第2回:どのように生徒の願いに向き合うのか?—言葉に依らないアプローチ

探究学習入門

「願いってなに?」とすぐに聞いても、規範が立つ

探究学習のはじまりとして、「あなたの願いは?」と生徒に問いかける。
そんな導入をしたとき、返ってくるのは、こんな反応かもしれません。

「え、願いって“将来の夢”のことですか?」
「“人の役に立つ”とか、そういうやつ書けばいいんですよね?」

このように、すぐに“願い”を聞くと、生徒の中で規範が立ち上がってしまいがちです。
「こう答えたら正しそう」「期待されていそうなことを言わなきゃ」
無意識のうちに、外からの評価に合わせようとしてしまう傾向があるのではないでしょうか。

でも、わたしたちが探したいのは、そうした“正解らしきもの”ではなく、生徒自身が心から願っていることなのです。


解決のカギは、“言葉にしない”こと

だからこそ、「MY PURPOSE」ではあえて言葉に依らないアプローチを取り入れています。
願いをすぐに言葉にしようとするのではなく、静かに、じっくり、自分の内側と対話する

ときには言葉を手放し、 「感覚」や「身体」や「表現」の力を借りて、自分自身と向き合うための場をつくる。

そうすることで、生徒は初めて、
「これは他人の目じゃなくて、“自分自身の感覚”で動いていいんだ」
という感覚を持てるようになるのです。


MY PURPOSE」の心と身体のアプローチ

「MY PURPOSE」では、生徒の願いに丁寧に向き合うために、 身体という2つの切り口からアプローチします。


心のアプローチ:価値観カードで“本音”に出会う

50枚以上のカードに書かれた「価値観」の言葉。
生徒はそこから「わたしが今、大事にしたいもの」を数枚選び、
自分の言葉で語ったり、友達と贈り合ったりします。

このやりとりの中で、
「“自由”って言葉が気になるのは、いまわたしが窮屈だと感じてるからかも」
「“つながり”って言われて、うれしかった。人との関係、やっぱり大事にしたい」

…そんな風に、自分でも気づかなかった感情が浮かび上がってきます。

選ぶ・語る・受け取るというプロセスを通して、
「まだ言葉にできていなかったけど、確かに大切にしたい想い」
にそっと触れることができるのです。

第2回:どのように生徒の願いに向き合うのか?—言葉に依らないアプローチ

身体のアプローチ:コラージュが導く“まだ言葉にならない願い”

もうひとつは、身体の感覚を通じて願いにアプローチすることです。
その中でも特徴的なのが、「コラージュづくり」。

ワークブックに用意されたコラージュ用の素材を自由に貼っていくこのワークは、
意味を考えるよりも、“なんとなく気になるもの”を選んで手を動かすことを大切にしています。

「正しい答えを出さなきゃ」という思考の枠からいったん離れて、感覚や無意識の動きを大切にする時間をつくる。
そのことで、生徒自身がまだ言葉になっていない気持ちやイメージに触れることがあります。

目で選び、手を動かし、黙って向き合う。
そのプロセスが、「わたしの願いは、こういったことなのかもしれない」という気づきを引き出す準備になります。


活動を支える“場”のつくり方:問いかけと沈黙を味方にする

こうした言葉に依らないアプローチを取り入れるうえで、私たちが意識しているのは、
「生徒が自分に向き合う時間を“妨げない”」ことです。

活動を進めていく中で、 「それ、どんな意味があるの?」「どういう意図?」とすぐに問いかけないことが大切です。
むしろ、「なんとなく気になる」で止まっている状態を、安心して続けられる環境をつくることが重要です。

・問いを投げかけて反応がなくても、あえて待つ
・無理に発言させない
・「気になる」「落ち着く」といった身体感覚を拾う

そうした“問いかけの間”や“沈黙の肯定”が、
生徒の内側にある言葉にならない願いが育つ時間になります。

「何をしたか」だけでなく、「どう“待つ”か」「どういう雰囲気の教室を創り出すか」も、
このアプローチには欠かせない視点です。


おわりに──「言葉の外側」に耳を澄ますということ

願いは、きれいなフレーズとして先に用意されるものではなく、
生徒が “感じる → とどまる → 少しだけ言葉にしてみる” という揺れの中で、少しずつ輪郭を帯びていきます。
私たちにできるのは、その揺れを急いで翻訳しようとせず、カードをじっくり味わう間や、コラージュを無言で貼る間に静かに寄り添うこと。

「いま、何が気になっている?」
「その“なんとなく”を、もう少し味わってみようか」

問いかけと沈黙を行き来するうちに、生徒の中でまだ名前のない思いが芽を出し、やがて探究のエンジンとして動き始めます。
言葉にならない時間こそ、学びが深まっていく時間――
そう考えると、 私たちの教室はもう少し寛いだ空気で満たされていくのではないでしょうか。


「MY PURPOSE」の詳しい内容はこちらからご覧いただけます!

このブログで紹介している「MY PURPOSE」は
探究を“自分ごと”にするために、願いに気づくプロセスを丁寧に設計したプログラムです。

導入を検討したい方、もっと具体的に知りたい方は、プログラム詳細ページをご覧ください。
MY PURPOSE プログラムの詳細はこちら 

教育と探求社 開発部 佐藤 瞬

上智大学大学院総合人間科学研究科教育学専攻博士前期課程修了。大学院在学中に、青年海外協力隊として中米・ベリーズに小学校教員として派遣。2年間の勤務後に、公立...

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