よい「振り返り」とは?探究学習で学びにつながる振り返りを行う4つのポイント
学校コーディネータの佐藤瞬です。前回は、生徒がいきいき意見を交わせる「安心安全な場」の作り方についてお話しました。今回は、探究学習の授業において最も重要なポイントとなる振り返りについて、生徒たちの学びにつながる振り返りをするためにどうしたらよいのか、お伝えします。
▼「主体的・対話的で深い学び」を実現するための探究学習
・探究学習とは?答えのない問いに向き合い、生徒が自らの可能性に気づく学びを。
・探究学習のテーマをどう決める?問いをつくるときに意識すべき3つのこと
・授業で意見が出ない?生徒がいきいき意見を交わせる「安心安全な場」の作り方
主体的・対話的で深い学びが言われるようになってから、振り返りの重要性についても各所で謳われるようになりましたが、みなさんは、授業の中での振り返りを行なっているでしょうか。
そもそもなぜ、振り返りをするのかがわからない、時間ばかりとられてしまってあまり実践できていない、いつもマンネリになってしまう、後悔や反省だらけになってしまい、あまり効果を実感できていない・・・。いざやろうということになると、どのように振り返りをしたらよいのか、疑問に思うこともあるのではないでしょうか。
今回は、生徒たちの学びにつながる振り返りをするために、そもそも振り返りはなぜやるのか、学びにつながる振り返りをするにはどうしたらよいのか、「振り返り」についてお話していきます。
授業の「振り返り」は何のためにやるのか
そもそも授業の振り返りは、何のためにやるのでしょうか。
私は振り返りとは、「生徒が授業での経験を自分なりに解釈する」ためのものだと考えています。これによって、生徒が新たな自分を発見し、自分自身の興味関心や特徴に自信をもって、これからにいかしていくことができます。
たとえば授業が終わったあとに、「すごく学びがあった」「よい時間を過ごせた」と言っていても、具体的にどのような学びがあったのか、どのような発見があったのか、充分に語れていないことはありませんか。
人は、学びの過程において様々な経験をしています。その瞬間だけでは受け取りきれないほどの情報や刺激があるために、自分がなにを経験したのか、どんなときにどう感じたのか、意識にのぼることなく、言語化もされずに、「なんとなくこうだった」で終わってしまうことも多いのです。
ここで振り返りを行うことで、今までぼんやりとしていた経験を、自分のものにすることができます。自分にとってどんな意味や価値があったのかを考え、整理整頓していくのは、様々なシーンをつなぎ合わせることによって一つのストーリーを作り出していくことと言えるかもしれません。
これまでぼんやりとしか受けとれていなかった経験を、こうして捉えなおすことで、「自分は何をどのように学んだか」 学びを自分にとって価値あるものとして腑に落とすことができるのです。
これは単に学習内容を効率的に定着させるためだけではなく、自分なりの学び方を知ることで、今まで見出すことのなかった新しい自分の発見にもつながります。
振り返りによって生徒が新たな自分を発見する
例えば、私が実際にクラスの中で体験したケースだと、自分の意見をいうのが苦手だと思っている生徒がいました。そんな彼は、授業で行った話し合い活動の中でグループで友達の意見を聞いたり、そこの意見をまとめたりすることが楽しかったという体験を振り返って下記のような振り返りを書いていました。
「友達の意見を聞いたり、そこから話がどんどん先に進む感じが楽しかった。最初から自分の意見を言うのは難しいと感じるけど、友達の意見に付け足したり、それをつなげて新しい意見にすることは好きなんだなと感じた。」
このように、自分が苦手だと思っていたことがある特定の場面だけであって、友達の意見を聞いてから考える場面で意見を言うことは好きであることが振り返りによって気がつけるようになったのです。
このように、振り返りを行うことによって、自分自身についての新しい可能性に気がついていくことができるようになります。そして、この気づきは、1回だけで終わるのではなく、「話し合いの時には、まずみんなの意見を聞いてみて、そこから自分の考えをまとめるようにしてみよう」というように、これからに生かしていくことができます。
生徒の学びを深める振り返りの方法
それでは、いったいどのようにしたら生徒の学びが深まる振り返りを行うことができるでしょうか。
私自身、教員時代に毎日振り返り活動を行なっておりましたが、単なる儀式となってしまい、生徒のコメントも「楽しかった」「次にいかしたいと思いました」とあいまいな様子で、学びを深める振り返りをできていなかったこともありました。
そうした形だけの振り返りになってしまうのには、以下のような要因が考えられます。
・そもそも時間が足りていない
・なぜ振り返るのかの目的意識をもっていない
・振り返る観点をもっていない
・評価されるのではないかとの恐れ
これらを解決しながら、どのようにすれば生徒の学びを深める振り返りができるかについて、以下4つのポイントをあげましたのでみていきましょう。
1.時間の使い方を工夫する
じっくりと自分の学びについて考える振り返りをしようとすれば、それなりの時間が必要となります。
ですが、毎回の授業の最後に取り組もうとすると、せいぜい5分ぐらいが限度なのも現実でしょう。その5分間の中で、上述したような振り返りを行おうとすると中途半端な段階で終わってしまうのも仕方ありません。
では、どうするか。
現実的に時間を増やすことは難しいので、毎回の授業の終わりで行う振り返りと、学習の最後に行う振り返りとで意味づけを変えることが有効です。
毎回の授業では深くは振り返ることは難しいですから、あとで見返したときにその授業で自分が感じていたことがわかるようにメモしておく感覚で取り組んでいきます。一方で、学習の最後に行う振り返りでは、1授業時間を使って、それぞれの授業の振り返りを見返して、経験を解釈していくことに時間を使っていくのです。このときには、本来的な意味で振り返りを行えるように、じっくりと時間をとり、自分自身と学びについての振り返りが行えるようにしていくとよいでしょう。
2.生徒の言葉を受けとめる
なぜ振り返りをするのか、目的意識がない場合には、なんとなくで終わってしまったり、振り返りを行う意欲はなくなっていってしまいます。
では、目的意識をもって振り返りに取り組むためにはどうしたらよいのでしょうか。
大切なのは、振り返りをすれば「学びにつながる」ということを、生徒自身が体感していくことです。
自分にとって、この経験はどんな意味があったのかを言語化していったときのすっきりとした感覚や、腑に落ちる感覚を味わうことができたならば、それが振り返りを行なう目的になります。
なぜ振り返りを行うのかについて先生の言葉で語ることも大切ですが、振り返りの場を、生徒がまたやりたいと思えるようなものにすることが大切です。そのためには、振り返りの際にでてきた生徒の言葉に対して、受容的な態度で受け止め、先生の方からも振り返りをやった努力や自分自身を見つめたことに対して声をかけていきましょう。
3.生徒たちに問いかける
ただ自由に「振り返ってみよう」と言うだけでは、何をどうしたらいいのかわからない生徒が出てしまうのは自然でしょう。
そのようなときには、先生から問いかけをしたり、観点を決めて振り返りをしてみることが考えられます。たとえば、以下のような観点から振り返りをしてみるのはいかがでしょうか。
―【事実】そのときに起こったことは何か
―【変化】自分にとって転機になった出来事はなにか
―【比較】他の経験と比べてみてどうか
―【理由】なぜ学びにつながったか
―【抽出】他の場面でも使えそうな学びはなにか
もちろん、これらが正解ではなく、この観点から振り返ればうまくいくというものではありません。また、これらの観点を問いに置き換えて、連続して問う形も圧迫感を増してしまいますし、何よりやらされ感が増大してしまうので避けた方が良いでしょう。
それよりも、振り返りに行き詰まっている生徒への問いかけとしてこうした観点を念頭に置いて対話しながら振り返ることが有意義ではないでしょうか。また、今回の振り返りでは、この観点に重点をおいて考えてみようといったように、観点を絞って振り返る経験を積んでいくことも有効です。
4.安心安全の場をつくる
振り返りを書くときに、ここに書いたことが評価されると感じると、生徒はどうしても「よいことを書かなくていけないのではないか」と思います。
こんなことを書いたら減点されてしまうかもしれない、こうやって書けばよく評価してもらえるのではないか、といったことを推察し、じっくりと内省する契機になりえないことがあります。
そのことは、「この授業でのねらいはこれだったから、それっぽいことを書いておけばいい」との気持ちを助長し、学びの振り返りというよりも、模範解答探しをもたらします。これは、せっかく自分の学びになりうる経験の価値を削いでしまう結果になります。
そのため、振り返りを行うときには、何を書いても問題ないこと、評価には一切つながらないことを明示的に伝えることが欠かせないでしょう。それは、振り返りがそもそもその人にとっての学びを紡いでいくものだからです。
またこのことは、生徒の振り返りに対して、どのように応答するかが問われていることを意味します。そこで先生が正解だと思っていること、そこに近づけようとしていることなどが伝わってしまうと、それに近づきたくなってしまいます。そのため、先生の尺度から価値づけをするというよりも、まずは生徒の言葉を受容して、その取り組みそのものを認めることが大切になっていきます。
安心安全の場の作り方については別記事でもご紹介していますので、そちらもぜひご覧ください。
→授業で意見が出ない?生徒がいきいき意見を交わせる「安心安全な場」の作り方
まとめ:生徒の学びを深める振り返りをするために。
以上、生徒の学びを深める振り返りをするために、振り返りの目的から、振り返りのやり方についてみてきました。
振り返りとは、生徒が授業での経験を自分なりに解釈するためのもの、そして、生徒が「自分にとってどんな価値があったのか」を考える場をつくることが大切です。
振り返りは、到達すべきゴールにたどりついているかどうか、誰がみても明確な指標で達成率をはかるためのものではなく、ひとりひとりがどのようなプロセスで、今どこにいるのかを明らかにするためのもの。
隣の人とも先生のものとも違った、紡ぎ出された自分にとっての答えは、誰かによって評価されることはない、その人にとって価値あるものになります。
よりよい振り返りを実践することは、よりよい学びを生成することと表裏一体であると考えています。ここにも特効薬的な答えは存在していません。学びに関わる全ての人が学びの過程にいることが何よりも大切です。私が日々お会いする先生や訪問する学校でも多種多様な試行錯誤が行われています。この記事を契機として、まずはそれぞれの学びの捉え方を「振り返る」ことから始めていただけるのなら、これほど嬉しいことはありません。ぜひ、ともに探求を深めていきましょう。
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