「教え込む」が通用しない…。探究学習で知った教師の新たな役割。 福山市立城南中学校 平洋太先生
広島県福山市では、主体的、探究的な学びから問題解決力を育む「21世紀型教育」を目指す「福山100NEN教育」事業に取り組んでいます。
改革の一つ「自ら考え学ぶ授業づくり」を実践するために、2019年度から市内の公立中学の一部で「クエストエデュケーション」を展開。実践校には、初年度の導入研修費やコーディネート費を市教委の予算で措置し、生徒1人当たりの教材費は各校で学校徴収金の副教材費で賄っています。
探究学習に面で取り組むうち、地域の企業や伝統資源にかかわるカリキュラムを独自に作る動きも生まれているそうです。
実践校の一つ、城南中学校では、2020年度から中学1年の総合的な学習の時間でクエストに取り組み、クエストカップ2022 全国大会で企業賞を受賞するチームも出てきました。探究学習を担当する平洋太先生に、これまでの取り組みについて伺いました。
生徒が投げてくる想定外のボール
城南中が取り組んでいるのは、企業の社員と連携して取り組む「コーポレートアクセス」。4〜6人のグループで、企業から渡されたお題(ミッション)をもとに、オリジナルの企画を考えます。
ーー少し前まで小学生だった生徒たちは、漠然とした「ミッション」をどう解釈し、具現化していったのですか。まずはブレストでアイデアを出し合うところから、ですよね。
平:最初はミッションの意味が呑み込めない生徒もいて「どういうこと?」と首をかしげていました。
ミッションを理解してもらうために、まず各企業の担当者が語る動画を観てもらいました。「すごく難しいテーマだ」と頭を抱える生徒もいれば「すごい簡単だ、ヤッター!」という生徒もいました。でもいざ考え始めると「あれ? 簡単だと思ってたけど、難しくない?」となっていったようですが。
「(頭に浮かんだものを書き付けた)付箋をたくさん貼っていこうよ」と呼びかけたのもあって、楽しそうに付箋をバーッと貼っていきました。台紙代わりの模造紙からはみ出し「先生、どこに貼ればいい?」と言われるほど膨大な量になって、整理が大変でした(笑)。
――付箋に書かれた生徒のアイデアはどうでした?
平:ハッとさせられるのもありました。
例えば、博報堂のミッション(「キミの疑う力」から世界をつくり変える新しい教科を提案せよ!)の「疑う」に反応して「SDGs」という付箋を貼り付けた生徒がいました。
僕は「疑う」と「SDGs」がつながる理由が最初分からなくて、その生徒に意味を尋ねたんです。そうしたら「僕たちが当たり前と思っていることが、全然知らないところでは問題になっている。だから僕たちの『当たり前』を疑わないといけないんだ」と。
ーー生徒が投げてくる「想定外」のボールですね。
平:予期していない答えが出てくるのは楽しいので、こういうのは大歓迎です。自分の担当教科でも知らないことってたくさんありますから。タブレットで「じゃあ、一緒に調べてみようか」となれば、僕自身、すごく勉強になります。
「期待する答えや意図」を読み取ろうとする生徒。そのとき担任は…
――コンセプトを固めて企画に落とし込む段階は、煮詰まることも多いプロセスだったと思います。
平:そこがやはり難しくて、子どもたちも停滞していました。僕は僕で、そんな状況で教員は何ができるかを一生懸命探していました。子どもたちに答えを探してもらいつつ、「こうじゃない?」とファシリテートできるところがないだろうか、と。
――そんなときも「教えない」という立場をとり続けるわけですか。
平:そうです。
生徒たちは、僕が考える「答え」を言ってほしかったようです。僕の言動から「僕が期待する答えや意図」を一生懸命読み取ろうとする様子が伝わってきました。それこそ「正解探し」ですよね。
でも僕はそもそも何が「正解」かなんて、自分でも分からないまましゃべっていただけです。そういう僕の姿が、生徒からすると「なんで言わないん?」ともどかしくて、イライラしていたかもしれません。
「君たちに答えを出してほしい」と思っていたのですが、このあたりがなかなか伝えられなくて、つらかったです(笑)。
何気なく口にしたアイデアで抜け出した停滞
ーー探究学習への向き合い方はどうでしたか。
平:生徒によって、さまざまです。
出会ってしまった「好き」にはまり込んだチームだと、家で調べてきた子が「調べたらこうだったんじゃ」と持ちかけて。そこからブレストが自然に始まって、大人も知らないような知識もボンボン出てきて。
そうなるともう、僕が入る余地なんてありません。「余計なことをしない方がいいな」と、少し引いたところから「わぁ、すごい」と当たり障りのないリアクションをしていただけです(笑)。クエストカップ全国大会に出たチームもそうだったようで、担任の先生は「私は分からなかったから、本当に何も言えなかった」とおっしゃっていました。
でも、熱量が高い生徒ばかりではありません。10月頃になると、考えるのを諦めてしまったような子も出てきました。もうお手上げ……と話し合いの場でダラーンとしているような。
そんな子に声をかける子もいるんですね。「ちょっと一緒に頑張ろうや」って。声をかけられた子が「じゃあやるか」「オマエが言うならやるよ」と、戻っていく様子も目にしました。
ただ、諦めたといっても、何もしなくなるわけではないんです。生徒たちが何気なく口にしたアイデアで、停滞から抜け出せた場面もありました。
先ほどの「疑う」に「SDGs」を結び付けた生徒のチームもそうでした。最初の提案には「SDGs?単語は聞いたことあるけど」程度の反応で、正直ピンときてなかった子もいました。
そこからSDGsの目標の一つ《質の高い教育をみんなに》を掘り下げるなかで、「学校に行けない子がいるんだよ」と聞いた生徒が「じゃあ《教育》と《疑う》を扱う授業をやれば、生徒が将来の夢を考えるようにならないかな」とパッと返したんですね。
その意見に、熱心にやっていた生徒も「あ、確かに」と腑に落ちたようで、そこから「《疑う》力を使いながら、将来の夢に向かって頑張る教科」の提案につながっていきました。
ーーチームの一つがクエストカップ2022全国大会で、富士通の「企業賞」を受賞しました。
平:受賞した生徒たちは相当嬉しかったようで、担当の先生に「やったよ、先生!」「俺たち、スゲーでしょ」とずっと言ってました。セカンドステージでは、審査委員長につっこまれたことが悔しかったようで「違う、僕らが言いたかったことはそういうことじゃない」と、ずっと言い続けていました。そういう経験も含めてすごく学びになったと思っています。
「そもそも」「なぜ」「どうして」で深める問い
――1年を振り返って生徒の様子はどうでしたか。教員としてお気づきになった点もあれば。
平:生き生きしていた子たちが多かったと思います。いつもの授業ではやらないようなことを、自分たちで好きなようにすすめられたのがすごく楽しかったようです。主体的な学びが好きな子は本当に好きなんだな、と知ることもできました。
城南中では、探究学習ならではの「答えのない学び」を進める際に「そもそも」「なぜ」「どうして」という言葉を、問いの入り口にしています。その視点を持つということは、こういうことなのかと、わが身をもって学ばせてもらいました。特にファシリテーターとしての教師の役割を学べたのが大きかったですなぜその視点を持つということは、こういうことなのかと、わが身をもって学ばせてもらいました。
特にファシリテーターとしての教師の役割を学べたのが大きかったです。2020年度に城南中に異動するまでの僕の授業スタイルは、どちらかというと、自分が話すのが中心の「教え込む」スタイルでした。でも城南中では、そのやり方が通用しないと感じることが多くて。
「変えないといけないな、でもどうやって変えたらいいのかな」「主体的に学ぶって、どういうことなんだ?」と模索していました。今でも教えるべきところはしゃべっていますが、生徒が考えたり話したりする時間を、だいぶ増やしました。試し試しではありますが、学んだことを自分の授業にも活かしているところです。
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「そもそも」「なぜ」「どうして」で深める。福山市立城南中学の探究の試み
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