探究学習の評価をどうする?評価の観点と方法を考える。

探究学習の評価をどうする?評価の観点と方法を考える。
探究学習入門

探究学習において、「評価」はどのようにすればいいのでしょうか。

教育活動にとって評価は欠かせないプロセスと言えますが、「総合的な探究の時間」の学習の成果をテストで測るのは難しく、どのように評価をすればよいのか学校現場でも難しい課題です。実際、私も多くの先生からご相談をいただきます。

今回は、そんな探究学習特有の評価の難しさを踏まえた上で、探究学習の評価について考えていきたいと思います。

探究学習の評価が難しい理由

探究学習の評価をどうする?評価の観点と方法を考える。

そもそも、探究学習の評価はなぜ難しいのでしょうか。それを考えるにあたり、まずは「教育における評価とは何か」を考えてみたいと思います。

教育心理学者の鹿毛雅治氏によると、教育評価とは下記のようなものです。

教育活動において
①願いや目的に向けてよりよい学びになるように、
②様々な観点で情報収集・解釈を行い、
③次の学びを判断、デザインして活用する、
一連の思考プロセスのこと。

つまり教育評価とは「生徒たちの学びをよりよくする」ためのもの。生徒たちにこうなってほしいという願いや目的を設定した上で、実際にそこに向かっているかどうか、現状を理解するための情報収集や解釈を行い、次の学びを作るためにその結果を活用することである、と理解することができます。

評価といえば、単に生徒のスキルを測るもの、進学先に成績を説明するためのものとして捉えられることが多いですが、教育における「評価」を、このように生徒の学びに貢献するものと考えてみるのはいかがでしょうか。

探究学習の評価をどうする?評価の観点と方法を考える。

「生徒たちの学びをよくするもの」として評価を行うのだということを念頭におきながら、次に、「探究学習の評価はなぜ難しいのか」について、評価の手法という観点で考えてみます。評価においては、以下の2点が明確である必要があると考えられます。

1.どんな観点から評価を行うのか(評価の観点)
2.どのように評価を行うのか(評価の方法)

普通教科においては、学習指導要領によって記載された目標等を参考にしながら、どのような資質・能力を育んでいくのかを考えていくことができますし、指導要領の中の3観点を用いて見取りを行うことが可能です。また評価の方法についても、ペーパーテストを実施したり、平常点を加味したりすることで担保できる部分もあるかと思います。

しかし、探究学習においてはどうでしょうか。探究学習については、文部科学省の学習指導要領(p.475)に「総合的な探究の時間」の目標が掲げられているものの、それを踏まえて各学校で目標や内容を定める必要があるとされています。また、その評価方法についても、「ペーパーテストなどの評価の方法によって数値的に評価することは、適当ではない」とされており、評価規準を生徒の実態を考慮に入れる中で作成し、それを基に評価を行うことが言われています。

つまり、探究学習は、普通教科以上に、各学校それぞれで、探究学習の目的と生徒の実態を照らし合わせながら評価の観点や方法を創り上げていくことが必要になります。ここに探究学習の評価の難しさがあるでしょう。

探究学習の評価を考える

それでは、探究学習の評価を行うために、各学校において「1.どんな観点から評価を行うのか(評価の観点)」「2.どのように評価を行うのか(評価の方法)」をそれぞれ考えてみます。

1.どんな観点から評価を行うのか(評価の観点)

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まずは、「どんな観点から評価を行うのか(評価の観点)」です。このことは、先程の教育評価の定義①の言い方に沿えば、「どんな願いや目的をもって探求学習を行っているのか」ということでもあります。

あらためて皆さんの学校では、どのような目的で探究学習を実施されているでしょうか。生徒たちがどのようになることを目指して、教育活動を行っているでしょうか。

このことを考えるための参考に、探究学習の学びをどのように捉えているか、以下の2つの視点を参考に考えてみるとよいかもしれません。

①探究学習を「スキル習得」の学びとして捉える
②探究学習を「世界の見え方が拡がる・深まる」学びとして捉える

①探究学習を「スキル習得」の学びとして捉える

探究学習を「スキル習得」の学びとして捉える場合、学習の成果は、たとえば「これからの社会を生きていくために必要な情報活用能力やプレゼンテーション能力、問題解決能力などといったスキルをどれだけ習得できたか」ということになります。それぞれのスキルが身についた状態とはどんな状態なのかを具体的にイメージすることによって、探究学習を評価する観点が明確になっていきます。

②探究学習を「世界の見え方が拡がる・深まる」学びとして捉える

一方で、探究学習を「世界の見え方が拡がる・深まる」学びとして捉える場合、学習の成果は、たとえば「探求における試行錯誤の中で、自分が今まで考えていたことや世間でよいとされているものを問い直し、自分の大切にしていることや世界の見え方が拡がったか、深まったか」ということになります。「スキル習得」の学びよりも捉えるのが難しいですが、最終的にどんな学びのプロセスやストーリーがありうるのか、生徒たちの世界の見方がどう拡がり・深まっていきうるのかなどを、先生方の願いとして考え、言葉にしていくと、生徒を見取る観点が明確になっていきます。

もちろん子どもたちの学びは、その願いからはみ出ることや逸脱することもあります。ですから、先生方は願いをもちつつ、願いにとらわれすぎないよう、「世界の見方が拡がり、深まっているか」生徒の様子を見取っていくことが大切です。

もちろん、これら2つはどちらかが正解なのではなく、どちらの要素も入ってくることもあるかと思います。

「評価の観点」を決めるためには、まず探究学習でどんなことを実現したいのかを明確にすることが大切です。どんな願いや目的をもって探究学習を実施しているのか、学校の目指すものを改めて考えてみていただければと思います。

2.どのように評価を行うのか(評価の方法)

探究学習の評価をどうする?評価の観点と方法を考える。

評価の観点が決まったら、次は「どのように評価を行うのか(評価の方法)」を考えてみましょう。これは、教育評価の定義②にあるように、様々な観点で情報収集・解釈を行うにはどうすればよいかということでもあります。

探究学習は、「答えのない問いに私として向き合う」学習を行っていくこともあり、いわゆるテストの形で学びを測定することは学びの一部分しか捉えてないと言えるでしょう。また、プレゼンやレポートといった成果物のみで評価を行ってしまうことも、探究的な学びにおける試行錯誤やプロセスを見落としてしまうことにつながるため避けたほうが良いでしょう。

そのため、取り組みの最終場面のみを評価するではなく、一連の学びのプロセス全体に着目しつつ、個々人にとって、どのような学びが起きているのか を丁寧に評価していく必要があります。

どんな方法がありうるのかについて見ていきましょう。

A:ポートフォリオの手法

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生徒の学びのプロセスを丁寧に見取り、評価する方法としてよく挙げられるのが、ポートフォリオ評価です。ポートフォリオとは、学びのプロセスの中で創り上げた作文、レポート、作品や、その途中経過のメモや付箋、写真などといった材料を系統的に蓄積していくものを言います。

プレゼンテーションやレポートだけでは、どうしても言語能力・表現力が高い子がよりよい学びをしていたとみなされ、たとえ表現が苦手であっても豊かな学びをしていた子たちを見落としてしまうことがあります。そのため、この方法は、言葉で残るものだけで評価する一面的なものでなく、絵やデザイン、話し合いの様子などといった学びがもっている多様な側面から生徒を見取り、情報を蓄積していける点でメリットのある方法です。

ポートフォリオづくりで重要なのは、ただ蓄積するだけではなく、先生と生徒とのコミュニケーションを通して、目的や観点に基づきながらどの記録を残すのか吟味し判断していくことです。なぜなら、ポートフォリオを蓄積するだけでは、学びを振り返る機会をもつことができずに、自分にとってどんな学びがあったのか、どのプロセスがより学びが深かったのかを認識することができないからです。せっかく集めた自分の学びのプロセスも、次にいかすために振り返る機会がなければ、意味が薄れてしまいます。

B:ルーブリック

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ルーブリックとは、あるパフォーマンスを評価する際に、①どのくらい達成しているのかの度合いを数量的に示した尺度と、②その尺度ごとのパフォーマンスの特徴が示されたもの、によって構成されている評価基準表です。

ルーブリックは、ポートフォリオづくりにおける目的や観点を参照するものとして活用したり、プレゼンテーションの発表やレポートのパフォーマンスを評価するものとして活用することもできます。このルーブリックを活用することで、自分のパフォーマンスがどの位置にあるのかを明確に把握することができ、よりよくなるためには何が必要かを考える材料とすることができます。

ただルーブリックを活用する際には注意点もあります。ひとつは、「ルーブリックは完全な学びの状態を示したものではない」ことを認識しておくこと、もうひとつは「ルーブリックがチェックリストになってしまわないようにすること」です。ここでも評価の本来の目的が次のよりよい学びを実現するためであることを思い出す必要があります。生徒の学びは多様だからこそ、当初決めた項目からはみ出したり、逸脱したりすることがあるのも当然です。そのため、ルーブリックの項目も絶対ではなく、あくまでも手がかりとして、次の学びへとどのようにいかせるかを念頭に置いて活用していくことが大切です。

C:リフレクション

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リフレクションとは、活動の後に行う振り返りのことです。毎回の授業でのノートに振り返りを書くこともありますし、探究学習の中間段階、最終段階といったような区切りのついた段階でのレポート執筆や仲間同士での話し合いによって振り返りを行うこともあります。

リフレクションを行うことで、そのまま活動を終えていては気付けなかった学び、たとえば「経験の中から、何が価値あるものとして自分の中に残ったのか」「ここから自分はどんなことに興味をもって学びを続けていくのか」といったことを発見することができます。これまでとこれからを見据え、生徒たちが自分の中にどんな学びのストーリーが紡がれようとしているのかが明確になっていくでしょう。

ここでは、先生は、当初掲げた探究学習の願いや目的は一度手放して、想定外を楽しむ姿勢で見取ることが大切です。目的が達成されたかどうかを見る姿勢でリフレクションを行うと、生徒たちの本心や学びが率直に語られることが難しくなってしまうとともに、チェックリスト的に「何が出来て何が出来なかった」の申告にしかならない可能性が高いからです。それよりも、「そんなところが学びになっていたのか」「この子にとってはこんな価値があったのか」と、想定外の言葉が出てくることを楽しみながら見ていけるといいかと思います。

学びの評価方法として、ここでは3つのアイデアを取り上げました。それ以外にも、先生による話し合い活動の見取りや、話し合い自体を評価して生徒間で行うペア評価、質問紙やアンケートを用いた評価などの活用も考えられます。

どの方法を用いるかは、前述の通り、探究学習で何を実現したいのかという願いと目的に紐付いていきます。そこで見えた観点を、どの場面で、どのように評価していくのかを考慮して、評価方法の選択をすることが大切になってきます。

3.客観的な評価は可能なのか

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ここまで、学びのプロセスと成果の評価方法について見てきました。もしかすると、これまでの評価方法では、客観的に評価することが出来ていないのではないかと疑問に思われた方もいるかも知れません。そこで、最後に評価は、どこまで客観的にできるのかについて考えたいと思います。

結論から言うと、100%客観的な評価はこれまでもこれからも設計されえないと考えています。客観的と言われるペーパーテストであったとしても、どんな問題を選出するのか、どれくらいの問題数で測るのかといった設計に、設計者の意図が必ず入ってしまうからです。

特に探究学習においては答えのない問いに取り組んでおり、何が正解なのかも決められないという特質をもっており、それぞれがどのように探究学習の学びを考えるのかという主観が入ります。

このようにどのような評価であっても主観的な要素は入り込みます。ですが、このことは主観的な独断と偏見で生徒を見取っていいということを意味しません。評価において主観が入ることを自覚的に捉え、その上で、自分の評価が教育的にどれだけ納得のいくものかを考えていく必要があるかと思います。

そうした教育的な納得の度合いを高めていくためには、学年の先生方や生徒、保護者といった学びに関わる多様なステークホルダーの人たちとともに、どのような学びがよりよいのかについて話し合い、議論をしていく中で、改善し続けるしかないのではないかと考えています。

まとめ

今回は、探究学習の評価について考えてみました。

探究学習においては、「どんな観点から評価を行うのか(評価の観点)」「どのように評価を行うのか(評価の方法)」についても、目的やねらいと生徒の実態とを照らし合わせながら、各学校で創り上げていかなければなりません。このことはなかなか大変なことでもあると思います。

しかしながら、評価というものを、単に点数をつけたり単位を与えるかどうかを決めることを目的とするのではなく、「次の学びに活かせるように」生徒の学びをみとるものとして考えることもできます。

今回お話したような見方から見てみると、先生方が日頃行っていること、すなわち、クラスの雰囲気や生徒たちの様子をみて、どうしたら学びが深まるだろうと考えながら声かけやコメントをすることは、本来の「評価」で行いたい、大切な営みであることに気づきます。

冒頭に教育活動において評価は欠かせないプロセスであると書きましたが、それは評価を考えることが、なぜ探究学習を行うのか、探究学習の学びをどのように捉えるかを明確にすることにつながるからです。探究学習は、「答えのない問いに私として向き合う学び」であるからこそ、何を観点として、どう見取っていくのかに難しさがありますが、だからこそ、より根本的に学びを問い直すきっかけにもなる可能性があります。

ぜひご自身の学校での探究学習はどんな目的で実施しているのか、どんな側面を学びだと思っているのかを考え、話し合うきっかけとしての材料としてご活用いただけると嬉しいです。

参考
[1] 鹿毛雅治(2014)「教育評価再考―実践的視座からの展望―」心理学評論 47(3), 300-317

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教育と探求社 開発部 佐藤 瞬

上智大学大学院総合人間科学研究科教育学専攻博士前期課程修了。大学院在学中に、青年海外協力隊として中米・ベリーズに小学校教員として派遣。2年間の勤務後に、公立...

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