グランプリ受賞!「学年みんなが受賞に値する」新潟県立津南中等教育学校 林祐希先生
2021年2月20日~28日の8日間にわたり開催されたクエストカップ2021 全国大会。全国28都道府県、応募総数3,587チームと数多くのエントリーをいただき、大会では優秀賞209チームが発表し、ついに各部門グランプリ受賞チームが決定して幕を閉じました。
グランプリを獲得したチームは、いったいどのような1年間を過ごしてきたのでしょうか?
今回は、企業からのミッションに挑戦する企業探究部門「コーポレートアクセス」でカルビー企業賞を獲得、Eグループでグランプリを受賞した新潟県立津南中等教育学校「チームうすしお」の担任をされていた林 祐希(はやし ゆうき)先生に、生徒たちや伴走した先生方の様子についてお話をうかがいました。
クエストカップ、グランプリを受賞して
新潟県立津南中等教育学校は、今年で4年目。中学3年生の「総合的な探究の時間」にクエストエデュケーション(以下、クエスト)を実施しています。
まずはグランプリ受賞、本当におめでとうございます!
ありがとうございます。生徒たちがとったので私は何もしてないのですが・・・本当によくがんばったなと思います。
受賞して、いかがでしたか?
グランプリが発表された瞬間は、私たちも生徒も半信半疑というか、「自分たちだ」と認識するまでに少し時間がかかりました(笑)。
「もしかしたら受賞もあるかも!」と思って、グランプリ受賞の瞬間を撮ろうとカメラを構えてはいたのですが、他のチームの発表も素晴らしかったので「本当にどこがグランプリになってもおかしくないな」と思いながら見ていたんです。
グランプリをとったとわかったときは、生徒たちも、その場にいた学年団の先生方も校長先生も、わーっと歓喜しました。本当によく、生徒たちは頑張ったなと思いましたね。
翌日職員朝会で報告させていただいたので、その後もいろんな先生方が「すごいね、グランプリでしょ!」と生徒たちに声をかけてくださったようで。親御さんとチームの子たちで集まって、カルビーさんへのお礼の動画をとって送りたいという話もありました。
私たちの学校は田舎にあるので、これまでそうした機会にはそれほど恵まれていたかというと、そうでもなかったんです。ただ全国大会にいくだけでもすごいなというところだったのに、今回はグランプリをいただきまして、先生方にとっても生徒にとってもよかったなと感じました。
この1年間の探求の取り組み
はじめは「会社」のこともよく知らなかった
初めてクエストの授業をしたときは、どのような様子だったのでしょうか。
一番最初ですよね。正直に言うと、企業からのミッションが来るまでは、発表に向けて具体的に取り組むのはなかなか難しかったです。
最初の授業では指導案に従って、「無くなったら困る会社はどこ?」という問いかけに対し、生徒は自分たちの知っている会社を挙げていきます。
でも、生徒たちはそこまで会社のことを知らなくて、挙げられた会社も、新潟のローカルスーパー「原信」や「マクドナルド」など。自分たちが生活する上で必要な、身近な企業の名前を挙げてみたというのが正直なところだったと思います。
そこから「会社ってこういうことをやっていたんだね」「こんな会社があるんだね」と知って、1コマ終わったという感じでした。
企業の方がくる!」中間発表で火がついた
その後、インターン先を決めて、企業からのミッションを受け取ったのですよね。
そうですね、企業からのミッションは、「人の元気の源を生み出す新商品を提案せよ!」とか「生きるを面白くする新たなビジネスを提案せよ!」といった、大人でも考えさせられるようなものばかりでした。
ですから最初のころは、生徒たちは「ミッションなんて出されても、どうしたらいいんだろう」という様子でした。
生徒たちに火がついたのは、中間発表をやる日が決まったときです。中間発表では、企業の方と実際にZOOMで繋がって、お話を伺ったり、自分たちのアイデアにコメントをいただけます。「ある程度の形に仕上げないと失礼だよね」といった話をしたら、本当に「やばい!」とスイッチが入ったようでした。放課後も自分たちで声を掛け合って、残って話し合いを進めていました。
私も、他教科の先生にお願いをし、授業時間をいただいたりもしたのですが、やはり生徒たちが自ら動いてやってくれたことが大きかったですね。
その中間発表では、いかがでしたか?
教育と探求社さんの担当者から「中間発表の前と後でガラッと変えるグループもあるんですよ」と、私たちも前々から伺ったりはしていたのですが、生徒たちの変化には目を見張るものがありました。
生徒たちが考えたアイデアに対して、企業の方々や教育と探求社の方々からコメントをいただいたのですが、そうしたご指摘やご助言は、私たち教員が普段している話とは、また違ったものだったんですね。リアルなビジネスの観点や、本質的な視点からのコメントでした。「ミッションの〇〇という言葉をどのように解釈したの?」「発案してくれたプランや商品が実在したら、あなたなら買いたいと思う?」といった質問をしていただいた記憶があります。
生徒たちにとってかなり刺激的だったようで、「え、どうしよう」「こんな風に言われちゃったんですけど、どうしたらいいんでしょう」と戸惑った様子でした。これまで考えてきたことが、もしかするとまたゼロからやらなきゃいけないかもしれない、と、どのチームもすごく考え直させられていて、苦労していたなと思います。もちろん褒めていただいたところもたくさんあるのでそこは伸ばしつつ、課題をどう改善できるのか、すごく生徒自身が考えていましたね。
だから、中間発表の次の授業では、私たち教員が指示する前から、生徒たち自ら動いていたなという印象がありました。
自分たちのアイデアに「ここはどうなの?」と指摘されて、落ち込んでしまったり、放り出してしまう場合もあると思いますが、先生方としてはどのように生徒たちに関わっていかれたのでしょうか。
そうですね、私たちが「こうしなさい」というやり方ではないと思うし、私たちの中にも「こうだ」という答えはないけれども、私も他の教員も、一個人として、生徒が悩んでいるところを聞いたり、自分なりの考えを伝えたりしました。
いろいろな先生方が、いろいろなグループに順順にまわっていって、生徒たちと話をして。どこにつまづいているかを聞いてあげて、「こんなこと言われたんです」と悩んでいたら、「例えばこういうふうに解釈しなおしてみたら?こういう風に見方変えてみたらどうかな?」という話をしたり、「もちろんこれが正しいわけじゃないし、他の先生のアイデアの方がよいかもしれないけれど、私はこう思うよ」という話をしたりしていました。そこから実際にどう考えるのか、具体的にどうアクションに移すかというのは、生徒に任せていましたね。
生徒たちにとっては苦しかったところでもあるだろうけれど、でもそこが、生徒にとって伸びるチャンスになっていたなと思いますね。
もう一度、中間発表からブラッシュアップした作品を企業の方々にオンラインで見ていただく機会がありました。そこでももちろん、また突っ込まれたりもしたんですけれど、生徒たちはそこからまた自分たちで、全国大会のエントリー前に主体的に改善をしていました。
生徒たちにとって、この2つの機会はすごく大きかったなと思います。
他校との交流で深まった学び
あとは、他校と交流できた「クエストミーティング」。全国の他の中学校や高校の生徒、複数の企業の方々が集まって、いろいろな意見を伺えたのは生徒たちにとって、すごくいい機会だったと思います。
※全国21校がオンラインで集まった「クエストミーティング」レポート
参加は希望制にしていたのですが、「こんなイベントがあるよ」と投げたときも、生徒たちみんな積極的で。生徒にとっては放課後の時間だったんですけれど、ほとんどのチームは「やりたいです」と言って参加していました。
そこで他校の生徒と発表しあったり意見交換をして、「他のチームも結構苦しんでるけど、がんばっているんだな」とか「他のチームはこういうところを、こういった視点で見ているのか」と、またいろいろな視点を得られたようです。
「ターゲットをこんな人たちにしているのか」「こんなふうに数字を使っているのか」と他のチームの発表やそれに対する企業の方々のコメントからも学んで、「じゃあ自分たちもここに取り入れてみよう!」と。本校だけの発表会のときとは、また違った磨き方ができたと思います。
今年はコロナ禍で直接学校に来ていただくことができなかった反面、こうしてオンラインで複数の企業の方や、様々な学校のチームとお話ができたことは、本校の生徒にとってとても意義あることだったと思います。
全国大会、出場決定!
クエストカップ全国大会への出場が決まったときの、生徒たちの様子はいかがでしたか。
大会への出場が決まったことは、クエストカップ公式HPでの発表前に教育と探求社さんから事前に私にはお知らせいただいたのですよね。それで、掲載される時間に合わせて、生徒たちにも私から発表しました。
スライドをつくって、いかにもという感じの演出で、結果発表がアニメーションで下から上がっていくようにして見せたんです。それで本校のチーム名が見えたときは、教室が「わぁ!」となりました。
本校は朝日新聞に1チーム、カルビー2チーム、博報堂に2チーム、富士通1チーム、三菱地所1チーム、メニコンに2チームが挑戦していたのですが、カルビーの「チームうすしお」と三菱地所の「3田山」、そしてメニコンの「雑草」が優秀賞をいただいて、全国大会に行けることになりました。
1チーム1チーム名前が出るたびに拍手がすごい起こって。生徒たちは喜んでいたり、半信半疑だったり、もちろん選ばれなくて悔しい気持ちもあったと思います。ただ、その場はチーム関係なく、なんというか「みんなで取れた!」という雰囲気がありました。
アイデアが生まれた放課後の思い出
この1年を通して、先生自身の一番思い出に残っていることを教えてください。
私自身ですか、そうですね…グランプリをとった瞬間は純粋に嬉しかったですね。都会や私立の学校も多い中、本校は田舎の県立学校なので、教員の間でも「俺たちもがんばろう!」「やってやるぞ」という気持ちはありました。生徒にそれを話したりはしていないですけれど(笑)。
あとはやはり、大会エントリー前の放課後のできごとが心に残っています。
実は、もうすぐエントリー前のプレ発表だというとき、生徒たち、なかなかいい案が出なくって行き詰まっていたんです。今回グランプリをいただいた「チームうすしお」は、中間発表でご助言やご指摘をいただいてから「どうしようか」と考えていたのですが、なかなかこれというのが見つけられなくて。
その日も夕方6時くらいまで学校に残っていたのですが、「どうしようどうしよう」となかなか定まらない。私もその場にいたのですが、「ちょっと厳しいなぁ、どうしようかなぁ」と思ったりもしていました。
その時、夕方で日も暮れ始めたくらいかな、誰かが「おなかすいたね」って言いだしたんです。「ね、おなかすいたよね~」「おなかすいたから、なんかご飯食べれたらいいよね」「おなかすくと、”ご飯なんだろう?”ってなるよね」というところから、「それ、いけんじゃね?」と。
私はその時、正直、「もう帰らなきゃいけない時間だからなんとかしてくれ~」と思っていたんですけれど、なるほどな、と。「いいねいいね」と言ってその日は解散になったのですが、そのきっかけがこうしてグランプリまで行くとは、その時は全く考えもしなかったですね。本当に生徒は最後までがんばって考えていたんだな、と感じました。
そうだったんですね。そこで先生から「おなかすいたとか言ってないで、早くやりなさい」と生徒たちが言われる場合も、全然あると思うんです。そこを先生は何も言わずに早く帰らなきゃねとは思いつつも、見守ったというのが大きいな、と感じました。
正直、内心焦りはありましたよ(笑)。 本校はバスで帰る生徒も多く、バスの時間も迫ってきていたので、「そろそろこの教室出ないと間に合わなくなるんじゃないかな、大丈夫かな…」と思ってました。
でも、「おなかがすいたらわくわくする」という生徒の言葉を聴いた瞬間に、確かにそれは「全ての命がワクワクする」というカルビーさんのミッションからもずれていないなと思いました。
プレ発表はエントリーまであまり時間がないものの、「大体こんなことを考えてます」ということを発表でできれば最低限はクリアだなという話はしていたので、「いい案だと思うから、これをひとつの核にして、もう夜も遅いし各自おうちに帰って、どうしたらもっと具体的になるか考えてみたら」「バスもヤバいし!」と言って、その日は帰宅させましたね。
結果論的に、「チームうすしお」の話しか取り上げていないけれど、どのチームもやっぱり「どうしようかな」と思うときは当然あって。よく考えているし、アイデアも出すんだけれど、行き詰まっちゃう。あるいは、チームの中でも意見があわなかったりする。
そこでとことん意見を出し合いながら、アイデアを詰めていったり、お互いすり合わせていったりしていくので、今思うと、生徒たちなかなか大変だったのではないかと思います。本当によくがんばったなと思います。
最後に:みんながグランプリに値する
最後に、生徒さんたちにメッセージをお願いします。
そうだなぁ、「1年間よくがんばったね」というのがまず出てきますね。
今になって思うと、始めのころは、私自身も初めてのクエストに探り探りでしたし、生徒たちも「授業で先生が言うからやるか」という気持ちだったろうと思います。
それが、企業からミッションをもらってからは、みんなが自分から動いていたのは、本当にすごいことでした。インターン生としての使命感なのか、「やらなきゃいけない」という気持ちの表れなのか、それこそ放課後に残って取り組んだり。本当に、すごい苦労していたなと思うんですよね。
遊べるなら遊びたいだろうし、本来、放課後残ることはあまり好きではないと思うんですけれど、どのチームも一生懸命、手を変え品を変え、自分たちで声を掛け合いながら動いていました。そうした生徒たちのがんばりがあって、優秀賞3つ、そしてグランプリをいただけたと思います。
今回グランプリをいただいたのは「チームうすしお」が名前としてばーんと出てくるけれども、それだけではない。周りのチームもみんなが一生懸命にがんばっていたから、「チームうすしお」もがんばれたし、そうして出てきた結果がグランプリという賞になった。私は、懸命に取り組んだ学年みんなが受賞に値すると思っています。
「よく一生懸命がんばったね」ということを、すごく伝えたいですね。
ありがとうございました!
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