高校生が英語で企画発表!「使える英語を身につけさせたい」浦和学院高等学校の英語探究事例
「生徒たちに、使える英語を身につけさせたい」
さいたま市にある私立「浦和学院高等学校」は、2021年度から難関大学への現役合格を掲げる「特進類型」と、グローバルリーダーを育成する「国際類型」のコースに、英語を用いながら社会課題の解決に取り組む探究学習プログラム「ソーシャルチェンジ・イングリッシュ」を取り入れました。
先生方はどのように英語を取り入れて授業を進めているのか、生徒たちはどのように英語を活用しつつ学びを深めているのか。特進類型にて生徒たちの指導にあたる、英語教諭の星野光代先生にお話をうかがいました。(文中敬称略)
「社会で役に立てる」英語力を生徒へ
星野:英語を用いながら社会課題の解決に取り組むプログラム「ソーシャルチェンジ・イングリッシュ(以下、SCE)」を取り入れたきっかけは、2022年度からの学習指導要領の改訂で「総合的な探究の時間」が打ち出されたことです。
本校の場合、改訂前の「総合的な学習の時間」は、大きな声では言えませんが、事実上学年集会や全校集会、行事の準備に充てる時間となってしまっていました。推薦入試のために小論文の指導などもしていましたが、「総合的な探究の時間」に変わるのに際し、本来の教育目標に沿った「生徒たちが体系的に学べるカリキュラムを作ろう」ということになり、「ソーシャルチェンジ」のプログラムを知りました。
「ソーシャルチェンジ」では、生徒が身近な社会課題を発見し、解決するための企画を考え発表します。また、その英語版としてSCEがあることも知りました。説明を聞き、教師同士の模擬授業でプログラムを試してみて、「特進類型や、国際類型ならば英語版を取り入れられる。英語×探究とは、まさに理想的なプログラム!」と思いました。もともと生徒の英語力をもっと強化したいという願いがありました。とくに特進の場合、最終的な進路の獲得は、「英語を自分の強みにできるか否か」によるところが大きく、入試形式に左右されないしっかりした英語力を身に付けさせることが長年の課題でした。
現実として、高校の英語学習はゴールに大学受験・進学があり、ガリガリと問題演習をやり、入試問題を解き、合格してナンボというのは否定できません。その蓄積があり、私もずっとそういう指導をしてきました。しかし、もちろん英語を習得する意義は、「大学に合格する=入試問題が解けること」だけではありません。大学入試の在り方も変わってきました。専門領域の読解ももちろん必要ですが、実社会で使える英語を身につけるべきだという流れにあります。
英語教育は本来どうあるべきか。現在も模索し続けていますが、目の前の相手が、または読み手が何を言わんとしているのか、何とか理解して、自分が伝えたいことを何とか形にする。理解する努力をして、伝える努力をする。それを母語が異なる者同士でも可能にする。それが英語を習得する大きな意味だと思います。勉強する意味は究極的には人の役に立つことだ、というのが本校の建学の精神です。自己実現のために学ぶのではなく、社会に貢献できる人になるため、人に、あなたが必要だと言われる人になるために勉強するのだ、という精神です。
SCEでは、英語を通じて社会課題に触れ、解決に向けて自分たちにも何かできないか考えたり、それを英語で発信したりしていきます。この取り組みを通じて、教科書から一歩離れて、現実社会で世の中をちょっとでも変えられるかも、変えてみたい、ということを感じられたら、生徒たちにとって英語は社会と関わるために必要な、よりリアルなものになっていくと思います。
どのように英語をとりいれて授業を進めるか
授業は、まず2020年度の冬休みに数日間の短期集中のものを試行、2021年度からは年間プログラムとして特進3クラス、国際1クラスの1年生約80人が取り組みました。
星野:私は特進の指導にあたりました。年間でSCEを実施した1年目の2021年度は、3クラスの生徒たちをもっぱら英語の力でグルーピングしたのですが、グループで取り上げるテーマが関心のないものになった生徒がやる気をなくしたり、時折、仲たがいしたりする場面がありました。
そこで2年目の2022年度は、各クラスの担任の先生方が、生徒たちの興味ある学問分野に基づいてグルーピングしてくれました。クラスの枠を越えて、たとえば「教育に関心のあるグループ」「経営や経済に興味があるグループ」といった形で、1グループは4〜5人ずつです。この方が、将来、就きたい職業とか、関心がある分野での社会的課題とか、取り上げるテーマを絞りやすくなり、まとまりは格段と良くなりました。生徒たちの元々持つ気質が似ていて、波長も合っていたのでしょうね。
授業は、全体を大きな教室に集めたかったのですが、コロナ禍ということもあり、通常授業では3教室に分かれて、教室同士をZoomで繋ぎました。「こういう意見があがったけれど、どう考えればいいだろう」などと、私が全員に投げかけるのは、基本全部、英語です。通じていないと感じたら、英語と日本語の両方で話しました。パワーポイントも日本語にしました。英語が苦手で何を言っているか分からない生徒でも、パワポを読めば分かるようにしました。
生徒たち同士での話し合いも、英語にしたい思いはありました。リーダー役の生徒は頑張って英語で話していましたが、実際、とびかうのは大体、日本語でした。それでも、生徒たちの間で、できるところだけでもいい、英語で話すのが恥ずかしくない雰囲気はできてきたと思います。「日本語と英語と、両方使ってもいいじゃん」みたいな。正確さはさておき、伝えたい「何か」を持つこと重視で、単語だけでも、ちょっとずつ絞り出して相手に伝えるようになっていったと思います。
課題は、生徒によるリサーチ作業です。現実的には、情報を集める作業まで英語にする時間を確保できませんでした。日本語でもっぱらリサーチしながらテーマを固め、何ができるか練り上げるのも日本語でした。
しかし、それでも、各ステップのアウトプットとなる発表のところだけは、絶対、英語にしました。発表するときの姿勢、目線、英語での表現のしかたも、かなり力を入れました。生徒は全員、パソコンを1人1台持っています。翻訳のアプリを、教えていなくても使っています。でもアプリだと、そもそも名詞を動詞として使ってしまったり、不自然でぎこちない文章になったり、逆に、きれいな文章になりすぎたり、読み物にはなっても、話すと伝わりづらい。伝わらなければ、きれいな文章でも意味がありません。「聞き手に伝わるように、もう1回書き直して」と何度も言いました。
それに、原稿を読みながら話すのでは、聞き手に思いが伝わりません。機械が作った文章を、丸暗記しただけになっても、文章に抑揚がなくなり、全く伝わりません。短く切ってもいいし、中学生が書くような文章でもいい。自分の言葉にすることが大切です。聞き手に伝わる表現にすれば、覚えやすくなりますし、気持ちもこもります。
社会課題となると専門的な用語も出てきます。日本語の文章力のある生徒だと、大人っぽい英語に訳してきます。自分は伝えたつもりでも、その分野の知識のない相手に伝わるかどうかは別です。このことを理解してもらうには結構、時間がかかりました。
さらに、自分の言葉で語れるようにするには、たくさん読むことが大切です。いわゆる多読。教科書のレベルで2学年ぐらい下がった易しめのレベルの本をとにかくたくさん読む。朝、学校に来たら、まず30分〜1時間ぐらい英語の本を読む時間を設けました。
「英語で伝えたい」発表の場で見えた生徒の成長
生徒たちの考えた企画を発表する機会は、校内のみに留まりません。毎年2月に開催される「クエストカップ全国大会」。浦和学院高等学校では、2022年度、全国の生徒たちが集まる本大会のSCE部門に、校内発表会で高評価を得た3グループが出場しました。
星野:「クエストカップ全国大会」を目指すことで、まずリーダーが育ちました。発表をいかに良くするか、台本の内容を練ったり、発表者の動きを考えたり、ポスターの他に紙芝居を作ったり。必死に取り組んでいました。生徒同士で練り上げ、発表の形式まで進むと動画に撮り、それを他の生徒たちに見せ、意見を聞いて、また手を加えたり。リーダーを中心に、生徒たちが自分たちで、どんどん動くようになりました。
グループの発表が形になってくると、生徒各自が英語の台本を覚えて、伝わるように話すのは、もう各自の責任です。それに生徒自身が気づきます。発音がうまいとか、へたとかに関係なく、各自が各自の担当パートを表現することに関しては、自分でできるようにするしかありません。家でも相当、練習していたと思います。そのうえで、全体の動きとか、発表に使うツールをどうするかとか、みんなで考える。グループ全員が同じ方向を向いていると感じるようになりました。
生徒の成長を一番感じたのは、各校の発表後、審査委員の方々が英語でコメントして下さったときです。たくさん褒めて下さって本当にありがたかったのですが、最後に、「この辺はどう考えましたか」とか、「どこを苦労されましたか」とか、英語で聞かれるわけです。大体の子は、言いたいことに英語が追いつかず、日本語で答えていました。それでも何人かは一生懸命、英語で伝えようとしていました。
英語での発表を終えて、英語でコメントをもらって、その後、英語話者の審査委員の方や、他の高校生たちが聞いている中で、その場で聞かれたことに、自分の考えを英語で言おうとする。なかなか簡単にはできません。内心、ドキドキしながら日本語で答えてもいいのに、とも思いましたが、一生懸命英語で答えようとする姿を見て、感動しました。これまでのプロセス、自分がやってきたことを受け止めて、何とか英語で発信したいという気持ちになっている。優勝と同じぐらいの最大の成果だと思いました。
英語で、国を越えて発信できる
本来的な英語習得の意義は、英語で「おしゃべり」できるようになることに留まりません。生徒たちも、卒業後必ず直面するはずですが、世の中は解決の難しい課題にあふれています。自分たちで社会課題を発見し、その原因や解決方法を考える、そしてそれを自らの言葉で伝えようとする。SCEではこの体験を通じて、英語が使えるようになることの大きな意義を、学べると思います。確かに日本語を母語とする生徒にとっては、日本語の方が、自分の言わんとしていることが正確に伝わるでしょう。しかし、それだと日本語がわかる人にしか発信できないし、理解してもらえません。英語で取り組むことで、自分が学んだことや意志や情熱をことばにして、国を越えられる。生活のレベルを超えて発信できる。世界中の人と意見を交わせると感じられる、そんな仕掛けがSCEにはあると思います。
社会課題に対し、より多くの人に、自分の思いを届け、自分が学んだことや、周囲と協力して作り上げたものを伝えられるようになる。知識・技能の習得に留まらない、思考・判断・表現であり、生徒が主体的に学ぶことの実体験だと思います。
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