探究学習の「土台」に注目できていますか?【先生のための振り返り企画 Vol.1 根っこ】
「探究学習をやってみてはいるものの、これであっているのかわからない」
「このやり方で、本当に生徒の学びになっているのだろうか」
「生徒がより深い学びにつながるようにサポートしたい!」
2021年に中学校、2022年に高校の学習指導要領に追加されてはじまった総合的な学習(探究)の時間。数年が経過してそれぞれの学校で様々な取り組みがなされているものの、そのやり方に正解はなく、どうすればよいのか試行錯誤されている学校も多いのではないでしょうか。
今回は、探究学習についてどのような視点で捉えればよいのか、教育と探求社でプログラムの開発を手がける佐藤瞬が全3回にわたり解説します。探究学習の全体像をとらえながら、ぜひ去年までの探究学習を振り返り、次年度につなげていきましょう!
【全3回】振り返り企画記事はこちら!
Vol.1 根っこ> Vol.2 幹> Vol.3 果実>
探究学習を「木」に見立てて全体を捉える
探究学習において、「プレゼンがうまくできたかどうか」「提出物がきれいにまとまっているかどうか」など、生徒が作成した成果物をもとに生徒の学びを判断してしまうことがよくあります。
しかし、探究学習における学びは、必ずしもプレゼンや提出物といった成果物だけに表れるものではありません。「いままでとは違う視点で物事を見たり、考えたりできるようになった」「自分の意見をもつようになった」など、見えづらいところにも生徒たちの学びによる変化は表れているのです。
それらを含めて探究学習の学びを見取り、探究学習をとおして生徒の内側に何が起こっているかを知ることで、生徒の活動や言動に対する捉え方が変わり、さまざまな角度からの働きかけが出来るようになります。
今回は、探究学習の全体を「木」に見立てて、どのように学びが起こっていくのかを見ていきましょう。
木は、土に「根っこ」を張り、成長して「幹」が伸びて太くなり、そして「果実」をつくります。探究学習でも同じように、プレゼンやポスターなどの成果物という「果実」ができる前に、「根」を張り、「幹」が伸びて太くなる過程があります。
それでは、探究学習における「根っこ」とはなんのことでしょうか?
それは、生徒自身の信念や物事の見方です。つまり「自分はどのようにこの世界を捉えるか」「どのように他者や出来事を認知するか」ということであり、こうした「自分なりの見方」があることで、心からやりたいことができたり、自らの想いを語ることができたりします。逆に、これがないと、自分が何をしたいのかわからなかったり、人から求められる答えばかり出してしまったりします。
次に、探究学習の木の「幹」はなんでしょうか?
幹は、探究学習における活動です。話し合い、調べ物、フィールドワーク、アンケートなど、生徒が取り組む活動を表します。話し合いなどの活動が「行われている」ということも大切ですが、活動が形だけのものになってしまっては生徒の熱のこもったアウトプットは出てきません。活動の様子、たとえば「活動に生徒たちがどれくらい乗っているのか」「どのように話し合いが行われているか」「どのような思考や情動が働いているのか」といったことに意識を向けながら、ときには「根」に立ち戻りつつ活動をサポートすることが必要です。
そして最後に、探究学習の「果実」についても確認しておきましょう。
果実は、プレゼンやポスターなど生徒たちの最終アウトプットを表します。一番目に見えやすく、学びの成果としてとらえやすい部分です。しかし、ただ「上手にプレゼンができているか」「綺麗な形にまとまっているか」ばかりに注目していると、どこかで誰かがいっていたような「正解」を生徒たちが持ってきてまとめただけといった形になってしまうこともあります。
生徒たちが自ら考え、思いのこもった成果物をつくりあげるためには、「根」や「幹」が大きく関わっています。このように、探究学習は生徒自身のものの見方である「根っこ」、活動である「幹」、成果物である「果実」といった複数の要素が複雑に絡み合い、相互作用しあいながら学びが生まれています。
探究学習での生徒の学びを評価する際には、「いま、何を学びとしてみているのか」を意識しながら探究学習の「木」全体を見ていきましょう。
これから全3回に分けて、探究学習の「木」の3つの要素、「根っこ」「幹」「果実」について詳しく解説します。まずはじめに、生徒自身の信念や物事の見方である「根っこ」について見ていきましょう!
「やりたいことがわからない」はなぜ?自分の思いを語れない理由
探究学習の「木」において、「根っこ」は地面から栄養を吸収して広がり、幹を支えています。「根っこ」とは、これまでの人生で培われた生徒自身の信念や物事の見方です。
自分の信念がなかったり、自分の物事の見方に自信を持てなかったりすると、「誰かが言ったこと」「世の中でよいとされていること」など自分の外側に答えを求めてしまい、いざ進路選択や就職など自分で選択する場面において、やりたいことがわからなかったり、思いをもって何かに取り組むことが難しくなってしまいます。
つまり、「やりたいことがわからない」「なにをしたいかわからない」といったことは、自分の信念や物事の見方、すなわち「根っこ」に栄養がいっていないから起こっているのです。
逆に、自分なりの信念や物事の見方があると、「これをやりたい!」と思いを持って活動できたり、誰かが言っていたからではない「自らの考え」を持つことができます。
それでは、探究学習で「根っこ」を育むには、どのようにすればよいのでしょうか?
成果物ばかりに意識を向けすぎていませんか?
探究学習で「根っこ」を育むために、まず気を付けるべきポイントをお話ししましょう。
探究学習では、プレゼンやポスターなど成果物が注目されやすく、先生の意識も成果物に向いていることが多いです。そして、「上手なプレゼンをしよう」「綺麗なポスターを作ろう」といったことに先生の意識が向いていることを感じとり、生徒たちは探究学習の授業において「効率よくいい成果物を出そう」ということを目標にしてしまいがちです。
すると、探究学習は「いかに早く、よいとされる成果物を作るか」というゲームになってしまいます。そして、よいとされる成果物を作るためには、いいか悪いかわからないものを自分で考えるより、外にある“正解”を持ってくるのが効率的なのです。
しかし、このやり方は自分の意見がないため当事者性が薄く、正解探しをするリサーチ能力は育っても、自ら考える力は育ちづらいです。「やれと言われたからやりました!」で物事が進み、生徒自ら「やりたい」「こうしたい!」という気持ちや願いを持って探求していく体験を得ることが難しくなってしまいます。
このような探究学習では、自分の信念や物事の見方といった「根っこ」を育てることができず、「なぜこの活動をするのか」自分なりの意義も見いだせないまま終わってしまいます。自ら考える体験が足りず、いざ自分で選択する場面において「やりたいことがわからない」「何をしたいかわからない」と進路選択に迷ったり、その先の就職活動で悩んだりしてしまいます。
探究学習の「根っこ」、生徒の思いが育つには?①成果物だけを見ない
自分なりに考えることができる、思いを持ってなにかに取り組める・・・。そのような生徒の「根っこ」が育つ探究学習を目指すには、具体的にどのようにしたらよいでしょうか。
まずは、先生方が成果物という「果実」の出来だけでなく、探究学習の「木」全体に目を向けることが大切です。すなわち生徒の信念である「根っこ」や、探究活動の「幹」の成長も探究学習の成果としてとらえ、気づいて認め、声かけをしたり、成長できるように支援したり見守ったりします。
探究学習の成果というと、「こんなプレゼンを見せるのは恥ずかしい」と思ったり、逆によくできたポスターだけを見せたくなったりすることもあるかと思いますが、これは成果物だけに目を向けているから起こることです。探究学習の成果というのは、成果物のことだけではありません。
「生徒はどのように考えたのか」「興味関心はどのように深まっていったのか」など、生徒の内側に目を向けると、これまで気付けなかった生徒の成長や変化に気付き、先生ももっと探究学習が楽しくなるかもしれません。
探究学習の「根っこ」、生徒の思いが育つには?:②安心安全の場づくり
そして、生徒の信念や物事の見方という「根っこ」を育むためにもうひとつ大切なのが、環境です。いくら「根っこ」が育つ力を持っていても、土壌が整っていなければ芽を出すのは難しいでしょう。そこで大切なのが、生徒が自らの思いや考えを安心してその場に共有できる、「安心安全の場」づくりです。
たとえば、ヒエラルキー構造があるクラスは、安心安全の場になっておらず、生徒自らの思いはなかなか芽を出すことが難しい状況となっています。「自分が本当に思っていることを言ってもしょうがない」「これを言っておけばいいんでしょ」という気持ちになってしまうため、予定調和の答えらしいことは出てきても、自分の本当の思いは出てきません。
生徒たちが「自分が何を言っても平気だな」と思える「安心安全の場」はどのように作れば良いのでしょうか?
たとえば、探究学習の授業を「このような場にしよう!」とルールと決めて、生徒たちと共有することができます。
安全安心な場をつくるためのルールとしては、以下のようなものが考えられます。
1.他人の意見を否定しない
2.自分の意見を否定しない
3.意見をどんどん出そう
「安心安全の場」の作り方については、別記事で詳細を解説しております。こちらもぜひご参照ください。
探究学習の「根っこ」、生徒の思いが育つには?:③新しい視点との出逢い
さて、ここまで生徒の信念や物事の見方である「根っこ」を育むためにできることをみてきましたが、あらためて「根っこ」が育つとはどういうことでしょうか。
「根っこ」すなわち生徒の信念や物事の見方が育つとは、生徒の「物事の見方が変わっていく」ということです。世界を見る目が変わり、物事を深く広く見ることができるようになり、自分や他者の捉え直しも起こります。
そして、このような「物事の見方が変わっていく」という変化は、自分の中だけで完結して起こるものではありません。他者や社会といった”外の世界”で自分以外のものに出逢うことが大きな変化のきっかけになっています。「この人はこんなふうに考えるのか」「こんな見方があるのか」と自分とは異なる外からの刺激を受けることが、「根っこ」の成長につながっているのです。
「世界って美しい!」や学びそれ自体が楽しいとわくわくすること。「センスオブワンダー(自然に触れて深く感動する力)」と言い表されたりもしますが、自分の心が動くことに出会う、これこそが学ぶことであり、探究学習はこの機会となります。
生徒たちに自分とは違う新しい考えや、物事の見方と出逢う機会を作ることが、生徒自身の思い、すなわち「根っこ」の成長につながっていきます。そして、新しい考えや物事との出逢いは、探究学習の活動でも起こります。
次回の記事では、探究学習の活動である「幹」についてみていきましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回は探究学習を「木」にたとえて、その「根っこ」である生徒の信念や物事の見方についてお話をしてみました。
探究学習ではプレゼンやポスターなどの成果が注目されがちですが、生徒が自ら「やりたい!」という思いを持つことができるかどうか、自ら考えられるかどうかはこの「根っこ」の部分が大きく関わっています。
生徒たちにどんなふうに世界をみてほしいのか、この学びを経験するなかでどんなふうに世界をみてほしいのか、そしてどんな発見をしてほしいのかといった願いを持ちながら、生徒たちの内側の成長を見守っていきましょう。生徒の思いを育てるために、今回の記事の内容が参考になれば幸いです。
次回は「根っこ」の上にある「幹」、探究学習の活動についてお話します。
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