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「楽しかった」で終わらない。コロナ禍の教室で取り組んだ”じっくり考える”インターン体験 さいたま市立大成中学校 能登亜希子先生

先生インタビュー

職場体験、どうしようーー。新型コロナウイルスが広がった2020年度以降、全国の先生が頭を抱えてきました。さいたま市立大成中学校も昨年、2年生133人の受け入れを予定していた事業所で、感染予防の受け入れ中止が相次ぎました。代わりに導入したのが探究型の就業体験プログラム「インターン」。同校の能登亜希子先生に、インターンに取り組んだ生徒たちの様子や、その後に見えた、これからの職場体験のかたちを伺いました。

「インターン」は、教室にいながら「就業」が体験できる10時間のプログラムです。実在の企業でインターンとして働く、という設定で、インターンへの応募から事業企画まで幅広く体験します。また、企業の理念や働く人の話、事業の社会的影響を知るなかで、「働く」を通じ、社会にどう関わっていくかを探求的、主体的に学んでいきます。動画やワークシートなど、学びを深化させる補助教材も用意。体験的かつ思考を深めるキャリア教育を提供できるプログラムです。くわしくはこちら

大成中の生徒は例年、2年生の7~9月頃に市内の公共施設や事業所などで3日間働く「職場体験」を行ってきました。新型コロナウイルスの流行前は、小学校、幼稚園、老人ホーム、コンビニエンスストア、ドラッグストア……駅に近いこともあり、ホテルでも受け入れてもらっていたそうです。

ーー「インターン」導入までの経緯を教えていただけますか。

能登:本校の場合、職場体験の本番は9月ですが、準備は5、6月ごろから始まります。生徒の希望先を聞いて、受け入れ先の方々と打ち合わせを重ね、早い段階で固めていきます。

でも昨年度はコロナの影響で、小学校や、老人福祉施設、幼稚園をはじめ、多くの事業所で受け入れていただくことが困難になることが予想され、代わりにできることを探していました。別の事業所に打診しようか、それとも体験日数を短縮して生徒全員が1日だけでも体験できるようにしようか、働く人の講演会に切り替えようか、いろいろ考えました。

でも、もっと子どもたちが時間をかけて主体的に取り組めるものがいいんじゃないか、と。
そんなとき、近くのさいたま市立三橋中学校が「インターン」を導入したと聞きました。
リアルの「職場」には行けませんが、教室にいたまま「働く」ことをじっくり考えてもらう内容だったので、これなら学びが深まるのではないかと、5月下旬、導入を決めました。

自分の「強み」を考える

インターンでは、様々な手法を使って、企業とは何か、自分の興味関心は何かということを考えるプロセスが組まれています。実在する12社のうち、学校に割り当てられた6社の中から、自分が「インターン」として働きたい企業を選び、採用してもらうために、自分の強みをアピールするエントリーシートを作ります。

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プログラムの序盤で、生徒はまず、自分の関心や興味を把握する

能登:エントリーシートを書く作業がステップの3つ目ぐらいにあるんですね。自分が選んだ企業に「自分はこんなことができます!」とアピールする文章を書くんです。これは結構面白かったです。

ーーエントリーシートは、大学生でも苦しみますからね。

能登:私もそうですけど、自分の長所を言語化してアピールする機会なんて、なかなかないものです。みんな必死に自己分析してましたよ。

ーーエントリーシートには、どんなことを書いていましたか?

学校生活と結びつけて書いた生徒が多かったですね。

「部活動で仲間や後輩をリードすることができます」「得意な教科は〇〇です」というような感じです。また、IT企業を志望する生徒は「自分は家でパソコンを何時間も使ってます。その仕組みに興味があります」お菓子メーカーを志望する子は「いつもこの会社のお菓子を食べていて、大好きです。どうやって作られているのか知りたいです」と。本当に子どもらしい発想でPRしていました。

インターン先では「仕事」に取り組みます。まず手がけるのが「アンケート調査」。商品やサービスに対する人々の意識やニーズを把握するのがねらいです。集計後、分析からみえてきたことをまとめ、実際に商品がどんな使われ方をしているのか、店舗訪問などを経て課題を具体化していきます。

能登:大宮駅が近いので、本当なら街頭調査にチャレンジしたいところでしたが、まだそういう時期ではなかったので、教員や友だち、お父さんやお母さん、おじいちゃんおばあちゃんに答えてもらったり、さらにその知り合いまで回答を頼んだりして、頑張ってたくさん集めていました。

ただ、集まったデータから作成されたグラフを見て、何が見えてくるかを読み取るのは、中学生にはまだハードルが高そうでした。せっかく集めたデータを活用しきれなかった感じがありました。教員のサポートや助言によって、もっと調査や研究を深められたのでは、という思いが残りました。

擬似的ではありますが、その企業に所属しているという自覚をもって一生懸命取り組んでいました。中学生ですから日常生活で接することの多い商品やサービスを提供している企業だと、事業内容やその社会的価値のイメージが持ちやすいようです。

インターン先の企業の活動が、社会に与えている価値について、SDGsの観点で評価する時間もあります。

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富士通、メニコンのインターンとして、同社の取り組みや社会的役割、SDGsの観点での評価を発表する生徒

能登:これはインターンをやって良かったことの一つですね。本校の生徒は、1年生の社会の授業などで習っていたので、SDGsの17の目標の概要は、知識として理解していました。ただ、インターン先の企業の事業内容が、SDGsの観点から見て、どんな価値があるのか、を評価するという具体的な経験は、おそらくインターンが初めてだったと思います。ただ知っているだけでなく、いろんな企業がSDGsが掲げる目標に向かって実践していることが分かったのではないかと思います。

企業の「見えない」部分を知る

インターン先の企業で働く社員が登場し、どんな場所でどんな仕事をしているのか、どんなやりがいを感じているかを語る動画を見て、話し合います。

ーー動画を見た生徒たちの反応はどうでしたか。

能登:普段目にする商品やサービスを生みだしている会社のオフィスやそこで働く人たちを覗かせてもらっている感じで、興味深く聞いていたようです。話の内容以外にも、服装や雰囲気、性別や年代にも注目してました。スーツをきちんと着た方もいれば、カジュアルな格好の方もいて。オフィスの様子もそれぞれ異なる雰囲気で、かっこいいとか、こういう人がこういう企業に勤めてるんだとか、言い合ってました。

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年度末の3月、インターン導入校の生徒や「インターン」先の企業の社員が集まる合同発表会がオンラインで開かれる。生徒たちは「インターン」の経験で学んだこと、気付いたこと、考えたことを発表する。社員からフィードバックをもらう貴重な機会でもある。

能登:働くってどういうことなんだろう、どういう気持ちで今の仕事を選んだんだろう、この企業はなぜこういう事業をやっているのか、動画を見た後の話し合いで、自分たちで深めている様子は興味深かったです。働くことは、こうして人の役に立っていくのか、とか、仕事のやりがいは、お金がすべてではないということも具体的な人とエピソードから見えてきたと思います。

企業の活動は、商品やサービスなど、私たちが「見えている」部分だけではないことも理解できたのではないかと思います。みんなが知っているような企業の事業や内容を調べ、そこで働く人の話も聞くうちに、あの商品の開発にはこんな事情があったのか!と、世に出るまでの「見えない」過程も想像できるようになったと思います。

じっくり考える職場体験

ーー取り組んでみて、従来の職場体験とどこに違いを感じましたか。

能登:これまで私たちがやってきた職場体験は、生徒が住む地域の職場で働きながら、働く人たちの姿や声を間近で見聞きし、そこから体感的に何かを感じられるという利点があります。「インターン」で出てくる方々の大半は大企業の方ばかりでしたし、いつもの職場体験の方が、彼らの生活実感にあっていたかもしれません。

ただ、誰にどう役立っているのか、働く人はどこにやりがいを感じているのかまでじっくり考えるような時間は、従来の職場体験だと十分持てていなかったと思います。「楽しかった」「疲れた」という感想を持つだけで終わってしまう生徒もいたと思います。

インターンは、リアルで働く体験はありませんが、働くことがどんな人たちに役立っているのか、働くことでその人の人生にどんなやりがいが生まれるのか、体験を通じてじっくり考えるプロセスになっていました。その点は、リアルの職場で働く体験よりもプラスだったと思います。

ーー先生自身、「インターン」を通じて何か気づかれたことはありましたか。

能登:職場体験を「働いた」という体験で終わらせないような、学びのまとめ方に変わっていく気がしています。本校ではICTを活用した授業に取り組んでいますが、地元の身近な企業の方々にも協力していただきながら、オンラインを活用して、生徒が「働く」ことをについて考えを深める機会を持つこともできるのでは、と思いました。

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【実体験】「楽しかった」で終わらない。コロナ禍の教室で取り組んだ”じっくり考える”インターン体験

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