探究学習で深い学びが起こる瞬間~後編:探究学習を進めるのに大切な2つのこと
2020年9月24日、探究学習プログラム「クエストエデュケーション」を導入している学校の先生が集まって意見や情報交換を行い、これからの学校現場を共に考える「第3回オンライン交流会」を開催しました。
この記事では、今回交流会のプログラムのひとつとして開催された学校コーディネーター佐藤瞬による「探究学習についてのお話」をお届けします。
①安心安全な場づくり:意見が言えないを乗り越える「グランドルール」
こうして探究学習を進めていくときに大事だと考えているのが、これからお話する二つのことです。
まずひとつめは、協同学習における「場」です。
協同的探究学習していくときに、「その場がどういう場であるか」ということはすごく大きな力を持っています。「心理的に安全な場」、弊社だと「安心安全な場」ということが多いのですが、そうした場を作ることが大切です。
▼関連記事
授業で意見が出ない?生徒がいきいき意見を交わせる「安心安全な場」の作り方
逆に、「安心安全ではない場」はどういうことかと言うと、「こういう発言したら、無知と思われるな」とか「邪魔だな、否定的だなと思われるな」と自分が思っているような場ですね。このような場では、心理的安全性は保たれているとはいえません。
そしてその「場」というのは何かというと、なんとなく感じられる空気みたいなものです。それを「暗黙の社会的な規範」とここでは書いてるのですが、「なんとなくこの場でこういう発言すると空気読めてないって思われるな」と思ってしまう場には、そうした暗黙のルールがあります。せっかく協同で探究を深める活動をしていても、安心安全な場が成立していないと、なかなか探究学習は進んでいかないし、深い学びが実現しません。
これは余談ですが、スライド中央の「小中高」と書いてあるところ、それぞれどんな子にどんな配慮が必要かというのが、実はちょっとずつ違っているのだという研究があります。
小学校だと、空気を読む子が元気な子の声に消されてしまって、自分の意見を持てないみたいな状況があるので、空気を読んでしまう子のほうに配慮が必要なんだけれども、中学校では逆に空気を読まない子のほうが浮いてしまう、仲間外れにされてしまうということがあるので配慮が必要と言われています。高校はもっとクールで、空気を読む・読まないは関係なくて、意見の衝突があるかどうかだけが課題と言われています。だからそつなくこなすことはできるんだけど、意見がぶつかりあうディベートや討論みたいなことは苦手ということが研究で言われています。
なので、どんな恐れを持ってるのかということは現場ごと教室ごとに違うと思うのですが、少なくともそれぞれの発達段階においてなんらかの恐れがあるということがわかると、なかなか自分の意見を言いづらいというのがなぜなのか、をとらえることができるかと思います。
さて、その「これを言ったら浮くな」「生意気だと思われるな」と思ってしまうような「暗黙の規範」をどう乗り越えるかということなんですが、「グランドルール」というものが有効です。
「グランドルール」というのは、「この場はこういう場です」ということを、意識的・明示的に言うことです。
弊社ではどの教材にも必ず3つほどグランドルールを設定しているのですが、それにはそうした意図があります。グランドルールとして、この場は安心安全な場であるということ、その場のモードがどういうものであるのか、雰囲気としてどんなものを大切にしてるのか、を敢えて言葉として語るということは、生徒たちが安心して自分の意見を言える場を作るために意味があることです。
スライド下の黄色のところでですね、「場の持ってる力」という事を書いているんですが、右のほうに三角と丸の図がありますよね。
※阿部慶賀(2019)『創造性はどこからくるか』共立出版より引用
これは何かというと、実は心理学の実験で「場の力」が示されたものです。
どういうことかというと、この実験では、パソコンの画面上で、三角と丸、そして四角い箱の図形が動くスクリーンセーバーをみせた後に、グループワークを行いました。「三角と丸の図形が協力し合いながらこの箱の中に入る」というように読み取れる動きをみせたあとでは、そのグループは協力しあうようになり、一方で「三角と丸の図形が喧嘩してるようにぶつかり合いながら箱の中に入っていく」という動きを見せると、そのグループではその後、協力行動が見られない、という結果が出ました。
つまり、人じゃなくても、「どんな雰囲気とかどんな動きを周りでしてるのか」ということによって、その場がどういう場であるのかというのがなんとなく暗黙的に伝わるということがあるのです。
リアルな場ではこの相互作用はより大きいのではないかと思います。例えば、グループワークで隣のチームが盛り上がっていたり、楽しそうにやっていたら、それがなんとなく視界に入ることによって楽しさが伝染していくみたいなことが起きる。逆もまた然りで、やる気がない人が集まってしまうとどんどんやる気がなくなっていくスパイラルにもなる、という風に考えられます。
そこに集う人同士の影響を私たちは意識せずともすごく受けていて、その中でどういうふうに「安心安全な場」を作っていくのかということが課題であると言えるのかなと思います。
「安心安全な場をつくること」、これが探究学習を進めるにあたって私たちができること、意識を向けられることの一つです。
②大人の声かけのあり方「生徒自身を信じて待つ」
探究学習を進めるために大切なことの2つめは、「大人からの声かけ」です。
大人の声かけのあり方としては、まず大前提として「生徒自身を信じて待つ」ということに、すごく価値があると考えています。
全てのことに対して声をかけなきゃいけない、問いかけないといけないというのは、違うのだろうと私は考えていて、「子どもたちが自分たちで探究していく」「よりよくしていく」ということを信じて待つということが、より価値のあることだと思います。
ただ一方で「このグループ停滞しているな」「どうしたら探究が深まっていくんだろうか」といった悩みももちろんあると思いますので、そうした状況の中でどんなことを考えることができるのか、話題提供できればと思います。
参考になると思っているのは、「哲学対話」という活動です。哲学対話は、1970年代にアメリカで始まった「子どものための哲学(Philosophy for Children:P4C)」に由来するもので、子どもたちの思考力を養うために対話を用いています。
その中で出ている「哲学対話の深め方」が1から8までありますので、これに紐づけながら探究学習における問いかけについても考えてみます。
<哲学対話の深め方>
1.きっかけ
2.似たような状況の想起
3.定義・意味づけ
4.区別・関連付け
5.一般化
6.隠れた前提
7.思考実験
8.例・判例・類比
※参考:堀越耀介(2020)『哲学はこう使う』実業之日本社
「哲学的対話の深め方」を参考に問いかけのレパートリーを考えてみますと、まず大きく4つあるのではないかと思います。
<問いかけのレパートリー>
A.きっかけを問う
B.価値を問う
C.言葉を問う
D.もし(if)を問う
A.きっかけを問う
まずひとつめが、きっかけを問うというものです。これは哲学対話の深め方の「1.きっかけ」「2.似たような状況の想起」というところに関係しています。生徒たちが考えている提案のきっかけ、「なんでそれを考えてみたの」「なんでそれを思いついたの」という問いかけが考えられます。
例えば、リーダー格の子がきっかけを答えたとしたら、他のチームのメンバーの子に、「似たような経験あったのか」というようにメンバーに声かけをしていきます。こうして「自分たちの発想の原点ってなんだっけ」ということに意識を向けられるんじゃないかと思います。
B.価値を問う
2つめは、「価値を問う」というものです。これは哲学対話の深め方の「3.定義・意味づけ」「4.区別・関連付け」というところに関係しています。「それを実現したい、叶えるのは良いことだと思ったのはなぜなのか」「他のこういう価値に比べて、こちらを優先したのはどうして」というふうに問うことで、彼らの中で「いい悪いをどう想定しているのか」ということを引き出すことができる問いです。
C.言葉を問う
3つめは、「言葉を問う」というものです。これは哲学対話の深め方の「5.一般化」「6.隠れた前提」というところに関係しています。自分たちが選んだ言葉に込めたイメージや、実現したい未来で使われている言葉というのは、彼らなりのこだわりがあります。そのこだわりって何なんだろう、ということを聞くことができます。
D.もし(if)を問う
最後が「もし(if)を問う」です。哲学対話の深め方の「7.思考実験」「8.例・判例・類比」に関係しています。「もしこういう人がいたらどうする」「みんなの提案すごくいいと思うんだけど、マクドナルドと比べたらどっち選ぶ?」というような問いかけをすることで、考えを深めるきっかけになります。仮定された状況をいうことで、「自分たちは実はどっちの方が好きなんだっけ」「どっちの方に価値を置いてるんだっけ」ということを考えるきっかけを作ることが、先生の方からできるかと思います。
以上が声かけのレパートリーです。
今回、このようにレパートリーとして「問い」を示している意味として、子どもたちが安心して自然に答えられるようにと考えています。私たちはどうしても「なんで」と聞きたくなりますが、「なんで」と聞くのは日本の学校文化だと詰問というか、問い詰められていると感じることもあります。ですので、「なんで」という言葉ではなく、聞きたい事をどう実現するかの工夫をするということで、例をあげています。
ただ、これも答えではなく、生徒の特徴や先生との関係、そして場の雰囲気によって、いろんな声掛けのパターンがあります。その中で「どんな声かけができると深い学びにつながるだろう」ということを、皆さんの様々な意見を聞けるとすごく面白いだろうなと思います。
学びが深まる振り返り
それでは最後に、「学びが深まる振り返り」についてお話させていただきます。
これまでの話を踏まえて、「学びが深まる瞬間って結局なんなんだっけ」ということを考えてみると、「場が持っている力」と「先生からの声かけ」によって協同探究がうまくいった中で、最終的にはやはり「内省」によって学びが深まると考えています。
探究学習の最後に行う振り返りでは、「この探究学習の中で得てきた経験」をどう自分ごととして考えていくのか、経験の点と点を自分なりのストーリーとして紡いでいくことが行われます。
このような振り返りをとおして、「今までこういう風に世界を見ていたけど、こういうふうに変わった」「自分自身をこういう風な存在だと思っていたけれど、実はこういうこともできるんだ」という気づきや、自分と世界との出会いなおしといったことが起こるんですね。
ですから、毎回の授業の後やプログラム全体を終えた後に、自分の内省をする、振り返りを行うということには、すごく大きな価値があります。
探究学習とは、「答えのない問いに私として対峙すること」と最初に述べましたが、最後にまとめると、その「答えのない問い」によって、
・「自分が知ってると思ってることが揺さぶられる」という問いとの出会いが起こり、
・「実は自分は知らないんだな」という未知によって感情を動かされ、
・感情の動きによってどんどん探究が進んでいく
ということでした。
そして「場が持っている雰囲気」や「大人=先生方の声かけ」によって、探究がより促進されたり、逆に負のスパイラルに陥ったり、ということもお話させていただきました。
最後に、「私として問いに向き合う」ということに持っていく、学びを自分ごとにする段階においては、「振り返り」がとても重要な機能をもっていると考えています。
まとめ
今回のお話では、前半でそもそも探究学習とはなにか、「登山型」「航海型」の2つのとらえ方を共有し、そしてどのように探究学習を始めるのか、後編では探究学習を進めるのに大切な2つのこと、「安心安全な場づくり」と「大人の声かけ」について、最後にそれぞれに起こった学びを深める振り返りについてでした。
探究学習における場づくりや声のかけ方、今日お話したような設計については、「クエストデュケーション」ワークブックや指導ガイドにも具体的な記載がありますので、ぜひご覧ください。
→まずは、深い学びが起こる探究学習を体験できる「ソーシャルチェンジ・ファースト!」(無料体験教材)
この記事へのコメントはありません。