生徒が自ら探究のテーマとなる「問い」を持つためには?よくある3つの思い込みと解決策!
「生徒たちに主体的に探究学習をしてほしい」
「生徒自身の興味があることを、探究学習のテーマにしてほしい」
「生徒に、自分の関心があることをみつけてほしい」
そう考えて修学旅行を活用してみたり、町に出て課外学習をするなどたくさんの体験をさせてみてはいるけれど、生徒たちが探究したいほど「興味があること」をなかなかみつけることができていない。
あるいは「好きなこと」をテーマにして学習をはじめてみても、深堀りされずに表面的な調べ学習で終わってしまい、探究がなかなか深まらない。
こんなふうに、生徒たちの探究学習のテーマ選びでどうしようと困ってはいませんか?
もしかしたら、これからお話しする「よくある3つの思い込み」を解消すれば、生徒たちの探究学習のテーマ選びに光がみえてくるかもしれません!
今回は、生徒たちの探究するテーマ選びでよくある「3つの思い込み」について、教育と探求社開発部マネージャー/ 東京大学大学院教育学研究科博士課程 福島創太さんに解説していただきました。
思い込み1「探究学習のテーマ決めは最初から最後まで生徒主体で行わなければいけない」
生徒自ら探究学習のテーマとなる「問い」をもつためには、どのようなプロセスが考えられるでしょう。
よく行われているのは、生徒に興味があるものを書き出してもらったり、体験学習や修学旅行などを通して様々な体験を提供し、興味があるものをみつけたりして、それを探究のテーマにする、というものです。
しかしながら、そのようにして探究学習のテーマを決めようとしても、思うようにすすまずに苦しまれる場面もあります。生徒が何に対してもなかなか興味を持てないことも少なくないようです。あるいは興味を持って探究を進めても内容が深まらず、「もっと気になることや疑問はないのだろうか?」ともやもやされる場面もあるようです。
そこでまずは、「生徒自らテーマを出してもらわないと」という考えをいったん手放してみてはどうかと考えています。探究学習は、生徒主体で取り組むことで学びが深まりますが、最初から最後まで生徒主体でなければならない、というわけではありません。活動を進めるなかで、生徒の主体性や能動性を高め、活動に対する動機づけができれば、テーマを決めるプロセスを、受動的な取り組みから始めても構わないはずです。
例えば、探究学習のテーマをゼロから生徒に出してもらうのではなく、まずは生徒にたくさんの「問い」に触れてもらうということからはじめてみるのはどうでしょうか。
たくさんの問いに「受動的に」でも触れる中で、さまざまな「問い」の中から自分が気になるものを選んだり、クラスの友人と一緒に考えてみたりすることができます。
「この問いはなんか好きだな」「考えるのって面白いな!」と遊んでいるうちに、自分の興味関心やついつい考えたくなる問いがわかってくることがあります。またそうした活動を行っていく中で「問いのバリエーション」が生徒に増えていき、生徒に問いが生まれやすくなっていきます。そういった素地をまずはつくることからはじめる、そのために受動的な活動をうまく活用する、というのは有効な手段だと思っています。
思い込み2: 「一つの問いを決めたら、その問いをずっと大事にし続けなければならない」
探究学習は、一つのテーマを決めて、長い時間かけて取り組まれることがほとんどですが、やりはじめてみると探究がなかなか深まらなかったり、ある程度調べ学習をしてもうやることがなくなる、ということも少なくありません。その状態から「こういうことは気にならない?」「これを調査してみたら?」と生徒に提案してみても、なかなか生徒の気持ちは乗らず、探究を深められないこともよくあります。
そんなときはもしかしたら、「決めたテーマでやり切る」ということにこだわりすぎているのかもしれません。確かに、最初に決定した一つのテーマを丁寧に深堀りして育てていくこともとても豊かなプロセスです。選んだ一つに向き合って様々に試行錯誤するというのは探究の豊かな経験となります。
一方で、「これで取り組むぞ!」という問いが本格的に決まるまでは、複数の問いを手元において吟味する、というプロセスを踏んだ方が、もしかしたらより自分が深めたい問いを選べるかもしれません。
例えば、1で紹介したようなカードを使ってたくさんの「問い」を浴びたあと、あえてすぐに探究のテーマとなる問いをひとつに決めないこともできます。生徒に自分が興味を持った「問いカード」を複数選択してもらい、問いとテーマの組み合わせをたくさん試しながら自分に合う問いを探していくのです
「日本独自の〇〇とは?」「〇〇はなぜ美しい?」といった問いの「〇〇」に入る言葉を探して問いを作って、そのなかで「この問いよりこっちが好き!」と少しずつ自分の興味関心を見つけていくことができます。その比較・吟味を続けていくと、最終的に生徒が本心から面白いと思える問いを生み出すことができるでしょう。
生徒が本当に好きだったり、気になるものであればあるほど、やはり探究は深まっていきます。また、複数の問いに出会い、選択肢を吟味したり考えるプロセスこそが、まさに探究の体験として豊かなものでもあります。
思い込み3: 「問いを磨くプロセスは個別の問いと個人の力量によるので共通の指導ができない」
また、生徒に好きなテーマを考えてきてもらったものの、「この問いで本当に探究学習になるのだろうか」と先生方が不安をもたれる場面も少なくないようです。
例えば、生徒が出してきたテーマが「探究になりづらいかもな」「授業時間は3ヶ月用意しているが1ヶ月で終わってしまうかも、、、」と不安になったという話もよく聞きます。
こうしたテーマを、それぞれ「いい問いだと思うんだけど、なにを一番探究したい?」「どこに興味ある?」と個別に指導して「探究に足る問い」に仕上げていくのは時間的にもむずかしかったりします。例えば40人のクラスで生徒全員と一人ずつ面談をしようとすると、一人30分としても20時間、平日毎日1時間対応しても4週間かかってしまいます。不安を持ちながらも、とりあえず授業を走らせて、行き詰まったときに対応しようとなっていることも多いのではないでしょうか。
そこで、問いを磨くプロセスについて、その一部を共通で指導するのはどうかと考えています。確かに、問いを磨くプロセスは、生徒一人一人の問いや、考える力や興味関心に大きく左右されるので、個別指導が最適であることは間違いないのですが、「向かう先を示す」ことである程度共通で指導できる部分があります。
生徒たちも、「探究に足る問い」がどのようなものかを知ることができれば「何を考えればよいかさえわからない」という事態は避けられます。「探究に足る問いとは例えばこういう問い」ということを示して、「その問いの要件」とその要件を満たす具体的な問いのフレーズを何個か示すことができれば、生徒が自分の問いを自ら磨いていくことができます。
たとえば、探究に足る問いの要件としては、
・明確で焦点が具体的な問いであること
・批判的思考を促しうる問いであること
・実証可能な仮説設定が可能な問いであること
といったものが考えられます。
それぞれの要件に対してあてはまっている例と、そうとは言えない例を示し、問いをブラッシュアップする方向性を示すことで、生徒たちは自身の問いをより的確に理解し、自分で探究に取り組める範囲が広がります。
例:
・「〇〇はいつ起こるか?」→「 〇〇が過去5年間でどのような変化を示したか?」(時間枠の設定)
・「〇〇はどうして起こるか?」→「 〇〇が△△の原因であるという仮説を検証するための方法は何か?」(仮説の提示)
最後に:工夫しながら楽しく探究学習を
探究学習の場面でよく見られる「思い込み」について、以下の3点を提案と共に解説しました。
思い込み1:探究学習のテーマ決めは最初から最後まで生徒主体で行わなければいけない
思い込み2 :一つの問いを決めたら、その問いをずっと大事にし続けなければならない
思い込み3 :問いを磨くプロセスは個別の問いと個人の力量によるので共通の指導ができない
思い込み1については、探究のテーマをゼロから生徒に考えてもらうことにこだわりすぎず、まずは生徒に様々な問いにたくさん触れる機会をつくるという提案をしました。たくさんの問いに触れることで、生徒は問いのバリエーションを増やしたり、自分の興味関心に気づいたりしていきます。
思い込み2については、一つの問いに早い段階で固執するのではなく、複数の問いを試したり吟味したりしながら自分に合う問いを見つけることを提案しました。これにより、生徒が本当に興味を持てるテーマを見つけやすくなり、探究が深まることにつながります。
思い込み3については、探究に足る問いの要件を示すことによる共通の指導の可能性を提案しました。明確で焦点が具体的、批判的思考を促しうる、実証可能な仮説設定ができるなどの問いの要件を示し、生徒に具体的な例を提示することで、生徒たちは自身の問いを自分たちなりに磨いていく道筋を得ることができます。
探究学習は先生方にとっても大変だったり複雑な部分があるのは事実かもしれません。ただ今回取り上げた3つの思い込みを手放してみると、少し楽になるかもしれません!起こりうる課題やハードルに対して、取り組み方の引き出しを様々にもっておく、ということが有効だと考えます。生徒にとって真に学びにつながる探究学習のために、一緒にいろいろな工夫を考えていけたらと思います。
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