「なりたい自分」から将来を描くー山形県東根市立第二中学校の探究実践事例ー

学校事例

「総合的な学習の時間で何をしたらいいのか分からない」

「総合の授業が単なる調べ学習で終わってしまい、手ごたえがない」

「進路や自分のこれからの人生について生徒自ら考えるきっかけがほしい」

総合的な学習の時間や、探究的な学習の時間に何をするかに悩んでしまっていたり、SDGsなどを用いながら調べ学習をやっているものの手応えをあまり感じられなくて困っていたりしませんか?

山形県東根市立第二中学校では、探究学習プログラム「クエストエデュケーション(以下クエスト)」の「ザ・ビジョン」を2023年より導入し、現在2年目をむかえています。

今回は、同じような悩みを持っていた、山形県東根市立第二中学校の総合的な学習の時間の担当を務める佐藤陽子先生(以下、陽子先生)と中学2年生の担任を務める佐藤昂大先生(以下、昂大先生)に、クエストと出会ったきっかけから導入の経緯、実施の様子についてお話をうかがいました。

「ザ・ビジョン」とは?
「探求する大人たち」が語る「いまを生きる大切さ」から授業をスタートする全4回の探究学習プログラムです。人が誰しも経験する“熱中”体験を通して、生徒たちが大切にしている価値観を語り合い、いま自分らしいあり方や生き方とは何かを、深く探究していきます。
詳細はこちらからご覧いただけます。

インタビュアーは学校コーディネーターの本田友美さんです。

「もっと生徒の学びの時間に力を入れたい」という想いで導入開始

山形県東根市立第二中学校ホームページより引用

ー学校としてどのような課題を持ち、探究学習プログラムの1つ、「ザ・ビジョン」の導入に至ったのかをお伺いしたいと思います。

陽子先生:導入する前までの総合的な学習の時間では、SDGsなどの調べ学習を行っていました。

しかしSDGsは取り扱いが難しく、「調べて終わり」な雰囲気になりがちで、生徒たちもあまり楽しそうではなかったんです。やはり実際に外に出て活動したほうが、学びの手応えがあるかもとも思いましたが、コロナ禍の影響もあり、外で課題解決型の学習を行うことも難しいと感じていました。

そこで「今後、総合の授業をどうしようか」と授業担当者や学年主任と集まって話し合いをしていたとき、近隣の学校でクエストエデュケーションの教材を取り入れていることが話題に上がったのです。

教員が「総合の授業の時間、何をしよう?」と授業内容に悩むのではなく、もっと生徒たちとの時間に力を入れられるようにしたい。そのために教材があるとよいと思いました。また、もともと私の学年(中学2年生)で予定していた、「立志式」という、生徒たちが自らの生き方を漢字一文字で表し発表するイベントと、「ザ・ビジョン」のプログラムが内容的に重なる部分もあり、すごくいいなと感じました。校長先生に「やってみたい!」とお返事して導入が決まりました。

ーそうだったのですね。昂大先生はいかがでしょうか。

昂大先生:これまでは、生徒たちも「立志式があるから考える」というように、立志式をやること自体が目的化してしまっていたかもしれません。

「ザ・ビジョン」のプログラムを知った時、まずいろんな人の生き方を知ったり、今の自分を見つめたりして色々学んでいく中で、最後に「ゴールとして、自らの生き方を発表する立志式がある」という設計にできると思いました。生徒たちの意識の位置付けも変わるのですごくいいなと思い、今回「ザ・ビジョン」を導入させていただきました。

普段の授業とは違う内容に、生徒たちはワクワク

佐藤昂大先生(左)と、佐藤陽子先生(右)

ー生徒たちがこの授業に取り組んでいる中で、どのような反応や変化がありましたか?

昂大先生:そうですね、生徒たちは「特別な授業なんだ」と感じていたようでした。黒板に次の日の予定を書くのですが、「ザ・ビジョン」と書いてあると、「あ、明日ビジョンなの!」と生徒がワクワクするんですよね。

私の担当教科が数学なのですが、数学の授業とかと全然違う感じで(笑)、ワクワクしているなと思いました。

また、生徒たちの変化としては「ザ・ビジョン」を通じて、自分の気持ちを伝えたり、思っていることを表現するのが得意ではない子たちが、変化している様子も感じられました。

立志式で「笑」という字を書いて堂々と発表していた生徒も、根はすごく明るいんですけど、以前はなかなか本音を出せないみたいなところがあったんです。でも、この活動を通して「なりたい自分」や「自分の強み」を自分で見つけることができたおかげで、彼女自身が自分に自信を持てるようになったように感じられました。

ー「ザ・ビジョン」という、たったその一言だけで生徒たちがワクワクした世界に没入できるということが、すごく新鮮に感じました!陽子先生はいかがですか?

陽子先生:「ザ・ビジョン」の黄色い冊子が、生徒たちにとっては「特別なもの」のような意識がありました。

書いてあることも、いままでの彼らにはないような言葉がたくさん並んでいて…「生きる」、「出会う」、「未来を探求する」とか、生徒たちは「そんなこと考えたこともない!」「どうなるんだろう?」という感じで、ワクワクしていました。

また、冊子に記載されている「ザ・ビジョンの3つのルール」も、「そんなに楽しんでいいの!?」「違っていていいの!?」「みんな同じじゃなくていいの!?」というような反応でした。

生徒たちにとってみると、普段の学校生活で求められるものとは結構違う、「自由に楽しく言い合っていいんだ」という感じで、毎時間歓声が上がるほど話が盛り上がって、反応がよかったですね。

授業が進む中で、生徒が「ありたい姿」を見つけていく

ー生徒たちが「ザ・ビジョン」を受けていく中での変容はありましたか?

昂大先生:考えや気持ちを言葉にすることが苦手で、1月に立志式があるのに12月冬休みに入る前でも「なにを書いたらいいかわからない」という生徒がいました。「やりたい仕事も特にない」と仕事に結びつけて迷っていたんですね。

でも、「ザ・ビジョン」のプログラムの流れは、「やりたい仕事」に注目するというより、「なりたい自分」を考えて、今の自分と結びつけていくものだと思ったんです。彼は剣道が好きで剣道に熱中していたので、きっとそうした自分の夢中になっているものから、なりたい自分を見つけられると思いました。

そこで、剣道のことや熱中してることを、「なりたい姿」に結びつけて考えたらいいんじゃないかと、話をしました。

そうしたらなんと、年末には「選びたい文字があるんですけれど、どっちがいいですかね」と、書きたい漢字を2つも出してきてくれたんです!

いろいろな大人たちの生き方に触れながら「やりたい仕事」ではなく、自らの「なりたい姿」を考えていく「ザ・ビジョン」の進め方が、彼にとって1番しっくりきたのかなと思います。腑に落ちたら、すごくペンが進むというか、すごくたくさん喋っていました。

今、彼は受験生です。進路や高校選びの話に人一倍興味を持って受験勉強を頑張り始めたところなので、「ザ・ビジョン」でビジョンを描いたことがつながっているのかなと思いました。

生徒が探求できるように先生たちは工夫しながらサポート

ー「立志式」での生徒の発表をみて、先生方の「生徒たちの言葉を引き出す力」が本当に素晴らしかったからこそ、生徒たちの等身大の言葉が出てきたと感じました。先生が工夫された点や大切にされた点はありますか?

昂大先生:前提として、「ザ・ビジョン」の流れが生徒たちにとってすごく考えやすかったのだと思います。

最初に「ビジョンを考えよう」と言われても「わからない」で終わってしまうだろうところを、自分の熱中体験からなりたい自分を考えたり、8人の大人たちの中から会いたい一人を選んだりしてビジョンを作っていくことが出来たので、先生が気を張って引き出そうとしなくても基本的に自然に出てきました。

その上で、工夫したり大切にしたことは、生徒たちが自分で見つけられるようにしたことですね。

教員側から一方的に情報を出さないようにして、生徒用に一人一台タブレット端末もあるので、自分で調べられるように促していました。

ー過保護になり過ぎず、生徒たちの自主性に任せることができたので、みんながのびのびと考えることができたのですね。陽子先生はいかがでしたか?

陽子先生:そうですね、私は生徒たちにどのように声を掛けるか意識しました。

まずは「違うことは悪くない、自分を活かそう」といったこと。「ザ・ビジョン」ではじめに共有する3つのルールとして「自分を楽しむ」「違いを楽しむ」「変化を楽しむ」というものがあったので、そうした声かけを意識できたと思います。

過去の熱中体験を語り、未来のイメージを作るSTEPでは、「自分の中に眠っているものを見つけよう」「Webページを見てみたら?」といった声かけをしていました。生徒たちはすごく盛り上がっていましたね。

あとは、「最初から綺麗な言葉やまとまった文章じゃなくていいから、頭に思い浮かんだ言葉、キーワードだけでもいいから書いてみたら?」といったこともよく伝えていました。

また、正解はなくて、答えは生徒の中にしかないので、「なんでもいいよ」「〇〇になりたいって職業で考えなくていいんじゃないかな」「職業はいったん置いておいて、どうなりたいか考えてみたらいいんじゃない?」とも伝えていましたね。

これからの将来、職業はなくなったり変わっていくことがあったとしても、「ありたい姿」が自分の中にあって、それを実現していけば、きっと幸せを感じながら生きていくことができると思います。

ー先生方からのそうしたアプローチがあり、生徒たちもじっくり考えて、最終的にあそこまでの言葉を出せたのだということ、本当にすごいことだと感じました!

過去の経験や広い世界に目を向けて、自分の生き方を描く

ー実際に先生方が導入してみて、このプログラムの魅力や良かった点がありましたら教えてください。

昂大先生:最初は「ビジョン」と聞いて「未来の話なのかな」と思ったのですが、それだけではなく、他の人の話を聞いたり生徒自身の過去の話を振り返って、「今の自分を見つめる」ことができるのがすごく良かったです。

生徒たちも、自分の良さや自分の考えてることを認識して、「今があるから未来がある」と今から未来へのつながりを考えることが出来たのではないかと感じます。

どうしても進路の話になると、未来のなりたい自分ではなくて「今の学力」みたいな話になってしまうので…。今の中学2年生という段階で、今や過去の話から、広い視野で自分の未来を考えることができるのが、すごく大きな価値だと思います。

陽子先生:進路関係で言うと、中学2年生の1月に立志式をしたあと、親子さんたちに学校から進路の話をさせていただく機会がありました。そのときに、「学力は足りてるか?」「この学力だったらどの高校入れるか?」といった目の前の高校受験のことことばかりではなく、「何を目指しているのか?」「将来生徒はどうなりたいのか?」といったことを意識していこうと講話をしてくださった校長先生から話があったんです。やはり自分のやりたいことをやっていかないと結果的に満足は得られないのではないかと思います。

そこで、学校から見た生徒たちそれぞれの強みや性格、興味関心といったことと、保護者から見た生徒たちの強みなどを、うまくかけ合わせて進路指導していけるといいよねという話もありました。

そう考えた時に、今回のこの「ザ・ビジョン」のプログラムを通して、生徒たち自身が「自分はこういうものが好きなんだ」「こういう風になりたいんだ」これに関わっていきたいんだ」ということを考えられたことがすごく良かったです。

なかなかそういったことを自分たちの学活の授業で生徒に深いところまで考えさせるのは難しいかなと思うので、プログラムを通して生徒たちが自分を深堀りできたことは本当によかったです。

また、山形県の田舎ということもあり、生徒たちの感覚としては「身近な大人」といってもあまり多くのイメージが湧かないこともあります。「医療関係の人」はわかっても、「NPO」は「なんのこと?」となるように。

でも、彼らの身近にあるものに限らず、もっといろんな生き方があると思うんです。そして、その生き方はどこか遠くの話ではなくて、生徒たち自身もそういう生き方をやろうと思えばやれる

生徒たちには、そうした広い視野や「こんな生き方があるんだ!」という見方を持ってほしかったので、「ザ・ビジョン」のプログラムで、社会で活躍する大人たちの動画があったり、生き方を考えられたりして本当によかったです。動画は生徒たちも面白がって、本当に釘付けになって見ていました。

あとは、やはり「総合の授業に何しよう…」と迷うのではなく、完成されたプログラムがあり、先生向けのガイドがあって、それをもとに事前に先生たちが勉強することもできて、授業や生徒に集中できるのが嬉しいですね。

実際にプログラムを始める前も、教育と探求社のコーディネーターさんと打ち合わせをさせていただいて、そこで不安なこととかも相談しながら進められたので、心強かったです。

あとは、プログラムが変化に富んでましたよね。動画を見たり、ペアワークがあったり、インタビューをしたり…。生徒が主体的にやってみたくなるような仕掛けがあったので、生徒たちも最後まで楽しくできたのだと思います。取り入れてよかったなと思いました。

ー教材を作ってる側からしたらもう本当に嬉しい言葉ばかりで、お役に立てたなら本当に良かったなと思います。これからも生徒たちがワクワクするような教材を作っていきたいなと改めて思いました。ありがとうございました!

「ザ・ビジョン」とは?
「探求する大人たち」が語る「いまを生きる大切さ」から授業をスタートする全4回の探究学習プログラムです。人が誰しも経験する“熱中”体験を通して、生徒たちが大切にしている価値観を語り合い、いま自分らしいあり方や生き方とは何かを、深く探究していきます。
詳細はこちらからご覧いただけます。

西村拓真

東京学芸大学院修士1年。教育と探求社ライターインターン。集団塾講師を3年経験し、「生徒に軸を育む」ことがミッションになる。その他、N/S中等部・高等学校イン...

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