休校後こそオンライン授業を活かす!

休校後こそオンライン授業を活かす!
探究学習入門

こんにちは、学校コーディネーターの佐原大河です。

私は、この春まで京都で教員をやっていました。その時の問題意識とネットワークを活かして、授業や探究活動の中での「発問の質の向上」を目的とした「問いクラウド研究会」というプロボノ組織を立ち上げ、今もなおその代表を務めております。京都府を中心とした関西エリアの多くの先生方が参加しています。

去る5月16日(土)に問いクラウド研究会主催で、「休校後こそオンライン授業を活かす!」セミナーを開催し、120人を超える参加者の方に先進校の取り組みの事例発表を聴いていただきました。

日本の教育現場はコロナ禍の中、混沌としています。今、少しでも前を向いて、生徒の学びを止めないように前進するためには、現場の生の声を知る必要があります。

今回、セミナーの参加者の中から有志でアンケートにご協力頂き、休校中および休校後の教育活動に関する調査を行いました。その結果を分析し、広く共有させていただくことで、みなさんと共にこれからの教育を考えていきたいと思います。

休校中および休校後の教育活動に関する調査 協力者
高等学校 教諭 56名(39校)
教員歴内訳 (5年未満 23.2%, 5-10年32.1%, 10-20年23.2%, 20年以上 21.4%)
京都府21校・その他の都道府県 18校
調査日 令和2年5月16日(土)
※アンケートの集計は京都府・その他都道府県で分けて集計を行いました。

1. オンライン授業に向けての準備は着々とすすんでいる

3月初めから生徒は学校に登校することができなくなりました。ここで注目されたのがLMSです。

LMS(Learning Management System)とは、教師と生徒をつなぎ、学習の場を提供するシステムのことで、代表的なものはClassiやGoogle Classroom、Edmodoなど、選択肢は多岐にわたります。

これまでデバイスを貸与または購入を入学の条件としていない学校では、生徒のデバイス所持率が100%でないことから、こうしたシステムは積極的には利用されてこなかった背景があります。しかし、このコロナ禍において、生徒への課題提示や連絡をスムーズに取ることができるLMSが注目されました。

初めは、生徒全員が等しくシステムにアクセスできないことから、各校において大きな議論がなされましたが、文部科学省が教育委員会らを対象に2020年5月11日に開催した「学校の情報環境整備に関する説明会」の中で発信された髙谷浩樹氏(文部科学省初等中等教育局情報教育・外国語教育課長)の刺激的な発言が流れを大きく変えました。管理機関や学校の管理職に向けた発信であり、今の教育現場においては、あるものは何でも活用し、生徒の学びを止めないために、これまでの常識から180°頭を切り替えてICTの活用に積極的に取り組んで欲しいという発言でした。

その直後に行われた本調査でも休校後のLMS活用に向けて前向きな姿勢がみられました。

<Graph.1-1> 休校中のLMSの利用率/学校単位[ n =21 (京都府) n=18 (その他都道府県)]

< Graph.1-1 > 休校中のLMSの利用率/学校単位[ n =21 (京都府) n=18 (その他都道府県)]

Graph.1-2 校再開後のLMS使用予定率/学校単位 [n =21 (京都府) n=18 (その他都道府県)]

< Graph.1-2 > 校再開後のLMS使用予定率/学校単位 [n =21 (京都府) n=18 (その他都道府県)]

京都府においては、Classiかスタディサプリを全府立高校に導入をする決定がなされているため、休校後のLMS利用予定率は100%となっています。また、その他都道府県においても80%を超える学校が今後LMSを使用したいと考えています。<Graph.1-1><Graph.1-2>

休校後においても、何らかの理由で登校できない生徒にアクセスする方法、あるいは分散登校により長くなった家庭学習を支えるツールとしてLMSが用いられていくことが予想されます。学校再開後の活用ツールとしてLMSはたくさんの学校で用いられていくことになると考えられます。

2. オンライン授業は生徒のモチベーションが鍵

学校で授業ができなくなり、多くの学校が紙やインターネットを使った課題の指示を行いました。最もオーソドックスなスタイルとしては「教科書を読み、問題集の指定ページをやっておく」というものです。

このスタイルでは、教科書を読み込み、理解できる生徒はそのような方法でも学ぶことは可能ですが、そうでない生徒は大変困難な課題となります。そこで、多くの先生方がオンラインを通した動画での授業(オンライン授業)をスタートしました。

本調査では、オンライン授業の中でも非同期型(双方向のやりとりがない配信型)動画課題の実施状況について、先生の年代別に分析してみたところ、非常に興味深い結果が得られました。下のグラフを御覧ください。

< Graph.2 > 出した動画課題の種類 教員別集計 /複数回答可・個人単位・全都道府県合算 [n = 56]

< Graph.2 > 出した動画課題の種類 教員別集計 /複数回答可・個人単位・全都道府県合算 [n = 56]

結果的に、本セミナーに参加した先生方のほとんどが、既存の動画教材か自作の動画教材を用いてオンライン授業を行っておられました。

着目すべきは、教員歴が長い先生方は、既存の動画を使う傾向にあり、5年〜20年の中堅の先生方を中心に自作の動画を使う傾向にあることです。< Graph.2 > 個人として動画制作のノウハウ(スマホで撮影し、Youtube等にアップロードするなど)を持っておられる先生方が多いのが原因であると考えられます。

セミナーの中では、生徒の動画視聴率は、初回は高いものの、その後は低下していくことが報告されました。生徒の視聴率を上げるためにテロップを入れたり、BGMを入れたり、エフェクトを加えてみたり・・・・ しかし、それがすぐできる先生であれば良いのですが、そのような動画の編集技術の習得に時間がかかる上に、習得したとしても使える場面が限定的です。
生徒の視聴率が下がってしまう理由の一つとして、生徒の学びに対するモチベーションの低下が考えられます。対面授業と違って、生徒と先生のやり取りが少なく、学びが深まる空気感がないため、教師の言葉、教材の中身が勝負となります。

オンライン授業において、もっとも重要なのは、生徒が思わずその課題について深く考えてしまうような「問いかけ」を工夫することです。また、通常の授業とは異なり、オンラインでは生徒は途中で視聴をやめることもできます。動画配信では、問いかけてからの生徒と教師とのインタラクティブなやり取りができないため、生徒の動機づけのためには、導入で使うような問い、身近な興味関心に沿った問い、思わず深く考えてしまうような大きな問いが重要になります。

有名な例では、「ドラえもんは生物か?」などがあります。ドラえもんのことはほとんどの生徒はロボットだと思っているため、そこから生物とはなにか?を考えていく過程が、生徒にとって意外性や驚きに満ちています。身近なところからスタートし、問いの切り口によって、そのものの異なる側面に意識を向けたり、そのものをきっかけとして視野を広げていったりする効果があるのです。私は教員の時に、反転授業を5年間やっていたので、その個人的な感覚からすると、教材に興味が持てれば、15分程度の動画であればすべて視聴させることができると思います。

3. 休校後こそオンライン授業を活かす!

さて、休校が明けた後の学校の運営はどうなるのでしょうか。本調査においては、休校後の対応について、「分散登校・時差登校」の回答が目立ちました。< Graph.3 >また、未検討が目立っていることも気がかりですが、公立高校では自治体の方針がでなければなかなか決めることができないなどの事情もあり、このような状態にあると考えられます。

< Graph.3 >各学校の休校後の対応 /複数回答可・学校単位 [n =21 (京都府) n=18 (その他都道府県)]

< Graph.3 >各学校の休校後の対応 /複数回答可・学校単位 [n =21 (京都府) n=18 (その他都道府県)]

分散登校・時差登校となれば、一人の生徒が授業を受ける時間が短くなり、自宅での学習時間が増加します。前述したように、自宅で教科書と問題集だけで学習することは多くの生徒にとって困難です。今現在作成している動画教材そのものやノウハウは休校後こそ活きてくると確信しています。

かといって、難易度の高い内容を動画に詰め込んでも生徒の学びには結びつきません。自宅での動画を用いた学習では、知識充填や基礎的な内容を中心とした難易度が低いもの、対面授業においては、生徒の様子を見ながら思考力が問われるものや他教科への関連が高いもの、教科の見方・考え方に迫る内容など、難易度の高い内容に踏み込む形が理想的ではないでしょうか。このためには、授業中に求められる発問の質が問われるのは言うまでもありません。限られた時間で生徒の思考を活性化させる必要があります。

このような授業形態は反転授業と呼ばれますが、反転授業はそもそもアクティブ・ラーニングの時間を捻出するための文脈としてしばしば用いられます。新学習指導要領に示されている「主体的・対話的で深い学び」を実現するためには、グループワークやペアワークを含む対話的活動がかかせません。

しかし、本調査結果にある、グループワーク(GrpW)やペアワーク(PW)不可の回答が多いことは大変憂慮すべき事態であると考えています。だからこそ、withコロナ時代においては、感染リスクの低い生徒同士のインタラクティブな活動や、オンラインでのディスカッションの可能性を模索する必要があります。

4. 探究活動から始まる学びの格差

本調査において、休校中の課題について、単に教科の学習について課題を与えるだけでなく、自ら課題を見つける、または、課題を自ら主体的に探究するような課題が出されているかを調査しました。

< Graph.4 > 休校中に各学校で探究的な活動を含む課題が出されたか?/学校単位 [n =21 (京都府) n=18 (その他都道府県)]

< Graph.4 > 休校中に各学校で探究的な活動を含む課題が出されたか?/学校単位 [n =21 (京都府) n=18 (その他都道府県)]

その結果、全体の40%強は探究活動を含む課題を提示していたことが示されました。< Graph.4 >さらに教員歴別に集計したところ、教員歴20年以上のベテラン層の先生方が中心になって出されていることもわかりました。

ただし、今回の調査では検討をされたかどうかまで聞いていますが、全体を眺めてみると全体の30%強は学校全体として検討すらされていないことがわかり、学校間の格差が浮き彫りとなりました。

5. 学校再開後 ― withコロナ時代の学校を考える

これまでの結果を整理すると、学校は分散登校・時差登校で授業時間が短くなります。また、感染拡大防止のため、協働学習が難しくなります。しかし、LMSが整備され、多くの子どもたちにオンラインでアクセス可能となります。子どもたちの主体的な学びをとめないためにも、その中でできる工夫をしなければ、教育格差は開く一方です。休校期間中、学校間での生徒の学びの格差は明確になってしまいました。

ただし、これからのwithコロナ時代の学校のありかたを考えることでその現状は打破できます。

まず、授業時間が短縮されてしまった教科教育はオンラインを活用し効率化をすすめます。LMSを活用した動画配信で基礎基本事項の確認や、対面授業に向けた動機づけを行います。基礎基本事項の動画配信については個別最適化学習を進めます。つまり、生徒がどこまで視聴するか、どれだけ時間をかけるかは、その生徒に委ねる、または、担任の教員が個別相談(Zoom等を利用)を通じて学習に伴走していきます。

学校での対面授業では、教科の見方・考え方の根本に迫る「問い」によって生徒の脳をアクティブにしていきます。対面授業であれば、教師が生徒の状況を見ながら発問を変えつつ授業を効果的に展開できます。また、教室では条件を統一できるため、形成的評価として小テストを実施して自分の実力を知ることも、その後の自宅学習での動機づけとして一つの有効な手だと思います。また、地域の実情に合わせて可能な限り工夫して、感染リスクを抑えた協働学習にも取り組みます。生徒同士のインタラクションが学校ならではの部分です。

また、大切なことは本当の意味での「主体的・対話的で深い学び」を実現することです。一方的な教科授業では各教科の基本的な見方・考え方を身につける事ができますが、それを活用する時間が必要です。まさに、生徒の好奇心を刺激する効果的な問いに対する考察や、総合的な探究の時間、理数探究がそれにあたります。

ただ、withコロナの時代においては、これまでは学校でしかできないと思われていた協働学習、探究学習が、自宅でも可能となります。地域の状況によっては、むしろ自宅でしかできない可能性もあります。それを実現するためには、双方向ビデオ会議を用いたオンラインでのディスカッションやブレインスト―ミングを実施する必要があります。教科の内容に結びついた課題研究や、PBL(課題解決型学習)など、探究の方法を対面授業や動画の中で伝えることができれば自宅でも可能です。また、オンライン環境になく在宅でひとりでもで取り組める探究活動については、以前掲載された福島さんの記事を参照ください。

ここで、新学習指導要領から引用させていただきます。

「このような時代にあって,学校教育には,子供たちが様々な変化に積極的に向き合い,
他者と協働して課題を解決していくことや,様々な情報を見極め,知識の概念的な理解を
実現し,情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくこと,複雑な状況変化の中
で目的を再構築することができるようにすることが求められている。」
高等学校学習指導要領(平成30年公示)解説 -改定の経緯-

それに応え、実践できるのは先生方であり、先生方の尽力なしには一部の子供たちだけしか本来の学びを達成できない世の中になってしまいます。問いクラウド研究会では、オンライン双方向授業、動画配信での反転授業、もちろん教室の授業においてもコアになる「問い」を探究し、そしてみなさんと創り上げるワークショップを随時開催していきます。また、先生方の授業を構築するアイディアの源泉となるような「問いクラウド」を構築いたします。教育と探求社では、探究学習プログラム「クエストエデュケーション」のオンライン対応、個人ワーク版の提供、3密を避けながらグループワークを行う方法のご提案など、この状況下で探究学習に取り組もうとする先生方を様々な方法でサポートしています。ぜひ、お気軽にお問い合わせください。

無料で実施できる「個人ワーク版」探究学習プログラムもございます。
「ソーシャルチェンジ・ファースト!」

学校コーディネーター 佐原 大河

大阪大学大学院理学研究科を卒業後、京都府立高校教諭へ採用され、園部高等学校へ赴任。理科教諭として、反転授業をベースとしたAL型授業や課題研究の開発、総務企画...

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