職業体験をやめて課題解決型(PBL)へ。生徒が自分らしく生きる「キャリア教育」。幸袋中学校 古野守和校長

職業体験をやめて課題解決型(PBL)へ。生徒が自分らしく生きる「キャリア教育」。幸袋中学校 古野守和校長
先生インタビュー

いま、激しく変化する社会の中で大半の仕事がなくなっていくと言われています。これまでのように「自分のやりたい仕事」を考えるキャリア教育の在り方が問われています。

福岡県飯塚市の市立小中一貫校、幸袋校の古野守和(ふるの もりかず)校長は、約20年前から赴任校でキャリア教育を担当されてきました。また幸袋校は2020年、小中一貫教育の全国サミットの会場校にも選ばれています。

今回は古野校長に、キャリア教育とは何なのか、どのように実践してきたのか、課題解決型(PBL)授業との結び付きや実践内容などをお話していただきました。

大切なのは生徒が「自分らしく」生きること

職業体験をやめて課題解決型(PBL)へ。生徒が自分らしく生きる「キャリア教育」。幸袋中学校 古野守和校長

ー「キャリア教育」とは、どのようなものでしょうか?

キャリア発達をさせるための教育ですよね。自分らしい生き方を見つける、かつ、それが社会に貢献できる、そういう生き方を作っていく。そういう教育であると思うんです。

なので、生徒が「自分らしく」というのが、すごく大事だと思います。

「キャリア教育」というから特別なものに聞こえるかもしれないけれど、私はキャリア教育は、「教育」自体と同じだと思っています。

ー自分らしい生き方、本当にそうですよね。
先生はなにをきっかけにキャリア教育を進められるようになったのでしょうか。

1996年、私が32歳のときに福岡県の教育センターで研修員として1年間、進路指導の研究をはじめたのがきっかけです。「キャリア教育」は、以前は「進路指導」と言っていたんですね。

その当時、学校は荒れているところが多くて、私のいた学校も例外ではありませんでした。子ども達に、「そんなことしよったら、おまえ将来どうするんか」と話をしても、彼らは「将来はどうでもいい」「今が楽しければいい」と言うんですよね。それで、「今を充実させるためには将来をしっかり見据えることが必要なんだ」と感じました。

生徒指導というのは、「今」の指導なんですよ。でも、「今」が通じないから荒れてしまう。じゃあ、「今」が通じないならどうしたらいいのかといったら、やっぱり将来を考えさせることからだろう、と。それで進路指導をやりはじめたのがきっかけですね。

ー先が見えない不安やあきらめが、子ども達にあったんでしょうね。そこで、現在と未来をつないでいくことをされていったのですね。

職業体験をやめて課題解決型(PBL)へ

職業体験をやめて課題解決型(PBL)へ。生徒が自分らしく生きる「キャリア教育」。幸袋中学校 古野守和校長

ー幸袋校では2019年にそれまでしていた職業体験をやめて、課題解決型の学習(PBL)をはじめたとうかがいました。「キャリア教育といえば職業体験」という考え方もある中で、職業体験をやめたのはどのような意図があったのでしょうか?

そうですね、その前振りからいくとですね、私は1997年に長期研修を終えたその翌年から、33歳で自分が赴任した学校で職業体験を始めました。だから職業体験については、全国でもかなり早い時期からやりはじめたという自負があります。

職業体験を始めた当時は、「勉強が何の役に立つのかわからない」といっている子ども達が、仕事と学びのつながりを実感できるように、職業体験を入れなくてはいけないと思っていたんですよね。

それを率先してやめたのは、職業体験自体が時代の流れにそぐわなくなっているところが多いと感じたからです。

具体的にいうと、今と同じ職業が将来もあるとは限らないということもありますし、その職業体験の中では子ども達がいきいきとした表情をみせていても、いざ学校に帰ってきたらすぐに元の木阿弥になってしまうということもありました。それは職業体験が悪いんじゃなくて、事前や事後の活動の充実ができていないところにも問題があるとは思います。

しかし、やはり今は、次にどんな課題が出てくるかわからないような時代です。新しい課題をどう解決していくかというのが、仕事になっていくということですよね。だから、そうした課題解決を協働でやる、そういう学びをすることが、職業体験以上の学びになると判断しました。

なので、職業体験をやめて、クエストエデュケーション(※)のプログラムを導入し、それを課題解決型の学習(PBL)として位置付けて取り組みを始めたんです。何かを入れようと思ったらなにかをやめないと。

※クエストエデュケーション
2005年にスタートした、現実社会と連動しながら「生きる力」を育む教育プログラムです。生徒たちは、実在の企業からのミッションに取り組んだり、社会課題に向き合ったり、ゼロから商品開発に取り組んだり。教室の中にいながら、現実社会につながるテーマに取り組みます。

PBLをどのように実践しているか

職業体験をやめて課題解決型(PBL)へ。生徒が自分らしく生きる「キャリア教育」。幸袋中学校 古野守和校長

ー課題解決型の学習(PBL)を全校で推進されているとのことで、具体的にどのように行っているのかを教えてください。

うちの学校では、中学校3年間のすべての学年で課題解決型の学習(PBL)をいれていることと、さらに小中一貫校の良さを活かして、小中一貫教育の中期、つまり小5、小6、中1にも課題解決型の学習(PBL)を入れているのが特徴だと思います。これは全国でもそうそうないんじゃないかな。

つまり、小学5年生から中学3年生では、週2時間、総合的な学習の時間としてPBLを入れているんです。

まず、小学校5年生では、ちょっとしたボランティアをしようという意味で、「ちょいボラ隊参上!」というものをやっています。ちょっとした身の回りの課題を自分たちで見つけて、自分たちで解決しよう、「学校の中でこうしたらもっとみんなが気持ちよく生活できるよね」というようなところを、ちょっとしたボランティアで解決していこうという取り組みです。

例えば「学校の廊下の交差点みたいになっているところでよく衝突事故が起こるから、”とまれ”の標識をつけよう」ということをしていますね。あとは、「日頃使っていない中庭のステージが汚いから、掃除をしたい」とか。課題をPBLの形で見つけて、そして具体的に何をしようかと話をして、行動までしています。こうしてまずは自分の身の回りから課題を解決していって、少しずつ範囲を広げていこうというものです。

ー面白いですね!

小学校6年生では、クエストエデュケーションの社会課題探究コース「ソーシャルチェンジ・ファースト」を入れています。

中学1年生からは、地元企業とのコラボレーションプロジェクトということで、福岡県中小企業家同友会、筑豊支部と連携しまして、飯塚市とその近隣にある中小企業の方と協力して行っています。「地元飯塚を盛り上げる新製品やサービスを開発してほしい」というミッションをもらって、それを子ども達がPBLの形式で考えだしていくものです。

その次の8年生、つまり中学2年生では、クエストエデュケーションの起業探究コース、「スモールスタート」をやっています。

9年生は最後、「飯塚提言」ということで、市長からの「幸せ実感都市にする」というミッションをもらい、「住民が幸せを実感できる町にするにはどんなことを具体的にしたらいいと思うか」ということについてアイデアを出して企画するということを行っています。やはり義務教育の最後に、地域の問題を自分ごととして考えていく、そういう体験をしてほしいということで入れていますね。

社会課題探究コース「ソーシャルチェンジ・ファースト」
→起業探究コース「スモールスタート」

ー幸袋校では、こうしたPBLの取り組みはいつ頃から、どのようにしてされてきたのでしょうか?

2019年からですね。その年から一斉に、どんといれました。クエストを導入したのを契機に、全体的に探究型にシフトしようと。

クエストを導入したのは、「PBLとはこんなものなんだ」ということをしっかり先生方みんなに認識してほしいというのが一番の理由ですね。クエストのプログラムをみて、これを入れて実際に自分たちが行うことで「PBLとはなんぞや」というのを全員が学ぶことができると思いました。

今、小学6年生、中学2年生ではクエストの「ソーシャルチェンジ・ファースト」「スモールスタート」をしていて、小学5年生から中学3年生のその他の学年では、自分たちでカリキュラムを作成しています。

各学年の総合的な学習の時間の担当者を中心に原案を出して、それを学年会で再度検討して練り上げていくという感じで作っていっていますね。学年が変わっても、毎年前任者から後任者に引き継いで、毎年ブラッシュアップされていきます。特に最初のころは本当に、担当者にはいちばん四苦八苦してもらったな、と思いますね。

生徒の変容、先生の変容

職業体験をやめて課題解決型(PBL)へ。生徒が自分らしく生きる「キャリア教育」。幸袋中学校 古野守和校長

ー課題解決型(PBL)の取り組みをしていて感じた、生徒の変容はありますか。

そうですね、子ども達が、本当に意欲的に発言ができるようになりました。そして、課題に気づけるようになってきていると感じます。今年、本当に今の時期なんですけれども、生徒会や学年のいろいろなところで、自主的に自分たちの課題を見つけて、こうやって解決していこう、というのが確実に出てきていますね。

例えば、2020年の5月には体育会を予定していましたけれど、コロナの影響で中止になってしまったんです。それを子ども達から、生徒総会で「体育会の代わりになるようなものを、なんとかやらせてもらいたい」という意見が出まして。できるかどうか、状況にもよるんですけれど、12月にミニ体育会をすることになりました。

また、だいたい冬ごろになると9年生(中学3年生)の授業中の態度が悪くなる、ということがほぼ毎年あります。進路が決まりかけてきて、少し浮ついてくるんですね。それを、子ども達が自分たちで解決しようとし始めました。生徒会の役員が中心になって、自分たちで「授業態度を直そう」という取り組みを、現在一生懸命やっています。

ーそれはすごいですね!先生方にも、課題解決型(PBL)の取り組みをしてから変化したことはあるのでしょうか。

そうですね、子ども達を「信頼して任せる」ということが、確実にできるようになってきたなと思います。もうひとつですね、私からみて本当に間違いないと思うんですけれども、先生方もいろいろなことに挑戦するようになりました。

例えば、「あまびえプロジェクト」。文化祭で7年生(中学1年生)があまり目立たないということで、「じゃあ何か学年で作ってみよう」という話が文化祭実行委員の中であったんですね。それで、7年生の学年の先生方が話し合いをして、「折り紙細工であまびえを作ったらどうだろうか」という案が出てきたみたいです。

水曜の午前中、幸袋校の教室に地域のお年寄りの方々が集まって「熟年者学び塾」というのを開催されているのですけれど、そこの方々が折り紙細工を作っていたので「じゃあ教えてもらおう」ということになりました。ゲストティーチャーとして来ていただいて、本当に楽しそうに子ども達に折り紙を教えていただきました。

私から「こういうのをしてほしい」と言ったわけではないんですけれども、最近そのようなプロジェクトが本当に多いんです。新たな企画を練り上げていくというのが、すごく増えてきたと思います。

PBL導入は先生方のチームワークで

職業体験をやめて課題解決型(PBL)へ。生徒が自分らしく生きる「キャリア教育」。幸袋中学校 古野守和校長

ー1番最初、「職業体験をやめて課題解決型の授業を導入しよう」という際に、他の先生から反発があったり、混乱することなどはありませんでしたか。

反発はなかったですね。でも、担当の先生にはやはり私から直接を話をしました。「ちょっと苦労をかけるけど、担ってほしい」と。そのときは承諾してくれたけれど、実際にやりだすと生みの苦しみというか、担当の先生には苦労をかけたなと思います。

そして途中で挫折することなく実現できたのは、周りの先生方もしっかりバックアップをしてくれて、みんなで作っていってくれたからだろうと。本当にうちの先生方はチームワークがいいので、私も信頼して任せていますね。

ークエストの導入研修のときに、幸袋校は先生方が全員参加されているのが印象的でした。研修終わったあとに、先生方が担当の先生に「後は任せたよ」「がんばってね」と声をかけていらして、みんなでやっている感じがしてすごくいいなと感じました。

そうですね、いずれは自分が担当することもあるだろう、というのはあると思います。クエストをする学年だけではなく、自分たちの学年もPBLを実施していくというのはありますしね。他人事にはなってないと思います。

2019年春から毎年探求イベントとして、「ソーシャルチェンジ・ファースト」を全学年で一日行うということをしたのですが、それも私から言ったのではなくて先生方からの提案で実現したのですよ。

ーそうだったんですね!探求イベント、子ども達が楽しそうだったのがとても印象的でした。

そうですね、子ども達も楽しいテーマが多かったので、いきいきしていましたね。「学校の施設を使ってお金を儲けよう」とか。

今、学校教育の現場でものすごく言われているのは、子どもの生活レベルの課題に教科の課題をクロスさせていくということです。やはり子ども達にとって身近で解決したくなるような課題だと、子ども達が食いつくと思いますし、教員もそうした切り口の大切さに気づいたのではないかと思います。

お金のハードルで諦めない

職業体験をやめて課題解決型(PBL)へ。生徒が自分らしく生きる「キャリア教育」。幸袋中学校 古野守和校長

ーPBL型のプログラムとしてクエストに取り組んでいただいたわけですが、実際に取り入れるまでにハードルもあったのではないかと思います。

公立校でハードルといえば、やはり金銭的なことですよね。それは学校の経営者としての私の仕事なので「お金をどうにかしなくちゃいけない」ということで色々と考えました。

まずはクエストの担当の福本さん(インタビュアー)や宮地社長と一緒に、飯塚市の教育委員会に行って説明をしました。そうして「とりあえず試行的にやる」という形でお金を出していただくことになったのがスタートです。

ところが、そのまま拡大する予定だったのですけれど、そうスムーズにはいかなかったんですね。飯塚市も他に大きなキャリア教育やGIGAスクール構想実現のプロジェクトがあり、そこにお金がかかるということで、お金はなかなか厳しくなってきたところがありました。

中小企業や大企業でもそうだと思うんですけれども、「経営者として、やはりお金をどうしていくのか」というのは非常に重要な役目だと思います。そうしたところで私も、お金がもらえなくなったことをきっかけにさらに自分の役割にも目覚めました。いろいろな助成金を申請したり、論文を書いて賞金をもらうなどですね。そうしてお金をまかなうことができました。

やはりこうしていい取り組みであることを証明していかないと、お金をいただくことはできません。こうして「なんとかなる」と思ったらできるんだな、というのを実感しました。

ーありがとうございました!

飯塚市立 小中一貫校 幸袋校
本校は、飯塚市の北部に位置する飯塚市内に4校ある施設一体型小中一貫校です。平成29年4月に開校し、現在4年目を迎えました。本校教育の目標は、自律的学習者の育成です。変動・不確実・複雑・曖昧なVUCAの時代を一生幸せに生きていくためには、見通しを持って粘り強く取り組むとともに、自らを振り返って次の学びにつなげることができる自律的学習者であることが大切だと考えるからです。そこで、平成30年度より学びに向かう力を培うキャリア教育に小中の教職員で力を合わせて頑張っています。特に5年生から導入しているPBLと起業家教育に力を入れています。
幸袋校HP
参考記事:8年生英語科 西日本新聞に記事が載りました!

学校コーディネーター 福本 由美子

メーカー、コンサルティングファーム等を経て、コンサルタントとして独立。様々な企業での社員研修や人材育成を通じて教育こそがすべての基盤であることを確信し、20...

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