「問い」で生徒の世界をもっと面白く!カードゲームで楽しむ ”クエスチョン・エックス”

探究学習入門

教育現場で注目される「問い」というキーワード。「生徒が問いを立てられない」「どうしたら興味をもってくれるんだろう」といった悩みを抱える先生方は多いのではないでしょうか?

そこで今回は、元高校教員が開発に携わった、カードゲームで生徒が問いを立てたくなる探究学習プログラム「クエスチョン・エックス」を紹介します。

問いを立てられなかった生徒たちが、自らの問いを立てることを楽しみはじめるのはなぜなのか?生徒たちが問いを立てられるようになることで、いったいどんな世界が待っているのか。プログラム開発に携わった元高校の理科担当教員・現在学校コーディネーターをつとめる佐原大河さんに教えていただきました!

問いが自然にできてしまう!カードゲームの探究教材「クエスチョン・エックス」

-問いの探究学習プログラム「クエスチョン・エックス」について、特徴や概要を教えてください

「クエスチョン・エックス(以下、QX)」は、「問い」をテーマにした探究学習プログラムです。生徒たちは、カードゲームを使って、問いを作り、問いをもって世界をみる楽しさを知っていきます。2023年に開発され、当初は80校、2024年の今では2倍の185校が導入し、現在約2万5000人の生徒がQXを体験しています。

近頃は「問い」というキーワードが教育現場で非常に重視されていますよね。一方で、先生方からは「探究学習で生徒が問いを立てられない」「生徒に問いを持って主体的に学んで欲しい」といった悩みをよくうかがいます。たしかに、生徒は自らが立てた「問い」でないとなかなか夢中になれません。しかし、「主体的に活動”させる”」というのが矛盾しているように、「自らの問いを”立てさせる”」ということもまた矛盾しています。

そんな中で、QXの特徴は「問いの立て方」ではなくて「問いが立ってしまうマインド」を育てられること。「問いを立てること」を目的にするのではなく、カードゲームを遊び感覚でやっているうちに「問いそのものが面白くなって、自然と問いが立ってしまう」ということを目指しています。

自然と「問いが立ってしまう」理由とは?

-QXではなぜ、「自然と問いが立ってしまう」のでしょうか?具体的に仕組みを教えてください。

まず、どのように生徒たちが「問い」を作っているのか、その方法をお話ししますね。

QXでは「テーマカード」と「クエスチョンカード」を組み合わせることで「問い」ができるという仕組みになっています。たとえば、「テーマカード」は「星」「自信」「力」といった名詞、クエスチョンカードは「〇〇はなぜ美しい?」「〇〇がない世界ってどんな世界?」といった問いが書いてあります。これらのカードを組み合わせることによって、問いが生まれます。無理やり考えようとしなくても、偶発的な出会いによって、ゲーム感覚で楽しみながら問いを自動的に立てることができるんです。

また、このようにしてできる問いは「答えのない問い」なので、正解はありません。たとえば、「”力”がない世界ってどんな世界?」という問いができたとすると、「物を持ち上げられない世界」や「走れない世界」「誰もが平等な世界」のようにそれぞれの生徒が答える内容が全く違うものになり、とても盛り上がります!

学校の授業って正解があるものが多いですよね。でもQXで出てくる「問い」はオープンで答えがなく、色々な考えが出てきます。問いに対して「みんなで考えるって楽しい」とか「みんな違うって面白い」といった雰囲気がどんどん流れていくので、教室が活性化していくんです。

前提となる経験や知識がなくても、「自分たちで考えるって楽しい!」という感覚こそ、このゲームで問いが立ってしまうことに繋がる入り口であり、QXの最大の魅力だと思います。

-「テーマカード」と「クエスチョンカード」が、生徒が問いを楽しむ入口に立つガイドとなるんですね。

そうですね。ガイドとなる「クエスチョンカード」の「問い」そのものにも、工夫があります。

先生自身が問いを立てようとする際、「前提となる教科の知識がないと問いは立てられない」と思われることも多いです。たとえば、「織田信長が負けたのはなんで?」「英語で同じ”a”なのに発音が違うのはなんで?」「氷は個体なのに水に浮くのはなんで?」といった問いは、歴史の知識や英語の知識、理科の知識がなければ浮かばないものですよね。だから、「前提知識がないから問いを立てられないんだ」と思うわけです。

ですが、QXのクエスチョンカードの「〇〇はなぜ美しい?」「〇〇がない世界ってどんな世界?」のような問いであれば、前提の知識は必要ありません。前提知識がなくても、問いが溢れる状態を作れるんです!

生徒自身の「問い」を広げることだけでなく、先生たちも生徒と一緒になって、「こういうのも問いになるんだ」「面白いじゃん!」と思えたら嬉しいです。

-問いを作る教材は色々ありますが、QXだけの強みはありますか?

QXの強みとしては、やはり「問いの立て方」ではなくて「問いが立ってしまうマインド」を育てられることです。

QXで問いの楽しさを体験することで、「これはどうなっているんだろう?」「あれはどうして?」と、考えることが楽しくなる。そうして考えてみると、「じゃあこれはどうなんだろう?」「こうしたらどうなんだろう?」と、またさらに新しい問いが生まれてくる。

すると、それまで毎日歩いていた通学路がちがって見えたり、当たり前だった教室に疑問を持ったり、どんどん世界をとらえる解像度があがっていきます。

さらには「これはなぜ?」と興味を持つところが自分と友だちとで違っていることから、「この人は何に興味をもつのか」「何を大切にしているのか」と自分や他者の世界観をより深く知ることができます。また、数学や理科、社会や国語といった各教科についても、ただ知識を覚えるのではなく、その教科の体系立てられた世界観を自分の持った問いをとおしてみることで吸収し、世界の見方を広げることができます。

そうして生徒自身の世界観が変わること、本当の人間的な成長につながることが、QXの強みだと思っています。

「問い」を楽しみ、深めていく生徒たちのようす

-実際に生徒がQXを使っている様子について教えてください。

特に印象的だったのは、2つあります。ひとつは、小学4年生の授業を見学した時のこと。「星がない世界ってどんな世界?」という問いに対して、ある男の子が「昼間も夜も真っ暗な世界」と書いたんです。「夜だけじゃなくて昼間も真っ暗?どういうことなんだろう」と思って話を聞いていると、「太陽も実は星だから、星がないってことは太陽もなくなるし、夜に空に輝いてるあの星もなくなるってことは、昼も夜も真っ暗になるんだ」とのこと。。

また、同じ「星がない世界ってどんな世界?」という問いに対して、別の子は「寂しいクリスマスになる世界」と書いていました。これは、「クリスマスツリーの上についている星がなくなるとすっごい寂しいな」と思って書いたんですって。

班の子たちも、私も、2人の答えに「なるほど〜」とうなずいていました。なんだか見てる世界も観点も全然違うけれど、それぞれがその班の中で受け入れられ、盛り上がっている様子を見て、「違うことが良しとされている」「違うからこそ面白いよね」という雰囲気がどんどん溢れてくるのがとても面白いなと思いました。

もう一つは、ある生徒の問いがどんどん深まっていくようすです。「5レンジャーの中で自分は何色か」という問いからスタートして、「5レンジャーの赤はなんでリーダーなの」とか「5レンジャーの緑はなんでそんなにおちゃらけものなの」という問いが生まれていきました。それだけでも十分面白いのですが、さらに「5レンジャーの中での役割・キャラクター」について掘り下げていった結果、あるタイミングで「家族」というテーマに切り替わったんです!

そこで、生徒自身が「私は家族の中でどんな役割なんだろう」という問いに直面しました。こうした問いが生まれたのは、家族の中での自分の役割に元々関心があるからだと思うんです。このように問いがどんどん連鎖していくことによって、その人が無意識に持っている本来の興味関心に辿り着いたのが、QXの可能性を感じた瞬間でした。

問いで教科をもっと面白く!先生方と共にこれからの教育を作っていきたい

-今後のQXの目標や願いはありますか?

QXを探究学習だけでなく、教科の基盤を作ることにも繋げていきたいと思っています。教科学習の本来の目的は、大学入試に向けて良い成績を取ることでなく「自分と世界との関わり」を知って、その関わり方を「変化させていくこと」だと思うんです。

僕自身、探究と教科の間に断絶があることにずっと問題意識を感じていました。総合的な探究の時間の中では、先生が生徒に問いかけたりして「生徒の主体性を引き出す」ということを行っているにも関わらず、教科になると急に一方的になったり、正解を押し付けたり、生徒自身が考えるということをあまりさせていなかったり。

教科学習を通じてどんどん自分の見える世界が豊かになって、「この世界って面白い」「この世界って生きるに値する」と生徒が思えることこそ、教科学習の本来の価値ではないでしょうか。QXを使って、生徒自身の世界の見え方や関わり方を変えていくために、教科学習の基盤となるQXをさらに進化させていきたいです。

-先生方に向けてメッセージをお願いします!

QXは元々、探究と教科を繋ぎ止めるようなプログラムがあるといいよね、という考えの基で企画がスタートしました。そこを繋げるキーワードって一体何なんだろうとみんなで模索した結果、「問い」にヒントがあるのではないかとなったんです。一方向的な授業から抜け出し、先生たちが教科学習の見方や考え方を改めて考える時に非常に有効ではないかと考えました。「問い」こそが探究の起点となり、教科と探究をつなぐ掛け橋となるのではないでしょうか。

そんなQXは、問いを立てたくなるプログラムですが、問いを立てるということはすべての教育のみで完結するものではありません。QXを出発点として、教科学習や個人探究に繋がっていきますし、私たちだけでは絶対にできないことを先生方と一緒に考えることでQXのさらなる活用法を編み出し、進化させていきたいと思っています。先生方との対話を通じてあらゆる可能性を探り、一緒により良い教育の未来を考えていけたら嬉しいです!

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下山田新菜

明治大学国際日本学部4年。クエストカップ2024に学生スタッフとして参加し、ファシリテーターを務める。現在は教育と探求社のライターインターンとして活動中。

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