【クエストカップ審査委員インタビュー】「今できる失敗は、大した失敗ではない」株式会社ゲムトレ 代表 小幡和輝さん

【クエストカップ審査委員インタビュー】「今できる失敗は、大した失敗ではない」株式会社ゲムトレ 代表 小幡和輝さん
社会人インタビュー

2021年2月20日~28日の8日間にわたり開催されたクエストカップ2021 全国大会。全国28都道府県、応募総数3,587チームと数多くのエントリーをいただき、大会では優秀賞209チームが発表し、ついに各部門グランプリ受賞チームが決定して幕を閉じました。

たくさんの素敵な発表の中からグランプリを決定する審査は、いったいどのように行われていたのでしょうか。

今回は、日常生活からビジネスの種を発見し、ゼロから新商品の開発に挑む起業家部門「スモールスタート」において、審査委員を担当いただいた株式会社ゲムトレ 代表小幡和輝(おばた かずき)さんに、審査をとおして感じたこと、審査の裏側をお話いただきました。


小幡 和輝 / 株式会社ゲムトレ 代表
1994年生まれ。10年間の不登校を経験。 1日のほとんどをゲームに費やし、プレイ時間は30000時間を超える。その後、高校3年で起業。SNS企画やイベント事業などを行う。 2019年より、ゲームのオンライン家庭教師『ゲムトレ』を立ち上げ。ダボス会議を運営する世界経済フォーラムより『GlobalShapers』に選出。
カップサイト審査委員からのメッセージ


「どうやって実現するか」まで話してほしい

小幡さんは、今回初めてクエストカップの審査委員を務めていただきました。クエストカップは、いかがでしたか。

すごく楽しかったですね。正直、はじめに生徒たちが提出してくれた資料を見たときは「大丈夫かな?」と思ったりもしたのですが、みんな大会当日までにぐっとブラッシュアップされていて。プレゼンも素晴らしかったし、内容もよくなっていて、すごくよかったです。生徒たちがエントリー後もたくさん考えて、何度も練習したことが伝わってきました。

あとは、「皆、アプリを作りたがるんだな」という、今の流行りも見えてきましたね。「起業といえばアプリを作る」というのが生徒たちにとって当たり前のようで、これは僕のときとはずいぶん違うと思いました。僕が起業した8~9年前は、「起業してアプリ作るなんてとんでもない」という感覚だったので、だいぶデジタルネイティブ世代が育ってきたんだなと感じます。

ただ、アプリにしろ他の提案にしろ、実際にビジネスとして生み出すことが大事なので、「どうやって実現するのか」というところまで、僕は話してほしかったですね。例えばアプリだったらそれは自分で作れるのか。もし、作れないとしたら、作れる人をどう巻き込むのか。そうやって「どうしたらその企画に人が参加してくれるのか」を考えるのは、すごく意味あることだと思います。

そういう意味で、リサイクル機能つき3Dプリンターを提案した専修学校クラーク高等学院大阪梅田校のチーム「STEREA」はもったいなかったと感じました。発表では言っていなかったけれども、「これならセブンイレブンが協働のパートナーとして企画にのってくれる」というところまでよく考えられていました。

専修学校クラーク高等学院大阪梅田校 チーム名「STEREA」作品タイトル「RE-PRO」

専修学校クラーク高等学院大阪梅田校 チーム名「STEREA」作品タイトル「RE-PRO」(▶動画:0:08:05~)
コンビニに設置する、ペットボトルをリサイクルして材料にする3Dプリンター「RE-PRO」を提案。再利用により材料費を抑えることで、ライトユーザーが低価格で3Dプリンターを使用できる。

審査後のリフレクションの時に聞いたのですが、彼らは「考案した3Dプリンターにどのくらい電気料金がかかるのか」まで計算していたんですよね。「通常の3Dプリンターの電気料金はこれくらい。さらにペットボトルを溶かすのに必要なワット数はこれくらいだから、オーブントースターのワット数と電気料金から、結局かかる電気料金はこれくらい。」と、自分たちで考えて計算をしていたんです。それって、すごい探求じゃないですか。

コストが分かれば、「どのくらいの利用者がいればコストを回収できるのか」という実現できるかどうかの話につながるので、そこはぜひ発表の中で言ってほしかった。とはいえ、彼らはすごく価値ある学びをしたんだろうな、と感じました。

カップ審査の裏側:起業家に大切な「人を巻き込む力」

起業家部門「スモールスタート」では、ファーストステージでAブロック、Bブロック、Cブロックからそれぞれ2チームが選出され、セカンドステージでグランプリおよびブラックスワン賞が決まりました。審査の様子はいかがでしたか?

審査会では、その3Dプリンターを提案したチーム「STEREA」と、勉強アプリを提案したクラーク記念国際高等学校(静岡)のチーム「Team推し」の接戦となって、最終的に「Team推し」がグランプリに決まりました。

クラーク記念国際高等学校(静岡) チーム名「Team推し」作品タイトル「勉強アプリ」 (▶動画:0:36:20~)

クラーク記念国際高等学校(静岡) チーム名「Team推し」作品タイトル「勉強アプリ」 (▶動画:0:36:20~)
”推し”がいる人たちが、勉強を楽しくできるようにするための勉強アプリ「Plasir」を提案。自分の好きなキャラクターやアイドルの関連するコンテンツを獲得できることにより、勉強の意欲が高まる。

「Team推し」は、好きなキャラクターが出てきて勉強を楽しくできるアプリを提案したのですが、そこに彼らの「やりたい」という想いが強く感じられたこと、さらに「具体的にどうやるのか」も明確にされていたことがよかったです。

「勉強が楽しくない」というのは、彼らが今まさに感じている大きな課題ですよね。それをどういう風に楽しくするのか、何があれば楽しめるのか。よく考えられていて、こちらまでやりたい気持ちになりました。

僕も英語を勉強しなければいけないのですが、すごく嫌で…!彼らの提案のように、自分が好きなタレントさんやゲームのキャラクターが出てきて学べるならば、たぶん課金して使うと思います。

彼らが本気でやろうと思えば、実現できてしまうと思いますね。あれは、ぜひやってほしいな。

チーム「STEREA」ではなく、「Team推し」となった決め手はなんだったのでしょうか。

3Dプリンターのチーム「STEREA」の提案も、「やりたい」という想いや「実際どうやるのか」まで考えられていてとてもよかったんです。審査会でも、はじめは彼らがグランプリに決まるのではないかという勢いでした。

ただ、審査委員たちにとって実感がわかなかった部分もあって…審査委員の中に3Dプリンターのことをよく知っている人や実際に使ったことがある人がいなかったので、「これが実現したらこういうことが起きる!」というのがあまりイメージできなかったんですよね。彼らは、3Dプリンターが好きで使ったこともあるけれど、3Dプリンターはまだ一般的によく知られているものではない。

だから、「3Dプリンターがコンビニあれば、あんなものが作れる!こんなものも作れる!」とばーっと例を出して、それがワンコインでできてどこにでもあるんです、というように伝えていたらよかったんじゃないかな。そうしたら、審査委員たちも「おおなるほど!」と実感を持って、企画に魅力を感じたのではないかと思います。

さきほど「実際に実現することが大事」という話をしましたが、起業家って、全部を自分でやる必要はないんです。自分がアイデアを考えたら、熱量を伝えて、人を巻き込んで、それで物を作れれば、成果になります。だから「これっていけるよね」と思ってもらえるように伝えること、人を巻き込めることは大切です。

でも、本当に彼らはすごいですよ。僕自身は実際にやってきた経験の中で「何を考えれば、人が乗ってくれるな」と分かるようにもなりましたが、起業した当時はあんなに考えていなかったなと思います。

アイデア実現に一歩踏み出せた理由

【クエストカップ審査委員インタビュー】「今できる失敗は、大した失敗ではない」株式会社ゲムトレ 代表 小幡和輝さん

実際にビジネスとして生み出すこと、アイデアで終わるのではなく実現することが大事とお話いただきましたが、多くの人がその一歩を踏み出せずにいると感じます。小幡さんは、なぜ一歩を踏み出せたのでしょうか。

それは好奇心かもしれません。

「こうしたらできるんじゃないか」と思っても、実際にやってみなければ自分の中だけで終わってしまう。本当にそうなのかって結局やらないとわからないじゃないですか。そこにもやもやするので、僕はやってみたいと思うんです。

実際にやってみたら、少なくともフィードバックがありますよね。いい反応があれば「自分の仮説は正しかった」と分かって嬉しいし、反応がなかったら「仮説が間違っていたんだ」と分かって「じゃあどうしようか」と次に進める。ゲームみたいな感覚ですね。

踏み出せないのは、「実際やってみて、うまくいかなかったら怖い」「仮説のままにしておきたい」という気持ちもあるのかもしれません。

それはもうね、やって慣れるしかないです(笑)。慣れてたら怖くなくなると思います。

一発目、僕大失敗しているんですよ。初めてイベントを立ち上げたとき、企画書では「50人集めます」と言っていたのに、実際は5人しか来なかったんです。

そこで「自分が楽しいと思っているものが、人にとっても楽しいとは限らないんだ」と学びました。やってみて初めて「これじゃだめなんだ」と分かったんです。

失敗するのははじめは嫌かもしれないけれど、実際にやってみなければ何も分からないし、人間的な成長もないままなんですよね。

そこでもう「やめてもいいや」と折れなかったのはなぜですか。

そのとき、イベントの内容にはすごく自信があったんです。人はあまり集まらなかったけれど、参加してくれた5人は、すごく楽しそうにしてくれていて。だから「ただ届け方が悪かったんだ」と思って、次に届け方を頑張ることにしたんです。

たぶん3000人くらいにメッセージを送ったかな。SNSで対象になりそうな人たちを探して、かたっぱしからメッセージを送りました。そうして2回目のイベントは、目標以上の60人程が集まりました。場が無事にできて、参加者も楽しんでくれて、すごく嬉しかったですね。

そうしたら1回目の失敗なんて、もう話のネタみたいなものになりました。結局、今の自分がやれる失敗って大したことないんですよ。たとえはじめに失敗したとしても、少しの時間を失ったことと、ちょっと精神的に凹むくらいです。笑

生徒のみなさんには、自分たちの考えたビジネスをぜひ実際にやってみてほしいですね。

最後に:ビジネスはまだ始まっていない!

【クエストカップ審査委員インタビュー】「今できる失敗は、大した失敗ではない」株式会社ゲムトレ 代表 小幡和輝さん

最後に、ここまで探求してきた生徒のみなさんへの、メッセージをお願いします。

大会は「Team推し」がグランプリで決まったけれど、みんな、別にそこで終わる必要はない。グランプリをとったかどうかに関わらず、もっともっとやっていっていいと思います。

起業家の目線で見ると、まだ、スタートラインにすら立っていません。みんなのビジネスはまだ始まっていないから。ここで終わりにするのではなく、ここまでの経験をどう使うか。あとはもうやるかどうかです。

実際にやってみた時には、今の100倍くらいの学びがあると思います。アイデアを形にしようとすると色々な問題が出てきて、自分たちの頭の中だけにあったときとは、やはり全然違います。

ぜひ何かやってほしいですね。僕も応援しています!


小幡 和輝 / 株式会社ゲムトレ 代表
1994年生まれ。10年間の不登校を経験。 1日のほとんどをゲームに費やし、プレイ時間は30000時間を超える。その後、高校3年で起業。SNS企画やイベント事業などを行う。 2019年より、ゲームのオンライン家庭教師『ゲムトレ』を立ち上げ。ダボス会議を運営する世界経済フォーラムより『GlobalShapers』に選出。
カップサイト審査委員からのメッセージ


 

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