半信半疑で始めて、体感した生徒の変化 ー新潟県立津南中等教育学校のクエストエデュケーション導入事例

半信半疑で始めて、体感した生徒の変化 ー新潟県立津南中等教育学校のクエストエデュケーション導入事例
先生インタビュー

新潟県立津南中等教育学校では、探究学習プログラム「クエストエデュケーション(以下クエスト)」を2017年より導入し、現在4年目をむかえています。

今回は、新潟県立津南中等教育学校、教務主任 小山尚之(こやまひさゆき)先生に、クエストと出会ったきっかけから、導入の経緯、そして実施の様子について、お話をうかがいました。

クエストエデュケーションを知ったきっかけ

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ークエストを知ったきっかけを教えてください。

私は以前、新潟県立国際情報高等学校(以下KJ)で数学の教員をしていたのですが、そのときにクエストを知りました。

2013年度、KJでは「海外大学進学コース」を立ち上げることになりました。それに併せて何か活動を取り入れたいという話があり、ある先生が持ってきたのが「クエスト」でした。「これからはこういうもの(探究)も必要じゃないか」ということで、総合的な学習の時間の一部に、探究学習として取り入れることになったのです。

最初は私も半信半疑というか、「どうなのかなぁ」と思って始めたのですが、やっていくうちに生徒の取り組み方や姿勢、考え方などがどんどん変わっていって、だんだん「これはいいな」と思うようになりました。自分のクラスからクエストカップ(※年に一度開催している、クエストエデュケーションに取り組んだ学校、生徒が一堂に会す全国大会。 )に進出し、「企業賞」を頂いたということもありました。生徒のみならず、我々教員も成長でき、保護者の方々にとっても相当よかったと賛同を得られました。

ーそうして、新潟県立津南中等教育学校(以下津南)でも、クエストを始められたのですか。

そうなんです。2016年に津南に転勤してから、こちらでもクエストをやりたいと思い、学年主任となった2年目の2017年に動き出しました。

津南ではそれまで探究学習をやっておらず、他の先生方や保護者の方々にクエストを紹介したときも、はじめは「なにそれ?」という様子でした。その頃は今のように探究学習が注目される前というのもあったと思います。

しかし、以前の学校でクエストを実施した経験から、私はどんなものか分かっていたし、津南中等教育学校でもやって、生徒の変容・成長を見てみたいと思ったので、ぜひ取り入れたかったのです。生徒は将来多分こう変わるんじゃないかなぁと。

まず、やってみるのでお願いしますと同僚や保護者の方々、校長先生や生徒たちと話して、クエストを導入することになりました。生徒は始めからのってくれて、良いスタートを切ることが出来ました。

導入するときに大変だったこと

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ークエストエデュケーションを導入しようと思ったときに、大変だったことはありますか?

そうですね、困難だとは思いませんでしたが、最初はみんな「探究」というものがどのようなものかをイメージできていなかったので、その説明をすることが必要でした。クエストをやる同意を得ることが、1番大変だったかなと思います。

ーどのようにして周りの方々の理解を得られたのでしょうか。

まずは、クエストや探究活動そのものの説明をしました。クエストカップの今までの動画がオンライン上にたくさんありますよね、それを見せていったんです。そうしたら「ああこういうものなんだね」という風に、イメージを共有することができました。それに加えて、自分がKJで教えた子たちがクエストカップで発表した動画も見せました。

新潟の子どもたちはすごく静かで、あまり自分の意見を外に発信しないので、彼らがこんな風に発表するなんて、私もクエストカップに行くまでは想像できなかったのですが、すごく堂々と発表していて…、生徒が具体的にどのように変わるのか、クエストを実施することでどんなことが起こるのかを話しました。

津南の先生方もそれを見て、「うちの学校はこんな風にはならないよね」、と始めは言っていたのですが、取り組んでいくうちに変わってきて、最終的にはそうなったんです。
生徒たちがいきいきとしているのを見ていると、こちらも嬉しくなりますよね。

ー公立の学校では、「やりたいけれど、最初の予算がとれず難しい」というお話も伺いますが、周りの先生や保護者の方々はどのような反応だったのでしょうか。

そうですね、公立ですし、正直潤沢なお金がないので、始めはちょっと気になるところもありました。「それをして、なにかになるんですか。」と言われたこともあり、気にする先生も保護者の方々もいたし、ハードルはあると思います。

最終的にはめぐりめぐって生徒たちの力になるけれど、それこそ今ほど探究学習が注目されてもいなかったので、どんな意味があるんだろうと思われる方もいたと思います。
しかし、半信半疑でも始めて、生徒の変化を一緒に目の当たりにして、生徒たちが卒業するとき、保護者の方々から、「本当によかった」と感謝の言葉をいただいて、クエストをやってよかったなと思いました。

実際にクエストを実施してみて

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ー初めてのクエストの授業は、どのようにして行われたのでしょうか。

はじめは、私がひとつの学年の探究学習をクラスを超えてすべて合同で行いました。生徒たちの企画の中間発表など、他の学年の先生や生徒も見に来てくれて、少しずつ様子がわかっていったと思います。
今は、クエストは津南の探究学習の柱の一つになっていて、クエストを経験された先生も全体の1/3ほどになりました。もちろんまだクエストの授業をされたことがない先生方も、みんなクエストのことを知っています。

今年は中3の学年で、週1コマ実施しています。去年までは、夏休み前後の期間に午後2、3時間、まとめて時間をとって探究したり、放課後に行うこともありました。

ー実際にクエストを実施してみて、いかがでしたか。

教員の観点からすると生徒の成長が本当によく見えました。企業からの課題に対して企画を考えたりするもので、私たち自身も答えがわからないというのもありますから、先生自身もとても成長させてもらっています。ファシリテーターであるはずの先生がむしろ熱中してしまう場面もありますね。笑

答えがないので、何がベストかがわからないから、どこまでやっていいのかがわからない。そういうところがありますが、これが逆に良く、生きる力の育成に繋がって、より深く最適解を探る・考えることになり、それがよかったなと思います。あとは、生徒たちのコミュニケーションが随所で生まれたのもよかったですね。

ー生徒たちのコミュニケーションにどんな変化があったのですか。

好きとか嫌いとか、仲がいいとか悪いとかではなくて、様々なタイプの人とコミュニケーションをとるように、とれるようになりました。クエストを通して、チームのメンバーでブレストだったり議論を深めたりするので、面と向かって意見を出し合えるようになりましたね。これはすごくよかったなと思いましたし、生徒たち自身もそれは言っていました。

実は私が持った学年は、男女の仲が最悪だったんです。男と女で口をきかないというような。しかし、クエストを始めたら途中からはそんなことも全くなくなりました。互いに意見を出して議論せざるを得ないから、関わっていくきっかけになったんですね。

中にはなかなか話せないというチームもありました。クエストを始めてから3か月ほどたっても、チーム内でろくに相談もできません、というようなこともありましたね。しかし、最終的にはそれを時間がかかったにせよ、何とか乗り越えることができて、本当によかったなと、生徒のコメントでもありました。

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ー中間発表のときにばらばらになっていたチームが、最終発表の時には力をあわせて発表していたこともありましたね。

そうなんです。そういう本心でのぶつかり合いを、今の子どもたちって避けがちだったと思います。
お互いのことを批判したり否定するわけじゃないけれど、建設的な意見を言ったり、本当はもっと良い方法があるのではないか、と向き合うことが、なかなか難しそうでした。でもそうした少し伝えづらいようなことも伝えたり、前よりうまくコミュニケーションがとれるようになったなぁと感じています。

ー生徒たちがみんな意欲的ですよね。授業が終わった後、生徒たちが「質問いいですか」とわっとくる様子を見ていてすごいなぁと思いました。

そうした前向きに取り組む姿勢は引き継がれつつありますよね。

生徒たちは、クエストに取り組む先輩方や先生の姿を見ていて、なんかいいなと感じたのだと思います。「いいなと思ったので、自分たちもこうやろうと思います。」といったコメントも実際にありました。
クエストをやってからだと他の探究学習もやりやすくて、英語の論文であったり データサイエンスのことを取り上げたり、他のビジネスコンテストで使うような収支決算なども、生徒がクエストを体験してからやると花が咲くと感じています。クエストは探究学習の導入としてはベストだと感じていて、今後も続けていけたらいいなと思っています。

想いや熱を共有しながら進化していきたい

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ー最後に、ひとことお願いします。

そうですね、教育と探求社もクエストエデュケーションも常に進化しているので、我々も負けずに進化しなきゃいけないなと思います。

今まさしく外的要因から変化しなければならない時代です。企業の方々や教育と探求社の方々と学校が繋がることは、生徒たちにとっても私たち教員にとっても、普段と違う風を感じる大きな機会だと感じていて、このような刺激を地方にも多く広めてもらえたら嬉しいです。

プログラムなど物理的なものもそうですけれど、想いだったり熱だったり、そこに込められているものを提供していただいて、そして、我々もそういう想いや熱を共有しあって、ということを、お互いにしていけたらと思います。

新潟県立津南中等教育学校
津南中等教育学校は、平成18年4月に津南町に開学した、新潟県で4校目の中等教育学校です。豊かな自然に囲まれた環境の中で、6年という月日をかけて、一人一人が「夢」を見つけ、 それを「実現」することを目指しています。
http://www.tsunan-jh.nein.ed.jp/

学校コーディネーター 岡本 剛

1987年生まれ。様々な職業を経て北陸の私立高校に入職。会計担当の後、事務長として予算編成、施設計画、組織開発、キャリア教育プログラムなど学校改革の様々な業...

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