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【クエストカップ審査委員インタビュー】「これで終わりにせず、自分の将来や進路につなげてほしい」児美川 孝一郎先生 法政大学キャリアデザイン学部 教授

【クエストカップ審査委員インタビュー】「これで終わりにせず、自分の将来や進路につなげてほしい」児美川 孝一郎先生 法政大学キャリアデザイン学部 教授
社会人インタビュー

2021年2月20日~28日の8日間にわたり開催されたクエストカップ2021 全国大会。全国28都道府県、応募総数3,587チームと数多くのエントリーをいただき、大会では優秀賞209チームが発表し、ついに各部門グランプリ受賞チームが決定して幕を閉じました。

たくさんの素敵な発表の中からグランプリを決定する審査は、いったいどのように行われていたのでしょうか。

今回は、企業からのミッションに挑戦する企業探究部門「コーポレートアクセス」で、グランプリ審査委員を担当いただいた、法政大学キャリアデザイン学部 教授の児美川孝一郎(こみかわこういちろう)先生に、審査をとおして感じたこと、審査の裏側をお話いただきました。


児美川 孝一郎
法政大学キャリアデザイン学部 教授

1963年生まれ。東京大学教育学部、東京大学大学院教育学研究科博士課程を経て、1996年より法政大学に勤務。2007年より現職。 専門は、教育学(キャリア教育)。 日本教育学会理事。主著に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂),『まず教育論から変えよう』(太郎次郎社エデュタス)、『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、『若者はなぜ「就職」できなくなったのか』(日本図書センター)等。
カップサイト審査委員からのメッセージ


審査の裏側「最後の1分前まで議論」

審査の様子。右から2番目が児美川先生

児美川先生は、10年位前からクエストカップに関わってくださっていますね。今年のコーポレートアクセスはいかがでしたか。

みんな考え抜かれていて、よくまとまっていました。調査をして、自分たちでよく議論して視点や視野広げてきたなと感じましたね。

ひとつポイントがあるとすれば、もっと枠組みを外して、大胆になってみてもいいかもしれません。かたちにとらわれずに生徒のみなさんが直に訴えるものを、もっと見てみたいです。

グランプリを決める審査は、どのような様子だったのでしょうか。

コーポレートアクセスでは、ファーストステージで12社各社の企業賞を決定し、セカンドステージでグランプリおよび準グランプリを決定しました。例年のことですが、審査委員同士で意見が割れて、最後は時間ぎりぎりまで議論していましたね。

審査委員の間で評価や意見が割れたとき、どのように決めているのでしょうか。

意見が割れてどうしようかとなったときには、「じゃあ、どの観点を重視しましょうか」という話になります。

「このチームがよい」という背景にはそれをみている観点があって、また別の観点でみると他のチームがよかったりする。チームとチームの争いというよりかは、どの観点を重視するか、そこの話なんですよね。

一度決まれば皆すっきりするのですが、それまでは最後の1分前まで、審査委員も自分の主張を持って粘っています。

私は今回初めてグランプリを決定する審査に立ち会わせていただいたのですが、すごかったです。こんなにもバチバチ、真剣にぶつかりあってくださっていたのか、と感じました。

そうですね。審査委員同士で議論していくうちに、それぞれが最初に持っていた各発表への印象も変わっていったりします。審査の時間の始めと終わりでは違う考えになっているということも起こります。

そうしたやりとりのおかげで、審査委員の中でも作品の見方が深まっていくということがありますね。それがまた面白いところだと思います。

そんなふうにして決めているので、正直に言うと審査員が違えばまた違う結果になると思います。賞に選ばれたからよかった、選ばれなかったからよくなかった、ということではないんですね。

「今回こちらを受賞作品として選びました、その基準や観点はこうしたものです」ということはできますけれど、別の角度から見たら、また違う作品が浮上してくるかもしれない。探究活動としては、それはそうだろうなというところですよね。

審査委員その人の課題観だったり、どこを大事にされるかといったことだったり、それぞれが覚悟をもって賞を決めてくださっているということ、改めて感じました。

企業の志を感じた「企業賞」

児美川先生には、セカンドステージでグランプリおよび準グランプリの審査に関わっていただきました。セカンドステージに進出してきたチームは、ファーストステージで各企業の方によって選ばれたチームでしたが、選ばれたチームの共通点だったりなにか感じることはありましたか。

ファーストステージを見ることができていないのでなんとも言えないところもありますが、例えば、吉野家ホールディングスが企業賞として選んだ⻑野県上⽥千曲⾼等学校のチームは印象的でしたね。

⻑野県上⽥千曲⾼等学校 チーム名 「チーム⽜さん」 作品タイトル「吉野家の可能性」▶動画(1:16:15~)

彼らは摂食障害の人たちを対象にした吉野家のサービスを提案していて、「飲食業なのに摂食障害?!」みたいな。あれはね、発表した生徒さんたちの思いもすばらしかったし、それを企業賞に選んだということに企業の志を感じました。

「企業にとって見栄えがいいチームを選ぼう」ではなくて、企業が生徒たちの発表に自分たちの思いをのせて選んできたっていうのがすごいなと感じましたね。

大人だから正解を持っているのではなく、生徒と企業が未来を「共につくる」。コーポレートアクセスではそうしたことを大事にしながら企業の方とも進めてきたので、そうおっしゃっていただいてとても嬉しいです。

そういう意味で言うと、12社それぞれの企業が選んだチームにバラエティがあって、各企業の色がでているところが面白かったですね。

グランプリ選出の理由と生徒さんへのメッセージ

カルビー企業賞 新潟県 新潟県立津南中等教育学校「チームうすしお」作品タイトル 「ぽて島(じま)?いえ、ぽて島(とう)です」▶動画13:50~

そうした審査を経てグランプリが決定したわけですが、児美川先生がグランプリの発表で「いいな」と思われたポイントをぜひ教えてください。まず、Eグループでグランプリに選ばれた、カルビー企業賞の新潟県立津南中等教育学校「チームうすしお」はいかがでしたか。

彼らの発表には、全体的に夢がありました。

カルビーからのミッションの「すべての命がワクワクする」というのはなんだろうと考えて、「”すべての人々がお腹すいた”を楽しめる世界」というコンセプトを出してきたんですよね。そこの発想の転換がすごく面白いなと思ったし、「あ、この課題をこういう風にとらえたんだ、深めるんだ」とはっとさせられました。

そのうえで、飢餓を救うための、農業のやり方を教える舟「ぽて島」を提案していて。無理なく広げて、無理なく収縮してきて、面白い内容でした。

テレビ東京企業賞 奈良県 西大和学園中学校 チーム名「the smallest」作品名「ようこそ,新⼈類よ。」▶動画44:00~

Qグループでグランプリに選ばれた、テレビ東京企業賞の奈良県 西大和学園中学校 チーム「the smallest」はいかがでしたか。

このチームはいろんなことをきっちり調査した上で「考える」というところに最後の焦点を絞ってきたのと、表現が上手でした。哲学的な問いがあったのが印象的でしたね。「金魚は自分が飼われているという自覚がない、水槽のなかの世界を自分の世界のすべてだと思っている」というフレーズには惹かれるものがありました。

終わった瞬間のインパクトで、「あ、やられたな」って感じましたね。よく掘り下げられていたなと思います。

審査のプロセスで議論しているときには、「いろんな課題もある」とも言われたけど、確かにそう。でも課題のない発表なんてないので。その中では完成度も高いし、もっと深めたり追求したりしたこの先を見てみたい。可能性を感じる発表だったなと思います。

全体的に、「その先を見たい」と思える提案が多かったですね。

それがいいところですよね。1年間の学習の成果だからこれで終わりみたいになってしまいがちだけれど、いや、実はそうじゃない。探求という課題はこれから生きてく中で、ずっとつながっていくわけです。

ここで全国大会に出たチームも、出なかったチームも、そのことによってさらに何が見えたのか。この先に自分たちがやるべきことは何なのか。新しく見えたものがあったら、すごくいいなと思います。

今回挑戦したミッションは企業によって様々ですが、その本質はどれも「我々の社会が抱えている課題にどうチャレンジしていくか、取り組んでいくか」です。そのとき、どういうことを考えなきゃいけなくて、どういう力を付けていかなきゃいけないか、学んできたことをぜひ今後に生かしていってほしいなと思います。

将来につながる「総合的な探究の時間」に

この正解のない探求において、生徒たちに寄り添い続けた先生方にもメッセージをお願いします。

学習指導要領の改訂によって、高校の「総合的な学習の時間」が2022年度から「総合的な探究の時間」になりますよね。

これは文科省的な位置づけでいったい何が違うのかというと、「総合的な学習の時間」は「社会の課題などを課題解決的に考える、学ぶ」ということが軸で、その結果、たまたま自分の将来や進路を考える学習活動がそこに生まれてくることもある、という感じなんですね。

一方で、「総合的な探究の時間」はそうではなくて、「常に自分の進路や将来をどうするかに関わらせながら、課題解決的な学習をやりましょう」ということなんです。ですから、「総合的な学習の時間」よりは「総合的な探究の時間」のほうが、より自分の進路や将来を意識しなさい、ということなんです。

そういう意味では、今回コーポレートアクセスでやったようなことを、「企業からミッションを与えられたからやった」と他人事のように捉えて終わるのではなく、それを最初のきっかけとして、そのミッションに対して「じゃあ自分自身はどうなの」と考えたり、「自分のこれからや自分の将来は?」と、自分の進路や将来とつなげて考えていけるといいなと思います。どのようにそのきっかけを作るか、それを学校の先生方に意識してもらえたらと思います。

課題解決学習でもちろんかまわないし、すぐに直接的に将来の話になるわけではないけれど、でも深めていったら、意外に自分のこの先とも関わる。そうしたことを生徒さん自身が発見できるきっかけを作れたら、さらによいのではないかなと思います。

最後に:一人ひとりにとってどうだったのか

最後に、探究学習やクエストエデュケーション(以下、クエスト)について、感じていることなどあればお聞かせください。

クエストエデュケーションもずいぶん長くやっていますが、ここ最近では、こうした探究学習はすでに教育界の本流になってきたと感じています。だとしたら、そうした中で、本元としてどのようにしていくのか、という一歩先の課題があると思っています。

ひとつは、単発の学習プログラムではなくて、その前後とどう関わらせられるかというのがありますよね。

もちろん1年かけてやるようなプログラムを学校でやってもらうこと自体、とても大変なことだとは思います。ですが本当は、中学から高校までくらいの大きな長いスパンの中で、何をしてきたのかということがあると思うんです。そこにつなげられるかどうかというのが、次のステップかもしれないですね。

あとは審査の結果だけではなく、これまでやってきたことについて一人一人の生徒にフィードバックする仕組み、仕掛けがどれだけあるんだろうかというのは気になるところですね。

チームや学校についてまとまったメッセージはあるけれど、そうじゃなくてもっと個々の一人一人。「関わったみんな、一人ひとりにとってどうだったのか」ということを、生徒さん自身も先生も関わって振り返ることができる仕組みがあれば、それこそ新学習指導要領で言われている「総合的な探究の時間」になっていくのではないでしょうか。

もしかしたら、「終わったあとの振り返り」のコンテストをやったら面白いかもしれないですね。そういう一人ひとりの成長を、きっちり評価してあげられたらいいなと思います。


児美川 孝一郎
法政大学キャリアデザイン学部 教授

1963年生まれ。東京大学教育学部、東京大学大学院教育学研究科博士課程を経て、1996年より法政大学に勤務。2007年より現職。 専門は、教育学(キャリア教育)。 日本教育学会理事。主著に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂),『まず教育論から変えよう』(太郎次郎社エデュタス)、『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、『若者はなぜ「就職」できなくなったのか』(日本図書センター)等。
カップサイト審査委員からのメッセージ


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