職場体験は意味ない?生徒が自ら考える「職場体験」を実現するためにできること
みなさんの学校では「職場体験」を実施されていますか?もしかすると、コロナ禍の影響で実施が困難となり、延期・中止となってしまった学年もあるかもしれません。
また、そんな中でせっかく職場体験を実施したものの、あまり生徒たちに響かなかった、例えば、「雑用をさせられた」と生徒が働くことに対してネガティブになってしまったり、「社内見学をして楽しかった」と単なるイベント終わってしまったりといった話もよくあります。先生方にとっては、「果たして職場体験は、生徒たちにとって本当に意味があったのか」と考えさせられることもあるかもしれません。
そこで今回は、そもそも職場体験を通して実現したかった学びに立ち返りつつ、どのように学びある職場体験を実現していくか、一緒に考えていきたいと思います。
職場体験について、ぜひこちらの記事もご覧ください。
・教室内で就業体験!新しい時代のキャリア教育プログラム「インターン」
・事例レポート:中村高等学校の生徒たちの取り組み
そもそも職場体験で実現したい学びとは
まずは「職場体験で実現したい学び」がどのようなものだったかを考えてみましょう。その際、職場体験が「職業」ではなく「職場」という言葉を用いていることに目を向けてみるとヒントが得られるかもしれません。
つまり職場体験で実現したいのは、「どのような仕事をしているか」「どのような商品を販売しているか」といった、「職業」そのものを理解することにとどまらず、「職場」を通じて実際に働く大人との関わりあい、視野を拡げ・深めていくことなのではないでしょうか。
実際に文部科学省の中学校職場体験ガイドには、以下のように記載されています。
「職場体験には、生徒が直接働く人と接することにより、また、実際的な知識や技術・技能に触れることを通して、学ぶことの意義や働くことの意義を理解し、生きることの尊さを実感させることが求められています。また、生徒が主体的に進路を選択決定する態度や意志、意欲など培うことのできる教育活動として、重要な意味を持っています。」
このように、生徒たちが働く大人たちと接しながら、働くことについて考え、そして自分なりのこたえを紡ぐことが、私たちが職場体験で実現したい学びなのではないでしょうか。
なぜ「単純作業」「楽しかっただけ」になってしまうのか
しかしながら、実際にはそのような職場体験を実現するのは難しく、上述したようにただ「単純作業に終始した」「イベントとして楽しかった」で終わってしまうことも多々あります。
せっかく職場体験を実施したのに、このようになってしまうのはなぜなのでしょう。
その要因は、大きく分けて2つあると考えています。
1.「正解は教えられるもの」という前提
1つ目は、「生徒が大人から正解を教えられる存在である」という暗黙の前提ができてしまってる場合です。
例えば、事前学習で「失礼がないように、礼儀には気を付けよう」「せっかく貴重な話をしてくださるのだから、ちゃんと聞くように」といったことを強調しすぎてしまっている場合。もちろん礼儀や話を聞くことは大切なのですが、それが何のためなのかが語られずにこのことが強調されると、生徒にとっては、体験先では大人の話をじっと聞くこと、言われたことは素直に聞くことがよいことであると感じられ、受け身な姿勢を促してしまいます。
また、体験先で従事する仕事の「正しいやり方」だけが伝えられることに強調点が置かれると、生徒たちはそこから逸脱したり、自分なりのやり方を模索したりする余白がなくなってしまいます。
このように大人の側が正解をもっていて、それを生徒に伝える「モード」で職場体験が実施されると、生徒はどうしても受け身な姿勢になります。受け身的な態度では、体験も言われたからやっていることになり、働くことについて考えたり、視野が拡がったりすることは難しくなってしまうのです。
2. 社会とのつながりが見えない
2つ目は、「つながりが見えない限定された体験」になっている場合です。
例えば、生徒たちは体験のもつ影響力が大きいため、自分が関わった商品・作業にどんな工夫がされているか、どんなこだわりがあるのかについて目が行きやすくなります。ですが、そのことに終始し、自分がした体験が「働く」ことや社会にどんな影響を及ぼすのかについてのつながりが意識されないことで、興味がもてなかったり、そもそも考えもしなかったりということがあります。
このように、働くことや社会へのつながりが意識されずに、今目の前にある作業に限定された体験となることが、生徒の視野を拡げ・深めることにつながらないことになります。
生徒が自ら考える職場体験を実現するために
それでは、生徒たちが働くことについて自分なりのこたえを紡いでいける、学びある職場体験を実現するためには、どのようなことをしていけばよいでしょうか。
そのためには、以下の3つのような工夫を取り入れることができます。
1.生徒を「積極的な存在」として捉える
1つ目は、生徒たちを「積極的な存在」として捉えることです。
「答えをすでに大人が持っている」「生徒たちは教えられる『受動的な存在』である」と捉えるのではなく、「答えはひとつではない」「生徒たちは自ら発見する『積極的な存在』である」と捉えることによって、生徒たちが自ら考える余地を生みだすことができます。
具体的には以下のようなことをすることができます。
(1)事前学習で「唯一の正解はない」を伝える
まず事前学習における、職場体験のねらいの伝え方を工夫することです。
ここでは、大前提として働くことの意義や価値について「唯一の正解はない」ことを強調して伝えることが必要でしょう。生徒たちはどうしても、今までの経験から答えがどこかにあると思ってしまいがちです。そのため唯一の正解がないからこそ、生徒一人ひとりが自分なりに考えて、発見・創出する必要があることを丁寧に伝えることが必要です。
その上で、これからの社会の変化を鑑みたときに、自分で働く意義や価値を発見・創出し、その都度判断していけることの重要性を語ってもよいかもしれません。
さらに、働く価値や意義の発見をすることは、生徒自身のためのみならず、体験先の方々にとっても豊かな学びを届けることにつながることを話してもよいでしょう。生徒たちの目線から発見された価値や意義は、今働いている大人たちにとっても新しい視点から自分の職場を捉え直すことにもつながり、大人自身の学びにもつながっていくからです。
(2)体験先と「ねらい」を共有する
次に体験先との調整場面でねらいを話す時に同様に工夫をすることができます。
受け入れてくださる謝意は伝えた上で、学びとして実現したいことを丁寧に共有することが必要です。その時、職業や作業についての習熟や理解を進めたいのではなく、あくまでも「働く」ことについて自分なりの考えをもつことを大事にしたいことを明確にした上で協力を仰ぐことができます。
また、もし体験先に余裕があるのならば、作業とは別でインタビューなどの時間をとってもらい、働くことについての想いなどの意見を聞くことを打診してみてもよいでしょう。
話を伺う時には、正解としてよりも、答えのない中での素直な感想や想いを話してもらえるように伝えておけるとよいでしょう。さらに、一人だけではなく複数名の方の想いを聞けると、これが正解であると受け取る可能性も低めることができます。
2. 考えたくなる「問い」を設定する
学びある職場体験にするためにできることの2つ目は、働くことや社会とのつながりを生むために、適切な問いを設定することです。
上述したように、体験と出会うことの印象が強いため、どうしても商品やサービスへの関心が高まってしまう傾向があります。そのこと自体の積極性、主体性は喜ばしいことではあるのですが、職場体験で実現したいことに立ち返ると、「働く」ことや社会とのつながりについてまで思考を及ぼすことが必要になってきます。
そのためには、生徒のまなざしを意図的に遠くに向ける工夫としての問いが必要です。こちらからの問いがない状況で自由に感じたことや思ったことを聞いても、商品・サービスや今日起こったことの範囲を飛び越えることは難しくなってしまいます。
そこで、例えば「そこで働く人はどんな想いで働いているのだろうか」や「この仕事が世の中にどんな価値を生んでいるだろうか」といった問いをあらかじめ設定し、それの観点で体験先を眺めたり、インタビューをしたりできるように工夫ができます。
また、体験後の振り返りでも同様に、自分が感じたことを踏まえた上で、「働く」ことや社会とのつながりを意識できるような問いが設定されていることで、自分なりのこたえを紡いでいくことができます。
ここでも、唯一の正解がないことを前提に、生徒が自由に考えられる余白を意識して提示することが重要です。言われたから聞いてみたとなるのではなく、「聞かれてみれば、たしかにどうなんだろう?」と生徒自身が考えるようになることが理想です。
3.自分の考えをまとめる機会をもつ
学びある職場体験にするためにできることの3つ目は、自分の考えをまとめる機会をつくることです。
例えば、職場体験で発見したことをポスターとしてまとめたり、体験先への提案書を作成したりすることで、生徒たちは自分の考えをまとめ表現する機会を得ることができます。そうした成果物の作成プロセスでは、キャッチコピーを考える中で自分の感じたことをより明確にしていったり、提案内容を考える中で自分がしたいと思ったことを言葉にしていくことになります。生徒たちはこうした作成プロセスを通して、自分なりの言葉で「働くこと」と向き合う機会を得ることができるのです。
ここで大事なことは、「生徒自身がどのように感じたのか」といった主観性を重視することです。ポスターや提案書などは得てして客観的な正しさを求めたくなってしまいがちです。ですが、ここで客観的な正しさを重視すると、結局は正解らしいことを当てたり、その職業についてまとめるだけで終わってしまうことになります。
職場体験で実現したいことに立ち返ると、「私」がどのように感じ・思い・考えたかという主観性の方がより重要になります。そのため、自分が惹かれた魅力とは何か、それはなぜか、その場で働くことの強みは何か、などといった問いに向き合い、余白をもちながら自由に考えられるとよいでしょう。
以上、見てきたように、職場体験での学びをより豊かにするためには、働くことには唯一の正解がないことを前提にした上で、自由に考えられる余白の中で生徒自身の考えが展開できるように、問いや表現する機会を設定していくことができます。
まとめ
職場体験というのは、普段の学校生活ではなかなか触れられないリアルな大人とのふれあいの中で、学びが生まれる貴重な機会です。その体験のもつインパクトが大きいからこそ、生徒の視野を、働くこと・社会とのつながりへと広げ、自分なりの言葉を紡ぐ中で深めていくことが実現したい学びに向けて欠かすことができません。
そうした学びとするために、今回は、唯一の正解がないことや余白、問い、表現する機会といった手立てをもって学びの環境を整えることをお伝えしましたが、これだけが絶対解ではありません。
それぞれの生徒の学びのストーリーに寄り添いながら、一人ひとりが自分ごととして社会とどのように関わっていくのか、働くことを通してどんなことを実現したいのかといった問いに向き合い続けられるような関わりをつくっていくことが大切です。
こうした問いに向き合い続けることが、本来の意味での職場体験の価値であり、ひいてはキャリア教育の価値にもつながるものではないかと考えています。
今回のこの記事が、それぞれの学校での職場体験の実践を振り返り、生徒たちにより豊かな学びを届けるための方途を探るきっかけになったとしたら嬉しいです。
職場体験について、ぜひこちらの記事もご覧ください。
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