「予定調和」な探究を、「問い」で打ち破る。かえつ有明中・高等学校での探究学習事例

「予定調和」な探究を、「問い」で打ち破る。かえつ有明中・高等学校での探究学習事例
先生インタビュー

「生徒が関心を持って取り組める問いを、どうしたら引きだせるのか」「生徒が好きなことを探究するために教員はどんな姿勢で生徒と向き合えばいいのか」と悩んだことはありませんか?

かえつ有明中・高等学校でも、生徒自身が自分の気になる「問い」に向き合えず、「やらなきゃいけない」という気持ちから探究しやすいものを選んでしまう傾向があったそうです。しかし、生徒にとって今何が大事なのかを考え授業に取り入れることで、生徒自身が一番やりたいことを見つけそれに対して取り組むことができるようになりました。

今回は、生徒の「問い」を楽しみながら探究学習に取り組んできた、かえつ有明中・高等学校サイエンス科・プロジェクト科主任の田中理紗先生に、生徒がいきいきと探究するために工夫したことについてお話をしていただきました。

探究に必要なスキル・マインドを育成する

かえつ有明中・高等学校は、東京都の私立の中高一貫校です。深層学習とグローバルな多様性を追求しており、『サイエンス科・プロジェクト科』と呼ばれるオリジナル教科がよく知られています。

田中先生「私たちは、学んだり・探究したり・考えるためには、どんな教科や学びにも共通して必要なスキルやマインドがあると考えています。それを抽出してトレーニングするのが『サイエンス科・プロジェクト科』です。」

『サイエンス科・プロジェクト科』は校内の約半数の教員が担当しており、毎週集まってプログラムを作り続けています。『これが子どもたちの探究や学びに必要だ』と考えながら常に新しくしていくので、毎年カリキュラムも変わっています。

そんな中で、今私たちが子どもたちの探究や学びにとって大切だと考えているのが、社会性や情動性です。スキルやマインドも大事だけれど、それらを身につけるためには感情や情動といった土台が必要と考え、子ども同士の関係、子どもと先生との関係、先生同士の関係にも意識を向けています。

子どもたちが「これ、やりたい!」と思った時に、否定ではなくて、支えることができるクラスや関係作りを大切にしています。」

生徒たちが「やらされている探究」にならないために

かえつ有明中・高等学校が、探究学習の土台作りとして、クラスの関係作りに力を入れはじめたのは、なにがきっかけだったのでしょうか。

田中先生「私たちの学校では、10年ぐらい前は『クリティカル・シンキング(批判的思考)』がこれからの教育では定説になると考えていました。そこで、子ども達に自分なりの問いをつくらせて探究する、大学の研究のような授業を行っていたのですが、なぜかうまくいきません。子どもたちが『やらされている』ような探究、教員がほしい答えを生徒が出してくる予定調和の探究になってしまっていました。

いま考えると、これは、私たち教員が子どもたちに『こうあるべき』を押し付けてしまっていたからだと思います。『ひとつの問いにねばりづよく取り組むべき』と、問いが変わっていくことを許容しなかったり、『最終的に論文の形にしなくちゃ』とフォーマットにこだわり続けたり。子どもたちに対しても、『その問いあまりよくないんじゃない?』『あまり探究が深まってないよね』『ちゃんとやって』と思いながら関わっていました。

その結果、子ども達は『先生がこのフォーマットでやってほしいと思っている』『期限までに提出しなければいけないんだ』と感じ取ります。そして、自分が本当にやりたかった探究をやるのではなく、調べやすいものをテーマとする。やらされ感のある、予定調和の探究になってしまっていたのだと思います。

このような経験があったからこそ、子どもたちが本当にやりたい探究に出会える、『探究の土台作り』が大事だと感じました。」

探究学習の土台として田中先生は、生徒が「こんなことやりたい!」を見つけることができたときに、否定されるのではなくて促進される対話的なクラス作りを意識しているそうです。

「生徒たちの企画に、教員がわくわくさせてもらっている」高校3年生の探究事例

予定調和ではない、本当の探究とはいったいどのようなものなのでしょうか。

「彼らの話を聞くと、私がわくわくさせてもらうんです」と田中先生からの紹介をうけて、高校3年生の松本君、中瀬君に彼らの探究を共有していただきました。

松本君、中瀬くんの探求のテーマは「殺処分をゼロにしよう!」というもの。2人とも犬を飼っていることから、犬猫の殺処分の問題に興味があり今回の探究がはじまったそうです。

特に面白いのは、2人の探究する「問い」がどんどん変化していくこと。「殺処分をゼロにしよう」という問いから、ペット業界について知り、「動物愛護団体とは」「動物が殺されない為にはどうすればいいのか」「どのように付加価値をつけるのか」「アニマルセラピーは必要とされているのか」といったようにどんどん問いが展開し探究が深まっていきました。

松本君「最初の時点では想像できなかったことが起きるなと感じました。老人ホームの方との出会いがあったり、最初とは全然異なる結論に着地したりしておもしろいなと感じました」

田中先生「10年前のように、論文にまとめることばかり意識していたら、彼らの探究の良さを引き出しきれなかったと思います。最初の『殺処分をゼロにしよう!』という問いから、『殺処分されないためにどうしたらいいか』というように、問いが変わっていっていて今の彼らの探究に至っています。もしはじめの問いにこだわっていたら、そこで止まってしまっていたと思う。彼らの試行錯誤こそが素晴らしいと気付かせてもらいました。

『インタビューのために愛知に行く』と急に言い出したときにはびっくりしました!これからも、わくわくした気持ちで進んでいくことを応援したいです。」

さらに、彼らの探究は単なる高校の授業のひとつでは終わりません。

中瀬君「動物の殺処分について調べていく中で、法律が深く関わっていることを知りました。大学で、動物に関する法律を学びたいです。」

松本君「僕はアニマルセラピーが外国と比べて日本では普及していないことに疑問を持ちました。それを日本の課題として捉え、政治面からも探究したいと思っています。」

彼らは今回の探究から新たな問いを見出し、これからも探究を続けていこうとしています。

問いが変わっていくことを前提に探究する

松本君、中瀬君たちのように、生徒たちが自ら関心を持って探究を進めていくためには、どのようにしたらよいのでしょうか。田中先生は、生徒たちの「問い」が変化していくことそのものが探究であるという捉え方が、探究を深めていくことにつながるとお話しされ、中学2年生のクラスで実践した、問いを探究するプログラム『Question X』についてお話いただきました。

Question Xとは?
Question Xは、日常に眠っている些細な疑問に目を向け、「問い」の面白さに気づくことを目標に開発されたプログラムです。全6コマで構成され、最初はカードゲームから始まり、最後は自らの問いを探求するというような流れになっています。

田中先生「『Question X』は、問いが変わっていくことが前提となっています。生徒は1つの問いにこだわるというよりは、次々と問いを更新していく仕掛けがされていました。問いを磨く・問いが変わっていく・問いが増えていくことに焦点を当てて探究していくんです。また、カードゲーム要素があることで子ども達はゲーム感覚で取り組むことができ、自然と問いが生まれてきていたように思います。

ゲームでは子どもたちはいろいろなテーマに沿って問いを作り、お互いが作った問いに即興で答えていきます。そうすると『面白いことを言おう!』とウケをねらう子もいて、大喜利やIPPONグランプリのような楽しい雰囲気になりました。

そんな中だと、普通に授業で『問いを作りましょう』と言っても出てこないような、面白い問いも生まれてきます。『スマホ ライン はさみ』をテーマに問いを作ろう、というときには『スマホの口癖は?』『はさみが生まれたことによってなくなったものは?』といった、つい気になって考えたくなるような面白い問いが出ていました」

田中先生「そうして生まれた問いを、次は子どもたちが『クエスチョンカード』にして、手作りのカードをもって校内を歩き回ります。『スマホの口癖は?』というカードを持って日常を過ごすと、次は『テレビの口癖ってなんだろう?』『テレビ最近みなくなったけどなんでだろう?』と新しい問いが生まれています。

これって、”問いのメガネをかける”ということなのかなと思うんです。日常を”問い”というメガネをかけて問い直そうとすることで、子どもたちにとって初めて見えてくるものや気付くことがある。日常生活が変わってきて、『あ、これはどうなんだろう?』と見つめなおせると感じました」

まとめ

田中先生は「問い」の可能性に触発され、新しい入試を考えるプロジェクトに参加、『思考力特待入試』として受験生に問いを考えてもらう入試も実施されたそうです。

田中先生「いろんな活動を行ったり、子供たちの探求を見ていく中で改めて”問いっておもしろいな”と感じました。探求することに対して、問いはずっと必要だと思います。

子ども達にとって問いの新しい可能性を考える機会になったらステキだと思います。」

生徒自身が問いを見つけ、探究していく。どんどん成長していく「問い」の可能性を見つけてみませんか?問いを探究する探究学習プログラム『Question X』

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