そもそも探究学習とは?意識したい2つの大事なポイントとともに解説!

探究学習入門

中学・高校で新しく探究学習の担当になったものの、「どのように授業をしたらよいのだろう?」「そもそも探究学習とは何だろう…?」と迷うことはありませんか。

また、実際に探究学習を行っていく中で、「これで本当に探究学習でやりたかったことを実現できているのだろうか?」と疑問に思うことも多いのではないでしょうか。

今回は、探究学習とはそもそも何なのか、またどのように授業を進めればよいのか、全国410校、8万5,000人の中高生が受講する探究学習プログラム「クエストエデュケーション」の開発に携わる佐藤瞬さんに、探究学習で意識したいポイントを聞きました。

探究学習プログラム「クエストエデュケーション」とは

全国40都道府県 410校の学校で実施している探究学習プログラムです。 2005年に「社会とつながる学びを子どもたちに届けたい!」という想いから生まれ、これまでに約2,000校35万人以上の中高生が受講しています。

そもそも探究学習とは

まず、そもそも探究学習とはどのようなものなのでしょうか?

文部科学省によると、探究学習とは「生徒自ら課題を見つけ、情報を収集・整理・分析しながら、問題の解決に取り組み、意見をまとめ・表現することを繰り返していく学習活動」とされています。(出典:文部科学省『学習指導要領 解説』)

絶え間ない技術革新により社会が急速に変化し、将来の予測が難しい時代に、新たな価値を生み出していく人材が求められる中、新しい学習指導要領として2020年から小学校、21年から中学校、22年から高等学校で探究学習が始まりました。小学校や中学校では「総合的な学習の時間」の科目、高等学校では「総合的な探究の時間」などの科目において、探究学習を導入した授業が行われています。

文部科学省の『学習指導要領 解説』より

しかし、探究学習をいざ行ってみたところ、単なる調べ学習になってしまった…という経験はないでしょうか。

例えば、「地球温暖化の対策を考える」という問いに対して、生徒が、「二酸化炭素の排出量を減らすべき」や「電気の使用を抑えるべき」など、一般的によく聞く通説ばかりを持ってくることがあります。こんなとき、「本当に生徒たちの学びになっているのだろうか?」「答えらしいものを探してくるだけになっているのではないか?」と悩まれることもあるでしょう。

こうしたことは、「プレゼンをする」「グループワークをする」といった活動の”形”にしか注目してないために起こってしまうことです。探究学習において本来の学びを起こすためには、活動の”形”を実践するだけではなく、「生徒たちが思考する・感じる」といった”中身”の伴う活動にしていく必要があります

それでは、生徒たちの思考がめぐり、感情が動くような本来の学びを起こすためには、どのようなことを意識したらよいのでしょうか。

それが、探究学習において意識したい重要な2つのキーワード、「生徒の主体性」「答えのない問い」です。

まず一つ目の、「生徒の主体性」とは、「課題を”自分ごと”として捉えられているか」ということです。

誰かの考えではなく、生徒自身が「自分はどう思うのか」を考えることが、生徒の主体性につながります。たとえば、「自分自身はどう考えるか」というプロセスが実現できていないと、先ほどの地球温暖化に対する生徒の例のように、こう言っておけば間違いないだろうと思われるような「一般的な考え」「答えらしい答え」を持ってくることになってしまいます。

また、二つ目の「答えがない問い」とは、ただ一つの絶対的な正解が存在しない問いについて考えることを指します。

たとえば、「あなたにとって、生きるよろこびとは?」という質問があったとします。この答えは、人によって異なりますよね。「食べること」かもしれないし、「お金を稼ぐこと」「遊ぶこと」かもしれません。そんなふうに、何一つ明確な答えがない問いに対して、自分はどう考えるのかを考えて、表現していくことが本来の探求につながります。

そして、答えがない問いに、自らの答えを出していくためには、生徒が「自分の考えを自由に発していい」と感じられる環境が必要です。まずは、先生が特定の答えを想定したり期待せず、「誰一人として明確な正解を持っていないのだ」と認識して生徒たちに接することが、生徒たちの自分なりの答えを引き出すきっかけになります。

また、「明確な答えがない問い」を設定する際に、先生方は、どんなテーマにするかを悩むことも多いと思います。

探究学習におけるテーマは、どんなものを取り扱ってもいいのですが、なぜそのテーマを設定するのか、そのテーマで何を達成したいか、という目的意識をしっかり持っていると、生徒たちの探求が深まる助けになるでしょう。


探究学習におけるテーマ決めについて、より詳しく知りたい際は、こちら!(探究学習のテーマをどう決める?問いをつくるときに意識すべき3つのこと)

なぜ今、探究学習なのか

次に、なぜ今、探究学習が注目されているのでしょうか。それにはやはり、時代の変化が関係しています。

冒頭でも引用した学習指導要領では、急速な社会の変化の要因として、人工知能(AI)の発展、グローバル化、少子高齢化などが挙げられています。なかでも、AIの発展によって、私たちの働き方は大きく変わることが予想されます。しかし、AIがどれだけ進化しても、「私はどのように感じるのか」「その上で、どのように判断するのか」といったその人ならではの情動や思考、人の内側にある”自分なりの”答えの存在は、人間だけが持つ強みです。

このような社会の変化によって、学校教育に求められるスキルも変わりました。

今までの教育は、知識を蓄積することに重きがおかれ、効率的に知識を伝達することが目指されてきました。このためには、先生が生徒に知識を伝達していくような方法が取られます。これはつまり、生徒は自分の”外側”にある答えを学んでいることになります。

一方、探究学習では、前述したような「答えのない問いを主体的に考える」ことに重きが置かれるため、先生と生徒が対話的に学びを進めたり、生徒同士でディスカッションをしたりする手法が用いられます。これはつまり、生徒は自分の”内側”にある答えに向き合っていることになります。

言い換えると、探究学習とは、「自分に向き合う」行為が重視されており、これによって、急速な社会の変化の中でも、自分の角度で物事を考察したり、考えを発信する力を育んでいることになります。

そしてこのような力は、卒業後の人生でも、長く活かされる力になります。

探究学習による生徒の変化

では、探究学習を行うと、生徒はどのように変化するのでしょうか。

探究学習において、小学校の教員の経験があり、現在、探究学習の教材開発に携わっている佐藤瞬さんは、自らが目の当たりにした経験から、生徒に起こる大きな変化をあげています。

佐藤さんが関わったある生徒は、口下手で、自分の意見を表現するのが苦手でした。しかし、探究学習で自分が考えたアイディアや意見が、様々な人に「おもしろい!」と言われたことをきっかけに、目の色が変わり、意欲的に学びに取り組むようになりました

そして、自分が将来やりたいと思う進路を見つけ、ある理系の大学に進学したそうです。

このような生徒以外にも、探究学習に取り組む中で、自分の意見を表現することが苦手だった生徒が、イキイキと意見を出すようになるといった変化は、頻繁に起こります。中には、不登校だった生徒が、探究学習の授業に積極的に参加するようになるケースもあります。

これは、自分の意見が、他者に肯定されるということにとても大きなパワーがあることを示しています。自分なりの答えを考え、表現した時に得る、周りからの肯定的な意見は、自分への自信や、考えることが楽しいという思いにつながります。これによって、「自分はこれがやりたい!」とワクワクや、意欲的な態度が生まれるのではないでしょうか。

つまり、探究学習では、自身の意見が肯定されるプロセスの中で、「自分にも世界が変えられるかもしれない」という自分が持つ可能性を認識でき、そのことが自信につながるのです。

そんなワクワクした生徒の様子を感じられる動画がこちら!(クエストカップ2019 全国大会)

探究学習による先生の変化

では次に、探究学習によって、学校の先生にはどのような変化が起こるのでしょうか。

佐藤さん「まず一つ目に、『生徒との関わり方』に変化があります。

先述したように、これまでの授業では、先生が生徒に知識を伝えるという立場であることが多かったですが、明確な答えがない探究学習では、先生が『生徒と探究をともに行う伴走者』という立場になることが理想的です。

探究のプロセスでは、先生にとっても想定外な考えに生徒が及ぶこともあります。その中には、先生が知らない知識が含まれている場合もあります。

そんな中で、生徒自身が答えを見つけていけるよう、生徒がどんな思考を巡らせているかに気を配りながら、生徒と共に考え、生徒との関わり方を見つめ直す先生も多いです。

先生と生徒の関わり方についてより詳しい事例はこちら(「教え込む」が通用しない…。探究学習で知った教師の新たな役割。福山市立城南中学校 平 洋太先生)

佐藤さん「二つ目に、『先生同士での交流が生まれる』ということがあります。

普段の授業だと、『ベテランの先生にこんな相談すると失礼かも』『そんなことも知らないのって思われるかも』と思ってしまい、教科の内容や教え方について相談しにくいという状況もあるかと思います。

一方で、探究学習の進め方に関しては、どの先生も明確な答えを持っていないので、先生同士で気軽に相談しやすいです。

職員室の中で、『うちのクラスはこんな感じだったんですが、どうでしたか?』『生徒の議論が上手く進んでいないみたいなんですけど、どうしたらいいですかね?』などと自然に会話が生まれます。

このような中で、探究学習という共通の課題に取り組むチームであるという連帯感が、先生たちの間で育まれるのではないかと思います。実際、探究学習に6年間取り組んでいるある学校では、探究学習を始めた当初、消極的な姿勢の先生が多かったようですが、年を重ねるにつれ、生徒と先生が一体となって、学校全体で探究学習に取り組むという変化が表れました。」

学校全体で探究学習に取り組む事例について、より詳しい記事はこちら(グランプリ受賞!生徒が教師を変えてくれた。6年の試行錯誤。聖心学園中等教育学校 谷浦 弘員先生)

探究学習を進める上での秘訣

最後に、探究学習を進める上での秘訣を紹介します。

佐藤さん「探究学習は、『自分の考え』を持てるようになることが大事、と何度も言ってきましたが、実際は多くの生徒にとってこれは大きなハードルです。

そのハードルを超えるためには、小さなステップを踏んでいく必要があることを念頭においてください。例えば、まずは些細なことで自分の考えを表現できるようになり、少しずつ自分の考えが形成されていき、さらにその考えと他者の考えを擦り合わせられるようになる…といういくつものプロセスがあります。

そして何より、生徒にとって『安心安全な場づくり』を先生が行っていくことが大事です。

生徒にとって安心安全な場のためには、「どんな意見も否定しない」という姿勢がとても重要です。

『いいね!』『なるほど!』『たしかに』『おもしろい!』などというワードをたくさん使いながら、意識的に生徒の意見を肯定してみてください。

ちなみに、クエストエデュケーションのプログラムには、『グランドルール』というものがあり、探求を始める前や、探究学習中など、先生にも生徒にも頻繁に共有されています。

たとえば、クエストエデュケーションの企業探究コース『コーポレートアクセス』のグランドルールは、『とことん意見を出し合う・「なぜ」をとことん考える・とことん楽しむ』です。こうしたルールを設けることで、『この授業のこの場を、こういうものにしていこう』という共通認識を作ることができます。

佐藤さん「そして、『どうしてそう思うの?』と生徒に問いかけることもとても重要です。例えば、生徒が出した答えに対して、その考えに辿り着くまでのプロセスを問いかけてみると、思考が触発され、さらに考えが明確になっていくということもあります。

『なぜ?』と生徒に疑問を投げかけながら、生徒が探究を深められるよう、導いてあげてください。」

参考記事はこちら(授業で意見が出ない?生徒がいきいき意見を交わせる「安心安全な場」の作り方)

最後に

最後に佐藤さんが、探究学習への熱い思いを語ってくれました。

佐藤さん「探究学習は、生徒にとって、これからの人生にも深く影響があるような大きなパワーを持っていると思っています。

探究学習で、自分の”内側”にある答えに向き合い、自分の考えを持つようになることで、誰かの意見にだけ従って生きるのではなく、『自分が本当にしたいこと、叶えたいこと』を考え、それが『自分らしさ』を生み出すと思うからです。

探究学習は、その特徴ゆえに分かりやすい指標もない中、手探りで生徒と向き合っていかなければならず悩むことも多いと思いますが、生徒が自分らしく探究を行っていけるよう、一緒に頑張っていきましょう!!」

過去に佐藤さんが書いた記事 おすすめ

・佐藤さんが小学校教員だった経験を活かした記事:生徒との信頼関係のつくりかた~教師がひとりの人間として関わること

・登山型・航海型の探究学習とは?:探究学習で深い学びが起こる瞬間~前編:そもそも探究学習とはなにか

・グランドルールと声かけのあり方:探究学習で深い学びが起こる瞬間~後編:探究学習を進めるのに大切な2つのこと

フジコ

国際基督教大学4年。高校2年生の時にコーポレートアクセス部門でグランプリを受賞。大学生になった今でも、自分の人生に大きな影響を与えたクエストに関わりたい思い...

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