「探究学習の委員」をきっかけに生徒主体の授業運営。大阪青凌高等学校 永井 茜先生 居内 正先生
大阪青凌(おおさかせいりょう)高等学校では、高校2年生の総合学習の授業で「クエストエデュケーション」(以下、クエスト)を実施。2020年度は368名の生徒が、実在する企業にインターンとして参加し企業からのミッションに取り組む「コーポレートアクセス」のプログラムに取り組んでいます。
さらに今年度は、新しい取り組みとして「クエスト委員」を立ち上げました。各クラス2名、計20名の生徒たちが手を挙げて、生徒自身が授業づくりにも関わりながら進めています。
どのように生徒たちが主体となる授業運営をしてきたのか。今回は、高校2年生の総合学習の授業の推進を担当されている永井 茜(ながいあかね)先生(写真左)と居内 正(いうちただし)先生(写真右)に、学校コーディネータ―の菅澤 想(すがさわそう)がお話をうかがいました。
生徒たちと授業をつくる「クエスト委員」の立ち上げ
生徒たちがアンケートを依頼している様子
ー大阪青凌高等学校では生徒たち自身が「どのような授業にしていきたいか」考えている様子がとても印象的です。「クエスト委員」を立ち上げたのに、何かきっかけはありましたか?
永井先生:ひとりの先生からの「クエスト委員をつくってみようか」という言葉がきっかけでした。
クエストで生徒たちが企業のミッションに挑戦していく中で、街頭インタビューを行う回がありますよね。生徒たちから動きだす貴重な体験として、我が校の探究学習の中でも大きなイベントだと感じていたのですが、今回コロナの影響でそれができなくなって・・・。先生からこうしよう、ああしよう」というだけでは、生徒たちはどうしても受け身になりがちになってしまうので、どうしたらよいかと思っていたんです。
そうしたときに、クラスに「クエスト委員」という役割をつくってみようかと。その子たちと一緒に授業をつくっていったらいいものができるかもしれない、生徒たちが興味を持って自ら取り組めるきっかけになるかもしれない、と思って立ち上げました。
ーはじめ、生徒たちに任せられるだろうかと不安はありませんでしたか?
永井先生:そうですね、去年から本格的に探究学習に取り組む中で、生徒たちが自らの企画を発表したり、SDGsに興味がある生徒が集まって大会にエントリーしてみたり、ということがあったので、そうした探究活動に興味がある子たちがいると感じていました。
なので、クエスト委員のような取り組みも、やりたい子は各クラスから出るだろうと思っていたんです。そこの心配はあまりなかったですね。なんでなんですかね。笑
居内先生:うん、高校1年のときから、前に立ってしゃべるとかひっぱるという経験を生徒たちはしているので・・・。修学旅行も、学年で3つのグループにわかれてそれぞれ別の場所に行くんですね。その修学旅行を企画運営する修学旅行委員も生徒たちがやっています。きっと生徒からしたら自然な流れなんでしょうね。
ークエスト委員の生徒たちは、授業にどのように関わっていったのでしょうか。
永井先生:クエスト委員を立ち上げて、なにか大きな仕事をさせてあげたい、何がいいかと考えたときに、最初は街頭インタビューの代わりに保護者の方へのインタビューを企画しようと先生のあいだで考えていたんです。
でも、それだと生徒たちが接するのは限られた人たちになるし、回答数が少なくなってしまうとちゃんとした分析もできないからどうしようと悩んでいた時に、それなら学校のある島本町を巻き込もうという案がある先生から出ました。
「これはクエスト委員に大きい仕事をさせられるかもしれない」と思って、教頭先生に居内先生からかけあってもらい、近隣の企業や町役場、保護者の方にもにアンケートの回答を依頼することになりました。
生徒たちは、企業や町役場にアンケート調査の依頼文を作ったり、直接お願いをしにご挨拶にいったり、アンケートの回収とお礼も自分たちでしました。これまで関わったことがない大人たちに自ら関わりにいくという、新しい体験ができたと思います。
生徒たちの探究活動を保護者向けに報告した「探究レポート」
「あ、こんな意見もありなんだ」で夢中になる
ー生徒たちが授業づくりにも関わるようになってきたというのは、どのような様子なんですか?
永井先生:2学期になって、今は企画を考えるグループワークをしているのですが、教室でみんながどういうふうに話し合っているのか、その様子をクエスト委員の子たちが見て、意見をくれるようになりました。
担任の先生に、「もっとこうしたら活発に話し合えるようになるんじゃないですか」と提案してくれる子もいます。
居内先生:それはすごいね。
ーもともとそうだったのでしょうか。
永井先生:いえ、1学期はまだそうしたことはなかったんですよ。クエスト委員の大きい仕事は先ほどお話したようにインタビューのお手伝いをするということでした。
でも、授業の話し合いの回を重ねていくうちに、自分のクラスの課題が見えるようになってきたんだと思います。
先日菅澤さん(※インタビュアー)にきてもらって、クエスト委員の生徒たちと話してもらってから、さらに火が付いたみたいです。
ー「大阪青凌クエストぶち上げ会議」ですね。
大阪青凌クエストぶち上げ会議とは
大阪青凌高等学校の生徒たちと教育と探求社の学校コーディネータ―が話し合う大阪青凌高等学校の独自企画。永井先生から、「生徒たちの、自分たちが授業を一緒につくってるんだ、というモチベーションをあげたいので菅澤さんに会える機会をつくりたい」という話をいただいて実現しました。
「探究ってそもそもなんだろう」「探究学習ってやってるけど、そもそもなにやったら探究になるんだろう」「プレゼンやブレストをしたら探究なの?」ということを生徒たちと考えました。2019年のクエストカップ全国大会の作品をみて、「この子たちの探究ポイントてなんだったんだろう」「何をこの子たちは気づいてみつけて、それが最終プレゼンになっているんだろう」というのを考えました。
その後、クラスのクエストの雰囲気をどのようにしたいかというのを話し合い、生徒一人ひとりが意見を発表していきました。
→クエストカップ全国大会 作品リンク
ー普段、先生と僕(学校コーディネータ―)とのあいだで「授業のここはどうしようか」といっているようなことを、生徒たちにも一緒に参加してもらったんですよね。
やってみていかがでしたか?
永井先生:やっぱりというか、うちの学校の生徒の特徴かもしれないんですけれども、はじめは意見が全然出せなかったんです。それが、変わったなと感じました。
意見があっても、「言ってもいいのかな」って考えてしまって言えないことが結構あって。クエスト委員をやっている子でもそうなんですよ。やる気はあって、意見はあるけど、言えない。
でも、あのぶち上げ会議をやったときに、ブレストで、付箋に思ったことを書いて出していったじゃないですか。あれできっと「あ、こんな意見もありなんだ」「こんなふうに出していけばいいんだ」「もっと自由でいいんだ」って思ったんでしょうね。
一度体験したことで、「自分のクラスももっと盛り上げていかなあかん」という気持ちが芽生えて他人事から自分事に変わったたのではないかと思います。
クエスト委員の子たちが会議のあと、クエスト委員で決めた学年スローガンと自分たちのクエストに対する思いを自分のクラスで共有したのですが、それもすごくよかったみたいです。担任の先生方から、クエスト委員の子たちが探究に対しての目標を決めて、自分のクラスがどういうふうにやっていきたいかを熱く語ってくれたおかげで、そのあとの話し合いがいつも以上に活発になったと聞きました。
今までは、先生が言うことをクエスト委員としてとりいれて考えてみるけれども、ただ単に「自分がクエスト委員だから、自分がちゃんとしないと」というばかりだったのではないかな。クラス全体を見渡してここがよくないとか、もっとこうしていきたいというのは、思えていなかったと思うんです。
それがあの会議で、「クラスの課題はなんや」とか、「企画案をつくっていく上で何が大切なんやろうか」という問いを立てたことで、生徒たち自身がクエスト委員としてクラスをどうみるのか、という視点が加わったんだと思います。
居内先生:もしかしたら生徒たちは、正解がないのが怖かったんじゃないかな。
その都度、こっち(先生)がやる取り組みは、全部正解があるものだと思ってて。だからそうやって、ぶちあげ会議で先生も悩みながら進んでんねんなというのを目の当たりにすると、そういうものだったんだって思ったんちゃうかなって。なんかすごいそう思います。
もともとね、探究学習をはじめたのは、生徒らの本番力がないという課題感があったからなんですよ。実は5年前、10年前からずーっと言われていて。
模試ではすごいいい点数をとるのに、いざ本番では点数取らへんとか。成績がすごいあがってきているのに、公募制推薦に受かったらそこで「やめます」といって受験を終えちゃったりとか。最後までの粘り強さとか本番力がないのがすごい心配で。
そんなときにちょうど指導要領の改訂で「探究」という言葉がでてきたんです。「それか!」と思いましたね。生徒らが自分でとりにいくというか、目標をみつけるというか。探究をとおして生徒たちがほんまの目標、与えられた目標じゃないものを持てたら、変わるかもしれないと思いました。
そうしたもののきっかけになるかなと思って導入したので、今その2年生の話を聞いて、やはりよかったなと思いました。
ー本番力がないというのは、なんとなくわかります。「やりきって失敗したらかっこわるいんじゃないか」とか、「ここまででいいんじゃないか」とか、僕もそういう感覚がありました。中高で部活をしていたときも本番より練習のほうが好きで。でもそれってもったいないですよね。
探究の授業も、「ここまで考えればいいんじゃないかな」とか「周りからどう思われるだろう」とか関係なしに、生徒たちが「やりたいからどんどんやっていく」ということができるといいなぁと改めて感じました。
生徒たちが興味のある分野を探究していくものをつくりたい
ー今後、どんなふうにしていきたいというのがあれば聞かせてください。
永井先生:今後は学年での最終発表をしたいなと思っていて、その司会進行や運営をクエスト委員に任せようかなと思っています。
ポスターセッションもしたいなと思っているので、どういうふうにしたらポスターセッションのいい場ができるかというのも、生徒たちと一緒に考えていきたいと思っています。
ー学生のとき、僕はそんなことを考えたことなかったです。笑 生徒たちがお互い発表しやすいように場をつくるとか、面白そうですね。
居内先生:あとね、もうひとつ!
たとえば来年の4月、今の1年生が2年生になったとき、クエスト委員の子たちが1年生にクエストの説明をしにきてくれたらめっちゃいいなと思うんですよ。
先生が最初から前に立って「クエストとは」みたいな話をするんじゃなくて、生徒たちから「クエストはこういう趣旨で、こんななっておもろかったで」とか話してくれたり、1年生が話し合ってるところを先輩としてちょっと見に来てくれたり、そんなことができたら面白いなと個人的に思っています。
永井先生:あ、そんな話、前もしていました!大阪青凌探究チームをつくって、上級生が下級生に教えにいけたらいいなと。
居内先生:おもしろい、おもしろいな。先生は前に立たないようにしよう。生徒たちが後輩に語れるくらい、今は楽しんでやってほしいですね。
ー楽しみですね。最後に、クエストの経験で学んだこととか今後活かしていきたいことがあれば教えてください。
永井先生:クエスト以外でも活かすとしたら、生徒が自分たちで探究チームを立ち上げて、自分たちの興味のある分野を探究していくものをつくりたいですね。
居内先生:それいいね!
永井先生:今は主に総合学習という時間の中で探究活動していて、教科書があって、教員がいて、探究する時間が決まっている。そうじゃなくて最初から何も決まっていなくて、自分たちだったら何を探究するか、探究対象を自分で見つけて、ゆくゆくは卒業研究みたいなものをさせたいなと思っています。
1年生からでも練習を積めばできると思うんですよ。総合の時間をとびこえて、「自分たちでこれを探究する」というものを大阪青凌の生徒全員が考えられるようにしていきたいなと思います。
ーそれはいいですね。ありがとうございました!
大阪青凌高等学校
教育理念:国際社会に生きる理想の人間像をめざし、個性の伸長に配慮しながら、知・徳・体に調和のとれた「平和」を愛する人を、新しい展望と理想をもって育成する。主体的な学校生活を通して心身の発達を促し、自律性と判断力を身につけた人間を育成する。
https://www.osakaseiryo.jp/
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