【開催報告】「学校を知の生産をする場へ」出版記念セミナー『探求のススメ』イベントレポート
こんにちは、元クエストカップ全国大会大学生スタッフ、現大学院生のあやです。ファンライターとして、この立場だからこそ見える視点でクエストエデュケーション(以下クエスト)のことをお伝えしています。
今回は、2021年3月23日(火)に行われた出版記念セミナーの様子をレポートします!
『探求のススメ』出版記念セミナーとは
本セミナーは、「教育と探求社」の創業社長、宮地勘司による初の著書『探求のススメ』が2021年3月3日(水)に出版されたことを記念して行われました。
[著者] 宮地勘司(株式会社教育と探求社 代表取締役社長) |
2004年の会社設立以来、16年間で延べ1400校、22万人以上の生徒が取り組んだ「クエストエデュケーション」。なぜ「探求」が必要なのか。「探求」によって子どもは、そして教師・学校はどう変わるのか。
当日は、大阪市立大空小学校(通称「みんなの学校」)初代校長の木村泰子先生、大和大学 キャリアセンター長補佐 宮北純宏先生、一般社団法人シヅクリ/元静岡県公立小学校校長学校の八木邦明先生の3名と、著者 宮地勘司が探求について語り合い、対話で深めていくエネルギッシュなイベントとなりました。
木村泰子先生 大阪市立大空小学校(通称「みんなの学校」)初代校長 | 宮北純宏先 大和大学 キャリアセンター長補佐 | 八木邦明先生 一般社団法人シヅクリ/元静岡県公立小学校校長 | 宮地勘司 教育と探求社 代表取締役社長 |
学校を「知を消費する場」から「知を生産する場」へ
まずは宮地から、教育と探求社の提供する探究学習プログラム「クエストエデュケーション(以下、クエスト)」についての紹介がありました。
クエストの役割を簡潔に説明すると、「学校を知を消費する場から、知を生産する場に変えること」。
宮地が述べていたのは、「誰かが探求した成果である知を順番に覚えていく工業型の学校の在り方を、子どもたちが授業の中で知を生産する喜びを知る学校の在り方に変えたい。学校も、その後の生徒の姿も変わっていく学びを実践したい」という想いでした。
1人1台タブレット端末が配られ、ネットで何でも知ることができる今の時代においては、子どもたちが新たな知の生産を行う学校の姿はある程度想像できることでもあります。しかし探求社がそれを17年前に、技術革新とはまた別の軸で、本質的にそうした学びの形を描いていたことには驚きがありました。
コロナをきっかけに、リモート授業やオンラインを活用した学習は標準となり、学校の在り方も変わらざるを得ない方向に向かっていくといえます。1人でも勉強ができる時代では、「知を生産すること」こそ、誰かと共に学ぶ意味であり、新たな学校の役割になると実感しました。
見えない学力を育てる
次に、セミナーは個性豊かな登壇者の方々と対話型のセッションへ。
登壇者として、木村泰子先生、宮北純宏先生、八木邦明先生の3名と宮地が、探求について語り合いました。
校長として、教員として、地域として、様々な関わり方で教育の新たな形を探り、実現し続ける皆さんが集まって話している姿はすこぶる刺激的です。印象的だった皆さんの言葉を紹介致します。
大阪市立大空小学校(通称「みんなの学校」)初代校長 木村泰子先生
大空小学校の初代校長の木村泰子先生。大阪の公立小学校である大空小学校は、他の学校では「発達障害」や「問題児」と言われるような児童たちが多く通います。ただあるがままに児童と対話する木村先生と、そこに通う児童たち様子を記録した映画「みんなの学校」は全国各地で上映されています。
木村先生
「大空学校は、「見えない学力を育てよう」という想いからスタートしました。「見えない学力」って、子どもが大人になってなりたい自分になるためのものなんですよね。
そのために必要だと思っているのが4つの力です。
①人を大切にする力、
②自分の考えを持つ力、
③自分を表現する力、
④チャレンジする力。
これらの力があれば、正解のない問いに挑み続けることができると思います。そして、クエストの中にあるものと一緒だと思っています。」
大和大学 キャリアセンター長補佐 宮北純宏先生
大和大学の宮北先生。現在は大学の先生でいらっしゃいますが、奈良県の中高一貫校である西大和学園で学年部長を務められてきました。
進学校と呼ばれる私立の学校教員として生徒たちに受験指導をする中で感じた違和感、そしてその中で探求学習を推し進めたきっかけをお話してくださいました。
▶リクルート進学総研「新しい時代に向けて これからの教師を探る」
(宮北先生掲載部分PDFはこちら)
▶参考:「生徒の力を引き出す学び」クエスト実践校紹介 西大和学園(上村先生)
宮北先生
「受験指導をしていた8年間は、生徒たちを”育てた”というより”仕上げた”という記憶ばかりあります。ただ一つの答えをアウトプットする力を同じように身につけさせる事に違和感もありました。
その後2011年の震災を経験し、自分の持っている力をどう教育に活かせるのかというのを本当に悩んだ際、キャリア教育の必要性を強烈に感じたんですね。
当初は自分たちで教材を作ろうと思ったのですがうまくいかず、だからクエストに出会った時は感激しましたね。」
一般社団法人シヅクリ/元静岡県公立小学校校長学校 八木邦明先生
一般社団法人シヅクリの理事、八木邦明さん。
一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブが展開する「21世紀ティーチャーズプログラム」という、先生自身が「主体的・対話的で深い学び」の実践者となることを目的とした研修プログラムでの活動をきっかけに、静岡県公立小学校の校長をやめ、一般社団法人を設立。
現在は静岡を拠点に子ども大人も自らのコアに出会う探究的学びの場を提供しています。
八木さん
「初めてクエストカップを見に行った際、偶然隣に座っていた保護者の方に「いつも勉強しないあの子が、うちでも四六時中クエストの勉強していた。この子に取りついたものが何か知りたくて今日は来ました。」という話を伺って衝撃を受けたんです。
その後静岡でクエストを導入し実際に取り組んだ生徒の保護者の方から「子どもが家でクエストを存分にやるために、嫌いだった勉強をまず3時間やっている」という話を聞いたときは同じ事が起きている、と思って非常に嬉しかったですね。」
今でこそ探究学習は、文科省推奨の学びの形とされていますが、17年前は学校の職員室で理解を得られないことも多く、先生方が探究型学習を推進することは、白い目で見られることでもありました。ただ、生徒たちのために本当にあるべき学びを提供しようとする、先生方の”異端さ”によって、生徒たちの「自ら学ぶ力」が引き出されてきたといえます。
従来の組織に新しい波を起こそう
登壇者の方々からのお話だけではなく、ブレイクアウトルームに分かれて参加者同士で話しあったり、登壇者へ質問したりと、参加者の方々がお話しする時間もありました。
大学教員の方、学生の方、企業の方、首都圏の方、地方の方、私立学校の先生、公立学校の先生など、様々な立場の方からの教育のお話はとても面白かったです。
教育の場で潮目を大きく変えようとしている皆さんのエネルギーが場に溢れ、参加者の方々からも熱いコメントが書き込まれました。
「宮地さんの「精神を高める!」って良い言葉ですね!
教育の場も企業でも、従来の組織論に新しいウェーヴを起こそうという熱い方々の集まりで刺激を受けました。たまにリモートでも合宿でもこうした場があれば、参加したいと思います。」
「 刺激をたくさん頂きました!!なにより、自分自身が、周りを気にして正しい答えを発言しようとしていたことに気づくことが出来ました。参加してよかったです。ありがとうございました^^」
既に決まった正解や組織の当たり前に恭順するのではなく、自ら探求する姿勢は、教育の場だけではなく企業の場等でも必要となるものだということを、改めて感じました。
子どもたちのための「探究学習」が注目されていますが、むしろ大人たちこそ決まった答えを出すのではなくまっさらな状況で自ら問いを持つことが求められ、ひょっとすると子どもたちよりもむしろ大人の方がそれを実践することが難しいのかもしれない、とすら思いました。
先生自身が「答えのない問い」に挑んでいる
探究学習の場ではしばしば、大人たちは生徒たちの伴走者であり、ファシリテーターであるとされます。生徒たちが自由な発想で探究し、学びを深められるよう見守ることが、先生に求められる役割です。
ただ、今回のイベントで登壇者の方々のお話を伺う中で、そういった学習の場を生徒たちに提供できるように模索する大人も、同じように探究しているのではないかと思いました。
学校現場のなかで「あたりまえ」とされていることに疑問を投げかけ、子どもたちのためになることを考えて行動しようとしている先生方こそ、まさに答えのない問いに挑んでいるとも言えます。
生徒たちが元来持っている「自ら学ぶ」力を引き出すにあたって、従来の社会や学校制度の壁をゆるやかに力強く砕き、探究の場を提供しようと奮闘する先生方自身が探究の実践者なのだ、ということに気が付き、教育を変えることは、最も社会を変える可能性を持つもののひとつだ、ということを実感できたセミナーでした。
[著者] 宮地勘司(株式会社教育と探求社 代表取締役社長) |
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