

でも、先ほどの「背伸び」のような多くの経験を積ませる場を、学校内外で生徒に提供することはできるんじゃないか。教えることはできないかもしれないけど、お手伝いくらいはできるんじゃないかと思っています。教えることができないなら、まずはクエストという「まだ見ぬ可能性」に一緒に挑戦して、一緒に学べばいいんじゃないかと思うようになりました。

これからの未来がどうなっていくか予測はできても、はっきりとした「正解」なんて分からなじゃないですか。でも、「正解」を生徒に教えてきた先生は、その教える「正解」が分からなくて困っている。そして、それがストッパーになって、新しいことへのチャレンジを躊躇している。生徒にチャレンジを求めるのであれば、先生もチャレンジすべきだと思うんです。生徒に時代の変化に対応することを求めるのであれば、先生だって対応しないとダメじゃないですか。議論だけするよりも、こういうマインドの方が大事だと思うんです。

結局、クエストをやってみて分かったことは、何度取り組んでも「クエスト=得体のしれないもの、先が見通せないもの」であることです。でも、こういう時代を生徒には楽しんで生きていってほしいと願うなら、先生だって楽しんでいかないと、少なくとも「楽しむふり」くらいはしないとかもな、と思います。分からないことを皆で楽しんでいくのが、これからの時代だと思っています。

浦和麗明高等学校
教育方針
自主自立の精神を養い、自ら学び自ら考える力をはぐくむ
確かな学力と規範意識に基づく豊かな社会性を養い、たくましく生き抜く力を育む
思いやりの心や個性を伸ばし、一人ひとりの夢や希望を育む
http://www.eimei-urawareimei.ac.jp/reimei/

 

教育と探求社 開発部 佐藤 瞬

上智大学大学院総合人間科学研究科教育学専攻博士前期課程修了。大学院在学中に、青年海外協力隊として中米・ベリーズに小学校教員として派遣。2年間の勤務後に、公立...

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