生徒が自分の言葉で語るには?探究学習の成果物で意識すべき2つのこと【先生のための振り返り企画 Vol.3 果実】
「プレゼンやポスターなど成果物がうまく仕上がらない」
「きれいにまとまってはいるけれど、生徒の思いが乗っていない」
「本当に生徒たちのための探究学習になっているのだろうか?」
プレゼンやポスターなど成果物が思うように仕上がらない、あるいは綺麗にできあがるけれど生徒たちの思いが感じられない。「言われたからやった」のような探究学習になってしまい、どうしようかと思うことはありませんか。
”いかにも正解”といったどこかの誰かの意見ではなく、生徒たちが自らの思いをのせた成果物をつくりあげるには、いったいどうしたらよいのでしょうか。
全3回で探究学習を振り返る本企画、今回はこの探究学習の「成果」についてみていきます。解説は、教育と探求社でプログラムの開発を手がける佐藤瞬です。引き続き、探究学習の全体像をとらえながら、ぜひ去年までの探究学習を振り返り、次年度につなげていきましょう!
【全3回】振り返り企画記事はこちら!
Vol.1 根っこ> Vol.2 幹> Vol.3 果実>
探究学習の「果実」である成果物
本企画では、探究学習全体を「木」に見立て、どのように学びが起こっていくのかを見てきました。
木は、土壌に「根っこ」を張り、成長して「幹」が伸びて太くなり、そして「果実」をつくります。そして探究学習における各要素を、以下のように見立てて考えてきました。
根っこ:生徒自身の「信念・物事の見方」
幹 :話し合いや調べ物など探究学習中の「活動」
果実 :プレゼンやポスターなどの「成果物」
これらはひとつひとつが独立した要素として存在するのではなく、それぞれの要素が複雑に絡み合い、相互作用しあいながら学びが生まれています。
今回は3つめ、探究学習の成果「果実」について詳しくみていきましょう。
前回までの記事はこちら。
<先生のための振り返り企画 全3回>
・探究学習の「土台」に注目できていますか?【Vol.1 根っこ】
・形だけじゃない!探究学習の活動を充実させる3つのポイント【Vol.2 幹】
プレゼンに生徒の熱意がこもらない?
探究学習の「木」では、「果実」は「根っこ」から吸い上げられた栄養を「幹」を通じて受け取り、形となります。探究学習における「果実」とは、最終的にアウトプットされた成果物のことで、プレゼンやポスターなどが挙げられます。
探究学習の成果物については、「プレゼンやポスターがなかなかうまくできなくて困っている」という悩みがよくあげられます。また、上手な発表や綺麗なポスターができていたとしても、「一般的にいわれていることばかりを並べた内容になってしまい、生徒の思いが感じられない」「授業が終わればそれで終わりになってしまう」ということも多いのではないでしょうか。
探究学習に生徒たちの思いが入っていくと、プレゼンやポスターにも生徒たち自らの思いが入り、熱のこもったものとなります。考えた内容に当事者意識があり、「自分たちの言葉で話すので、人の心に響きます。また、うまく伝わらなければ「どうしたらわかってもらえるんだろう?」「もっと他の人にも知ってほしい!」と生徒自身の思いが駆動して、プレゼンやポスターをとおして他者を巻き込もうとする探求が進んでいくのです。
それでは、探究学習の成果物「果実」をそのように成長させていくには、どのようにしたらよいでしょうか。
「発表がうまくできたか」だけで探究学習の学びは測れない
まず意識したいのは、成果物のみで探究学習の学びは評価しきれないということです。
プレゼンやポスター、提出物といった成果物は最終的な学びのアウトプットとしてわかりやすく、そこで探究学習の学びを評価しがちです。しかし、探究学習の成果物には、生徒の学びのすべてがあらわれているわけではありません。生徒たちは探究学習をとおしてたくさんのことを思考し、「最初は気づいていなかったけれど、こんなことを発見した!」「他の人の意見を聞いて視野が広がった」といった、視野の広がりや物事の見方といった人間的な成長も多く存在しますが、成果物にはそのすべてが表現されているわけではありません。
また、成果物の完成度ばかりに先生が注目してしまうと、生徒たちの意識も「成果物がうまくできるかどうか」ばかりに向いてしまいます。
すると「効率よくきれいにまとめられる内容にしよう」「できるだけ簡単に”いい”発表にしよう」と、成果物をよくすることが目的となり、「自分がどう思ったか」「なぜこれをしたいのか」といった自らの思いが抜けていってしまうのです。
はたから見れば、いくらよい企画や提案ができあがったとしても、当事者意識を持てなければそのときその場で「授業だから」発表するだけになってしまいます。
探究学習の「果実」、生徒が自分の言葉で語るには?:①活動のプロセスや生徒の信念に目を向ける
それでは、探究学習の成果物において、どのようにすれば生徒たちの主体的な探究学習をサポートしていけるのでしょうか。
それには成果そのものだけではなく、これまで見てきた探究学習の「木」全体を見ていくことです。すなわち、成果物である「果実」はもちろんのこと、生徒の信念や物事の見方である「根っこ」や、探究学習の活動である「幹」にも十分に意識を向けていきます。
たとえば、環境問題を解決しようという探究学習のグループワークで、「ゴミを減らそう、そのためにマイボトルを作ろう」という提案があったとします。
このとき、「本当にマイボトルを作ることで、ゴミは減るのか?」「たとえば学校全員でやると1年間で何キロのゴミを減らせるのか?」「具体的な企画の進め方はどうするのか?」のように、データや実現可能性に注目し、問いかけをしたり補完していくようにサポートすることができます。
ここでさらに、「なぜマイボトルを作ろうという考えになったの?」「他にはどんな案が出たの?」「その中でこれを選んだのはどうして?」のように、提案にいたるまでの探究活動のプロセスを問いかけることもできます。
また、「どうして環境問題の中でも、ゴミを減らすことをやりたいと思ったの?」「そう思ったきっかけは?どんな体験があったの?」「マイボトルを作ることで、どんなふうになったらいいと思っている?」のように生徒自身の価値観にひもづく体験を問いかけることができます。
このように生徒たちの提案するアイデアや企画の内容だけではなく、そこにいたった探究活動のプロセスや、どうしてそう考えたかという信念に注目することで、その生徒たちならではの考えや思いが入った「自分たちの」企画や提案ができていきます。
探究学習の「果実」、生徒が自分の言葉で語るには?:②やる気は自然と湧くもの、だから長い目で見守る
また、成果物を作成する段階で、「プレゼンの練習をしてもいまいち生徒たちのやる気を感じられない」「どうしたらやる気が出るんだろう?」と悩まれる先生も多いです。
成果物という果実を育てるために、生徒たちにプレゼンでうまく伝えるコツを教えたり、発表の練習をさせることはよくありますが、実はここではもっと深いところに立ち戻ってみる必要があります。
なぜなら、そもそも探究学習でしてきたことに生徒たちの気持ちがのっているかどうかが、成果物作成へのモチベーションに関係しているからです。
生徒たちが自分たちの企画や提案に当事者意識をもっていると、誰かに伝えたい、知ってほしいという思いから、伝えることの探求もどんどん進んでいきます。
したがって、「本当に生徒たちのやりたいことをできているか」「生徒たちが思ったことや考えたことをフラットな目線できくことができているか」など、「根っこ」や「幹」の部分に立ち返り考えることが、果実の成長には必要となってきます。
また、これまでに十分に成果物以外のプロセスや信念に意識を向けていたとしても、やる気がでるかどうかはその生徒次第、そのタイミング次第。「こうしていれば必ずこうなる」というようなものではありません。したがって、「やる気を出させよう」としすぎずに長い目で見守ることも大切です。
「提出物の期限が決まっている」「企画の発表の日がせまっている」となると、「なんとかしなければ」とあせってしまうこともあるかもしれませんが、生徒たちのやる気がでるかどうかなど、先生にコントロールできないことも多々あります。
生徒たちが、いまはどうしてもやる気が起きなかったり、やりたいことがわからなかったりしたとしても、「どう思うのか」「どうしたいのか」先生が聞いてくれたり大事にしてくれたことはきっと生徒の心に残ります。この先何十年とある人生のどこかで、ふっと芽を出すこともあるかもしれません。
そのことを念頭におきつつ、もしいま思ったとおりにならなくても、「自分のできることはやったのだ」と自信を持って、生徒たちのことを信じて長い目で見守っていけたらと思います。
探究学習の「木」全体で学びをとらえ、成長を見守ろう
ここまで、探究学習を振り返るために、探究学習全体を「木」にみたててお話してきました。
根っこ:生徒自身の「信念・物事の見方」
幹 :話し合いや調べ物など探究学習中の「活動」
果実 :プレゼンやポスターなどの「成果物」
これらはひとつひとつが独立した要素として存在するのではなく、それぞれの要素が複雑に絡み合い、相互作用しあいながら学びが生まれています。
「生徒たちの内側で、一体何が起こっているのか」
探究学習をとおして生徒たちに起こる学びを丁寧にとらえ、見守り、サポートしていく。そんな先生方にとってこの記事がなにかひとつでも参考になれば幸いです。
【全3回】振り返り企画記事はこちら!
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