全国の中高生が探究学習の成果を発表。オンラインでつながったイベント「クエスト・オンライン」を振り返る

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クエストカップ全国大会

全国の中高生が、探求を通して自らの可能性を開き、仲間たちとともに1年間の学びの成果を広く社会に発信する探究学習の祭典「クエストカップ2020全国大会」。

今年2月は開催直前に新型コロナウイルス感染拡大が危惧される事態となり、これまで14年間毎年行われてきた当大会は初の中止を決定、オンラインで学び合う「いまをつなぐ学び合い―クエスト・オンライン」として開催しました。

ここでは、わずかな時間の中で大会中止の苦渋の決断から、オンラインイベント「いまをつなぐ学び合い―クエスト・オンライン」開催に至るまでの数々のドラマ、そして大会当日の様子や手応え、次回開催への展望などを、クエストカップ実行委員長 宮地勘司のコメントとともに振り返っていきます。

開催予定だった「クエストカップ2020全国大会」

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2019年開催時の様子。生徒たちのみなぎる熱気がぶつかり合う一大イベントに。

探究学習プログラム「クエストエデュケーション」は、2005年にスタートした、現実社会と連動しながら「生きる力」を育む教育プログラムです。子どもたちは学校の授業の中で、実在の企業からのミッションに取り組んだり、社会課題に向き合ったり、ゼロから商品開発に取り組んだりして、ただ受け身で教えられるだけではない、自ら知を生み出す体験をします。

「クエストエデュケーション」は、まだ探究学習やアクティブラーニングという言葉が一般的でない時代に、「リアルな社会の面白さをもっと子どもたちに届けたい」という想いで2005年にスタートしました。翌2006年には、生徒たちが一年間の探求の末、作り上げた企画や作品を発表する場として「クエストカップ全国大会」を開催しました。

以来、参加校、協賛企業は年々増加し、生徒が本気で探求し、そこに関わる先生や企業人も本気で情熱を注ぎ込むことのできる、他にはない“稀有なイベント”として注目を集めるまでに成長しました。

そして2020年、全国で「クエストエデュケーション」の導入校は約200校、取り組んだ生徒は3万5000人にのぼりました。中高生たちの最終発表の場、「クエストカップ全国大会」へのエントリー数は、なんと3420作品。東京・池袋の立教大学キャンパスで開催される「クエストカップ2020」には、開催2日間で参観者も含めて2000人にが集う、大会史上最大規模の大会になるはずでした。

しかし、開催直前となった2月上旬、新型コロナウイルスの感染拡大という、想定外の事態が起こったのです。

5日前、各種対策を講じての縮小開催を決定

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開催当日、立教大学に設けた本部におかれたパネル

発端は、開催が10日前に迫った2月13日のこと。新型コロナウイルス感染による日本国内初の死亡者が報告され、予定されていた天皇誕生日の一般参賀の中止、東京マラソンの一般枠の参加取り消しなどの対応が相次ぎました。

このことを受け、実行委員長である宮地は2月18日、クエストカップ全国大会の5日前に、実行委員による会議をもち、開催するか否か、検討を慎重に行ったといいます。

「はたしてこのまま開催してよいものか、中止にしたほうがよいのではないか。そのような意見もあったし、私も、会議を開くときには中止はやむを得ないのではないかと考えていました。しかし、社員たちの中に、『国も自治体も中止とも自粛とも(その時点ではそうでした)言っていない中で、1年間頑張って取り組んできた生徒たちの発表の場を、私たちの決定で奪ってしまっていいのか』という意見もあり、議論は紛糾したのです。

18日時点では、政府からの発表もなく、学校の休校処置も取られていませんでした。スタッフの検温など体調管理を徹底すること、会場の換気の徹底、アルコール消毒液の設置やマスクの配布など、できる限りのリスク対策をすべて講じた上で「クエストカップ2020」を開催することを決定しました。」

各協賛企業からは、開催実施に関してマスク提供やその他多くの応援・支援のお声がけをいただきスタッフ一同、安全なクエストカップの実現に向けて走り出しました。しかし、この直後に事態は急変するのでした。

感染拡大深刻化、60時間前の緊急会議。

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クエストカップに向けたミーティングの様子(2019年12月)

こうして開催を決めた2日後の2月20日、感染拡大は一気に深刻化しました。国内でクルーズ船の乗客から、新たに2名の死亡者が確認されたのです。これは、全国から参加する中高生たちの身を一時的にも預かる立場として、イベント開催をゼロから考え直さなければいけない事態でした。

この報道を、出張先の静岡で知った宮地は「これはステージが変わった」と直感したといいます。たった2日前に社員たちと共に開催を決め、学校や企業の皆さん、関係各所に伝えたばかり。しかし本当に開催をするのか――。

クエストカップ全国大会は3日後に迫っていましたが、宮地は、急遽出張を切り上げ静岡から東京へと戻り、同日の夕方から「クエストカップを開催するかどうか」を検討する緊急会議を全社員を集めて開催しました。

緊急会議では、集まった社員それぞれが、思い思いの意見を話しました。開催に不安があるということ。生徒たちの発表の場を作りたいということ。たとえクエストカップの会場が充分な対策を講じたとしても、そこに来るまでの交通機関や生徒たちの宿泊施設まで考えると安全の担保ができないということ。

ほんの2日前にリアル開催を決定し関係者に通達したばかり。果たしてここから撤回できるのか。様々な考えが巡りどちらにも決定しきれないまま、重たい空気が流れました。、その中で声を上げたのは今大会のリーダーを務める菅澤でした。

菅澤は、2019年2月に中途入社した2年目の社員。27歳の若手ながら、強い思いを持って、自らリーダーに立候補しました。「これまでの人生で、本当の意味で自分で考えて何かを決めるということをしてこなかった。リーダーシップとは何か、自分に向き合う機会としたい」。彼が立候補したときの言葉や、この大会にかける想いは、宮地の心にも強く残っていました。

その菅澤が意を決して、涙を流しながら一番最初に本大会の中止を提案したのです。「この大会に全力を懸けてやってきましたし、絶対に開催したいという気持ちでいっぱいです。でも、今の状況を考えればここはやるべきではない。そして、たとえここでやめたとしても、もっといい未来がきっと待っていると信じたい」。その一言から、クエストカップは開催中止に向けて動き出しました。

宮地は「会議に参加した誰もが、開催と中止の間で葛藤していることがよくわかりました」と話します。ただ、「たとえ中止をしても最高の未来を目指したいという空気が、菅澤の発言から生まれました。中止を決定するとすぐに、オンラインでの開催を模索する熱い議論へと自然に変わっていきました」。

中止でも最高の未来を。オンライン開催への挑戦。

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クエストカップに向けたミーティングの様子(2019年12月)

全国からひとつの会場に集まって大会を開催するのは難しい。しかし単に中止するのではなく、なんとか生徒たちのために発表する場を作りたい。そこで出てきたアイデアが、オンラインでの開催でした。

これまでZOOMやスカイプを使ってオンラインで打ち合わせする機会はありましたが、全国の100を超える学校や東京、名古屋、大阪にある企業をつなぎ、オンラインで大会を開催するというのは前代未聞の企画です。オンラインのイベント開催に、社内にも特別のノウハウが有るわけではなく、学校や企業の協力も不可欠です。特に学校は、ネット回線の状況やカメラなどの設備の有無、先生たちの経験値もまちまち、実施が厳しい学校もあるかもしれません。

高速かつ多面的な議論を経てオンライン開催を決定したのが木曜の夜20時。日曜日の朝の本番開始までわずか60時間という状況です。ZOOMを使った発表及びフィードバック方法の検討、関係各所への説明及び協力依頼、新たなスタッフアサインに広報準備と、やることは山積みです。「夜の決定故に、本当にオンライン開催は実現可能なのか、先生たちは受け入れてくれるだろうか。心の片隅に不安がなかったといえばうそになるでしょう。」(宮地)

それでも社員たちは諦めることなく、次々と起こる難題を解決しようと前向きな意見をぶつけ合いました。白熱した議論はやがてそれぞれが果たす役割を力強く推し進める空気感へと変わっていきました。

会社全体が音を立てながら開催実現へと動いていく中、宮地はオンラインの大会のコンセプトづくりに着手します。「これはクエストカップとは違う。参加する生徒たちにとっても、オンライン上に場を作る私たちにとっても皆がひとつになって向かっていける、新たなコンセプトが必要だ」と考えたのです。宮地は、教材開発をやっているメンバーを集めてすぐにブレストをはじめました。

通常クエストカップでは、審査委員による審査を行い、グランプリや企業賞を決定します。生徒たちは、賞をとることを目標にかかげてここまで頑張ってくるのです。しかし、今回は急遽決めたオンラインでの開催。回線などの都合で十全な発表ができないかもしれない。全員が同じ環境で勝負できない可能性があるとしたらそれはフェアではありません。今年は審査は行わないことにしました。

「そもそもクエストカップは、素晴らしい作品を選ぶ場ではなくて、学校での取り組みの中で生徒ひとりひとりが何かを掴み、そのことを社会に発信し、その体験を自らの自信に換えて、その後の人生に活かしてもらうことを目指していました。なので、同じ課題に取り組んだ他校の生徒たちとも意見を交換したり、認め合ったり、企業の人達からも厳しい審査の目ではなく、先に社会を生きるひとりの先輩として承認してもらい、交流をする場としてつくろう。今回は競い合う場としてではなく、対話や相互承認の場として、共に学び会うオンラインイベントとして捉えなおしました」。

「コンセプトは『いまをつなぐ学び合い―クエストオンライン」です。コロナ禍の中で発表の機会を奪われ、悔しさや残念さの中にある生徒たちの『今』。ここまで一年間様々な思いとともに学び続けてきた『今』。そしてここから未来へと続く『今』。そんな全国にいる中高生たちの『今』を距離を超えてつなぐこと。これこそがオンラインができることだと考えました」(宮地)

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クエストカップ全国大会の会場を予定していた立教大学のタッカーホール

オンライン開催を決定した20日深夜から明けた、翌21日金曜日。通常は学校も企業も、大会前の最後の営業日でした。関係各所に今年のクエストカップは中止し、オンラインでの開催を通知しました。

連絡を受け取った学校や企業からはさまざまな意見がありました。

「中止にして、先の日程に延期にしてほしかった」「オンラインでも発表の場があるのは嬉しい」。直前に切り替わったオンライン開催に対して、反対する声も、応援する声もありましたが、どの意見にも「頑張ってきた生徒たちに発表の機会を与えたい」という真摯な想いがありました。

オンラインのシステム構築の見通しも立ち、各企業審査委員からの中継や開会式の中継の段取りもつき、「クエスト・オンライン」は当初の予定通り2月23日・24日に開催されることとなりました。「手探りと試行錯誤を重ねに重ねながらも、懸命に走り続けた60時間。関わるすべての人々の愛と情熱が存分に注ぎ込まれた60時間でした」と宮地は振り返ります。

全国から距離を超えて、いまをつなぐ学び合いの場に。

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そしていよいよ迎えた「いまをつなぐ学び合いークエスト・オンライン」。当日は全国から100箇所以上、500名を超える中高生、そして企業人や社会人が、オンラインでつながりました。

「つながってますか-?つながっていたら、オーケーサインをしてくださいね」

初対面の大人たちや、他校の生徒たちとオンラインで顔を合わせ、はじめは緊張していた生徒たちも、徐々に打ち解けていきました。

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「新潟です!雪が降っていまーす」「大阪城が近くにありますー!」「私たちのオフィスからは皇居がみえます、こんな様子です」発表の合間に、生徒たちは自分たちの教室から見える風景を共有したり、協賛企業の担当者がカメラを持ち社員食堂を案内する“オンライン社内見学”を展開する一幕もありました。

発表の際には、宮地の想定通り、チャットによる交流が活性化しました。「このアイデア、すごい!」「なるほどー」発表の合間に飛び交う、リアルタイムの率直な感想。時には疑問をぶつけ、時には応援し合う言葉のやり取りが活発に見られました。

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「生徒たちが一堂に会し、張り詰めた緊張感の中で普段以上の力を出すことがこれまでのクエストカップのの醍醐味でもありました。しかし、今回は自分たちが日々学んでいる学校から、リラックスした状態で、心のこもった本質的なプレゼンテーションをしてくれたことがとても新鮮でした。

企業の人達も今年は審査がないことで、もっと深い生徒との交流ができた側面もあります。自宅からオンラインに繋いでいる企業人などは、ポジションや肩書きを脱ぎ捨ててひとりの人間として生徒に向き合えていたようにも見えました。形を整え、本気で力を出し切るもよし、リラックスした柔らかさの中から自分たちの本質を語り合い、対話の中からさらに学び合うもよし。何より主催した私たちにとっても、多くの学びがある大会となりました」(宮地)

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まさに“今をつなぐ学び合いの場”がここにはありました。

「感動と驚きがあったことを多くの皆さんからいただきました。生徒たちだけでなく、大人たちもまたオンラインでつながり深い交流ができたことに感動しました」宮地は、イベントを振り返り、大きな手応えを得ることのできた貴重な時間だったと語りました。

初の大規模オンラインイベントとなった「クエスト・オンライン」を終えて

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そうして終えた2日間の「クエスト・オンライン」。生徒たちの熱い発表に触れ、生徒同士の交流も深まる、穏やかな感動の広がる時間となりました。

「新型コロナウイルスの感染拡大という出来事によって、私たちがこれまで当たり前だと思い込んでいた日常が当たり前ではなかったことを知りました。日々ルーティンとして、オートマチックに行われていたことを見直し、深く考えるきっかけになったとも言えます」。

そして、宮地は、これからの展望について、力を込めて語りました。

「学校という場は、日常をシステム的に運営していくことが求められてきました。教科があり、時間割りがあり、成績評価の制度があり、年間行事も何もかも、細かくスケジュールに落とされています。ルールや長い間続いてきた慣習に則って日々運営されてきました。

しかし、今回のように突然一斉休校となって、強制的に日常を取り払われてしまってはどうでしょうか。先生たちはほんとうに大変だと想いますが、その一方で、先生方の本当の力が発揮される時だと私は考えています。変化の激しい時代、VUCAワールドと最近よく言われますが、まさにそんな状況です。そんな状況だからこそ、今、何をやるべきか、原点に帰って、本当に大切なものはなんなのかを考え直す機会です。いま、教育の場も大きな変革の時を迎えていると感じています。

時代が大きく変化し、先生方の意識も生徒たちの意識も大きく変わっていく中で、クエストエデュケーションがこれから教育の現場においてどのような役割を果たすことができるのか。今回のオンライン開催を経験したことで、私たちの意識も変わりました。2020年のクエストエデュケーションも、2021年のクエストカップも、今回の経験を糧に、どれほど深く豊かなものにできるのか、すでに議論を始めています。

この変革の時代にすべての人々が自分らしく生きるために、私たちは何をするべきかしっかり考えていきたいと思います。」

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