「学んだこと」はどんどん発信しようよ!船橋市立飯山満中学校 辻史朗先生
千葉県船橋市立飯山満(はさま)中学校では2021年度、2年生が「クエストエデュケーション」に取り組みました。担当の辻史朗先生は、学校現場のICT機器活用のエキスパート。「他者に伝える」を意識して、クリエイティブな探究学習に取り組んでいます。どうやって進めてきたのでしょうか。その「現在地」を聞きました。
辻:生徒1人1台のICT機器を使える環境が整い、以前からやってみたいと思っていた授業をいろいろ試している最中です。担当する理科の授業では板書も取りませんし、前に立って説明することもなくなりました。生徒たちが、課題への取り組みを通して自ら学びを掘り下げる探究型の授業を心がけているからです。
例えば、「人体図の解説動画をつくろう」というテーマの授業では、グループごとに課題を解説する動画を制作してもらいました。動画はQRコードにして、模造紙に描いた人体図の該当部位に貼り付け、互いの動画を見ながら学べるようにしました=下写真。
辻先生が探究学習に興味を持ったのは、1冊の本がきっかけでした。
辻:2019年1月ごろ、東京都千代田区立麹町中学校の工藤勇一校長(当時)の著書『学校の「当たり前」をやめた 』を読んで、それまでの「思い込み」がガラガラと崩れました。
固定の担任制度や定期テストをなくす大胆な実践に「公立校でもここまでできるんだ!」と勇気をもらいました。さっそく麹町中を訪問、授業の様子も見せてもらいました。
本の中で、同校が探究学習の授業に「クエストエデュケーション」を取り入れていることも書かれていました。当時勤務していた3部制の定時制高校でもやれないかと問合せ、費用が手ごろで生徒たちがチャレンジできそうな「ザ・ビジョン」(※)を選び、2年生で取り組みました。
※「クエストエデュケーション」のコースの一つ。「探求する」大人8人が語る「いまを生きる大切さ」を入り口に、大切にしている価値観を語り合い、自分らしいあり方や生き方を深く探究します。
「ザ・ビジョン」の授業で、生徒が書き込んだワークシートを読んで驚きました。外の世界に関心を持っていないかのように見えたのに、思った以上に自分の考えていることを綴っていました。「こういう思いを持ってたのか」「こんな表現をするのか」「こんなことを考えていたのか」と気づかされたんですね。
生徒たちが3年に進級すると「ソーシャルチェンジ・ファースト!」(※)に取り組みました。
※中高生向けの短期探究学習プログラム。「本当にやりたい卒業式」「学校をギネスブックにのせる方法」など身近な課題に取り組み、アイデアを出し合い、企画を考え、プレゼンテーションを行います。
辻:「学校を地域でいちばんの観光名所にする」というお題に出てきたアイデアを形にするのですが、その一つに学校で「プロジェクションマッピング」をしよう!」というものがありました。
夜間部があるので学校自体は夜も開いている。プロジェクションマッピングをすれば地域の人たちも集まってくれるし、学校にも注目が集まるのではないかーー。そう考えて千葉商科大学の研究者にも協力いただき、春休みからプロジェクトを始めようと準備を進めていました。生徒たちが「自分たちも“やってみる”ことができるんだ!」と思いはじめていたその矢先、新型コロナウイルスが流行しました。
一番の山場となるはずだったイベントは中止。不完全燃焼感が強く残りました。
2020年度、飯山満中学に転任した辻先生は、校外学習とからめて、1年生に「ソーシャルチェンジ・ファースト!」を取り組んでもらいました。
辻:新型コロナウイルスの影響で校外学習は例年のような遠出ができなくなりました。
テーマを切り替えSDG’s視点で「船橋市を世界一魅力的な市にするには」というお題を生徒たちに考えてもらいました。
街のごみ問題を調べに街を歩き、街で見つけたごみを学校に持ち帰ってきた生徒もいました。視点を持って街を歩くことで「タバコのポイ捨てが多い」「リサイクルショップをもっと活用しよう」と気づき、頭の中で考えていたことと社会での現状が一致したようです。
実践の結果を校内で発表するだけではもったいない。そう思っていた辻先生に、Facebookでたまたま知り合った山口県内の中学の先生から合同発表会の提案がありました。
辻:二つの中学をオンラインでつなぎ、3チームずつオンラインで発表しあいました。山口県の生徒が発表した商店街の「シャッター街」化は、新鮮に映ったようです。地域が異なると、抱えている問題も異なると気づけた貴重な機会でした。
翌2021年度に2年生に進級した生徒は、長期プログラム「クエストエデュケーション」の企業探究コース「コーポレートアクセス」に取り組みました。
辻:新型コロナウイルスの流行で、職場体験授業の代わりに導入しました。1年生で探究学習を経験したせいか、ブレインストーミングでは付箋にどんどんアイデアを書き出し、意見も出て、成長を感じました。
「コーポレートアクセス」は企業からの課題に取り組むのですが、チームでの協力がより目立ちました。「あなたはこの係」「私はこの係」と分担して作業を進めるのではなく、互いが意見を出しあい、アイデアを集める対話型の学びが生まれていきました。探究学習は決まった「レール」を敷かないので、生徒たちが何に気づき、どんなアウトプットに結びつけるかは予想できません。でもそこには、どこに行くか分からない動的な面白さがありました。
プログラムの導入は業務の軽減にもつながったそうです。
辻:教員が探究学習のカリキュラムを自力でゼロから作るのは非常に労力がかかり、スキルも問われます。外部のプログラムを使うことで、負担が減り、一定レベルの探求的な学びも実践できます。飯山満中の2年生は職場体験の代わりに「コーポレートアクセス」に取り組みましたが、例年なら受け入れ先の企業との日程調整にもっと時間が費やされていたと思います。
生徒だけでなく、辻先生も「学び」のかたちをどんどん変えていきました。
辻:2021年度は「他者に伝える」という視点を意識した学びを取り入れました。
その視点で、修学旅行も練り直しました。行先をそれまでの京都から富山に変え「どういうアプローチをしたら、観光客に富山で降りてもらえるだろうか」という課題を設け、旅行初日は金沢の観光地を巡り、2日目は富山で街の魅力を動画にする旅程を組みました。
校外学習も同様です。横浜市での校外学習では、詰め込み型の事前学習はせず、美術の授業で写真の撮り方を教えてもらい、当日撮った現地のスマホ写真をクラウド上に集め、生徒や保護者から「いいね!」をもらえる「インスタ映え選手権」を開きました。
「他者に伝える」を意識した学びは、ほかの先生も取り入れています。2年生の英語では、自ら設定した課題にそった英文アンケートをGoogleフォームで作り、英語でプレゼンテーションをしたほか、海外のCM動画を参考に、船橋市の魅力を英語で発信する30秒のCM動画を作りました。生徒たちが楽しんでいたのが印象的でした。
「他者に伝える」視点を取り入れた学びには、辻先生の思いがあります。
辻:生徒たちの学びを、もっと外に発信したほうがいいと常々思ってきました。従来は校内に掲示して終わり、というパターンが多いですが、人の目に届かないまま終ってしまうのはもったいなさすぎます。
一緒に過ごす仲間や教師から受ける評価も大事ですが、外の人の評価には、内輪だけではなかなか聞けない「本音」があると思っています。「本音」を聞くことで「当たり前」が崩れるような学びや成長もある。そうした体験を増やしてあげたい、と思っています。だからこそ、外に開かれた学びのかたちを探りたいのです。
こうした学びが大人になったときどう生きるのか、というキャリア教育的な視点でこうしたことをしているというより、人と違うアイデアを出していいのだ、と生徒が気づいたり、突拍子もないことを言う子を面白がったりするような「多様性」を受けいれる素地ができたらいいな、と願っています。
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【教師と探究学習】校内掲示だけ?もったいない!「学んだこと」はどんどん発信しようよ!と僕が思う理由
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