第3回:この後のプロジェクト型学習(PBL)が大きく変わる—願いドリブンな探究の行方

探究学習入門

「やりたいことが見つからない」「突拍子もないことばかり」問題

「好きなことをテーマにしていいよ」と言っても、
「特にやりたいこと、ないです」と返ってくる生徒。
一方で、
「宇宙で野菜を育てて世界平和を目指したい!」
と、どこか現実味のない構想を語る生徒も…。

このように、探究の中盤でよくあるのが、生徒の“願い”が社会と繋がりきらないという問題です。
それは、“わたし”と“社会”がうまく統合されていないという状態とも言えるかもしれません。


「とりあえず形にしてみる」ことで動き出す

そこで「MY PURPOSE-Advance-」では、願いと社会を接続するために、
STEP13以降でプロジェクトとして”一旦かたちにしてみる”ことを大切にしています。
また、「MY PURPOSE」においても、願いを基にここからの進路・キャリア・プロジェクトについて考えるためのワークシートを用意しています。

願いが現実と出会うことで、初めて
「これ、本当に自分がやりたいことかな?」
「誰かに届く形になってるかな?」
という問いが自然に立ち上がってくるのです。

第3回:この後のプロジェクト型学習(PBL)が大きく変わる—願いドリブンな探究の行方

「願い」をプロジェクトへ翻訳するSTEP12のワークシート

この“かたちにする”プロセスを支えるのが、「MY PURPOSE」独自のワークシートです。
生徒が自分のスタイルに合ったシートを選べることも特徴のひとつです。
入口が違う4枚のシートをめくりながら「これが自分たちっぽい」と直感で選ぶ瞬間に、探究はすでに“自分ごと”になります。
どのシートにも共通するのは、付箋と図解で書きながら考えられるように設計されている点です。

自分たちの願いを、誰に届けたいか?
どんな未来を描きたいか?
どんな行動をしてみたいか?

そうした問いに促されて手を動かしながら考えていきます。
そのことでアイデアが可視化され、チームの対話が自然に深まります。
このように、自分の内面と社会のニーズを“翻訳”する設計図として使えることも魅力です。


プロジェクトに“着地”したとき、生徒の眼差しが変わる

わたしの「願い」を具体的な誰かに向けて行動として落とし込んだとき、
生徒の中で「本当に自分がやってみたいことってこれかも」という手応えが生まれてきます。

例えば、ただ「ゲームが好き」という生徒も、
プロジェクトにしてみるプロセスを通じて「みんなで協力できる場をつくるのが楽しい」と気づき、
“学校の中で交流が深まるイベント”というプロジェクトに結晶化させていった例もあります。

そうして生まれた問いは、
「私はなぜこれをやろうとしているのか?」
「この願いは、誰の幸せにつながるのか?」


このように、願いを基にプロジェクトを検討することで、願いが育っていきます。


“かたちにする”ことで出会う、葛藤や問い直し

プロジェクト化するというのは、「願いを決定すること」ではありません。
むしろ、“願いを仮に社会に置いてみること”によって、揺らぎや問いが生まれてくることこそが大事なのです。

誰に何を届けたい?
このやり方で本当に伝わる?
そもそも、これって自分の願いだったっけ?

そんな葛藤や逡巡を通じて、生徒の中で願いは少しずつ磨かれていきます。
それは願いが「変わる」ということもあるし、「変わらずに深まる」こともあります。
大切なのは、願いを磨くための“摩擦”として逡巡や葛藤と出会うこと。
それが、願いが“生きた探究”へと育てていく道だと、私たちは考えています。


願いを出発点に、自分だけの問いを育てていく
~福山暁の星女子中学校の事例~

プログラムで掘り当てた〈わたしの願い〉を出発点に、各自が問いを設定し個人探究を行った、福山暁の星女子中学校2年生の学びをお伝えします。

1)“ギャップの魅力”を解剖する──仮説を背負って専門家の扉を叩く

なぜ人はギャップに惹かれるのか?という問いを探求した生徒が、大学の心理学教授へ宛てたメールには、次のような問いかけがされていました。

「ギャップがあるから惹かれる場合と惹かれた人の後付けとしてギャップが挙げられている場合があり、人類全員何かしらのギャップがあると感じています。その点についてどう思いますか?」

自分の考えを示したうえで専門家に問い直す――
そこには、仮説を言語化し外部リソースと接続する力が育っていました。

2)幸福論を読み切る──古典と私を往復する読書

ハッピーな人生とは?という問いに向き合った生徒は、岩波文庫から出ているアランとラッセルの幸福論を読了した上で展示を行っていました。

両者の幸福論のポイントを抽出しながら、自分なりに大切にしたいことを言葉にしていきました。
古典を“引用”ではなく“材料”として咀嚼する読書は、
テキストを自己の価値観形成に接続する力を育んでいることの証です。

第3回:この後のプロジェクト型学習(PBL)が大きく変わる—願いドリブンな探究の行方

3)ピントを外す美しさ──概念を体験へ翻訳する創造性

わざとボケた写真が示されて、メガネを外したときに見える様子を再現しようとしている展示がありました。
そんな彼女の問いは、「眼鏡を外すとなぜ世界は美しいのか?」でした。

抽象的問いをアート体験へ翻訳し、他者の感覚を揺さぶる――
概念を体験設計に落とし込むクリエイティビティが光っていました。

第3回:この後のプロジェクト型学習(PBL)が大きく変わる—願いドリブンな探究の行方

彼女たちに共通していたのは、以下のポイントでした。

  1. 自分の願いから問いが生まれた。
  2. 問いを深める方法を自力で選んだ。
  3. 簡単に答えを出さずに、探求をし続けた。

わたしの問いだからこそ、飽きずに追求をし続けられる。もっと気になるから人に聴いてみたくなる。
その楽しさを人に伝えたくなる。願いによって駆動された探求の力強さを感じさせる展示会でした。

担当の池田先生は
「この1年間、子どもたちの世界は大きく広がりました。 「好き」や「気になる」が「好奇心」へと変わる瞬間は、まさに学びの竜巻。 気づけば私も引き込まれ、いつの間にか一緒に夢中になっていました。 子どもたちが「問い、深め、語る」姿は、私たち大人の想像をはるかに超えてきます。これはもう、誰かに“させられる”学びではなく、自分の中から自然と立ち上がる学び。 その力が、子どもたちにはもともと備わっている──それを実感する毎日です」
と語ってくださっていました。
 

「MY PURPOSE」の詳しい内容はこちらからご覧いただけます!

このブログで紹介している「MY PURPOSE」は、
願いを起点にプロジェクトへと発展させる思考設計を支援するプログラムです。

導入を検討したい方、もっと具体的に知りたい方は、プログラム詳細ページをご覧ください。
MY PURPOSE プログラムの詳細はこちら

教育と探求社 開発部 佐藤 瞬

上智大学大学院総合人間科学研究科教育学専攻博士前期課程修了。大学院在学中に、青年海外協力隊として中米・ベリーズに小学校教員として派遣。2年間の勤務後に、公立...

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