【クエストカップ審査委員インタビュー】「きれいな解決策より、本質的に他者と向き合ったかが大事」Learning for All 代表理事 李 炯植さん
2021年2月20日~28日の8日間にわたり開催されたクエストカップ2021 全国大会。全国28都道府県、応募総数3,587チームと数多くのエントリーをいただき、大会では優秀賞209チームが発表し、ついに各部門グランプリ受賞チームが決定して幕を閉じました。
たくさんの素敵な発表の中からグランプリを決定する審査は、いったいどのように行われていたのでしょうか。
今回は、社会課題の解決を探求する社会課題探究部門「ソーシャルチェンジ」において、審査委員(ソーシャルチェンジではチェンジメーカーという呼称)を担当いただいた、特定非営利活動法人 Learning for All 代表理事の李 炯植(り ひょんしぎ)さんに、審査をとおして感じたこと、審査の裏側をお話いただきました。
李 炯植
特定非営利活動法人 Learning for All 代表理事
特定非営利活動法人Learning for All 代表理事。1990年、兵庫県生まれ。東京大学教育学部卒業。東京大学大学院修士課程修了。2014年に特定非営利活動法人Learning for All を設立、同法人代表理事に就任。これまでにのべ8,000人以上の困難を抱えた子どもへの無償の学習支援や居場所支援を行っている。全国子どもの貧困・教育支援団体協議会理事。2018年「Forbes JAPAN 30 under 30」に選出。
▶カップサイト審査委員からのメッセージ
きれいな解決策より、本質的に「他者と向き合ったか」
李さんにクエストカップに関わっていただいたのは3回目ですね。今年のソーシャルチェンジのチェンジメーカーは、いかがでしたか。
今年はオンラインでの開催でしたが、むしろ「参加している生徒たちの発表内容をしっかり見れている」という感覚が自分の中にありました。
一昨年のようなポスターセッション形式だと、会場にたくさんのチームが集まってそれぞれ発表しているので、声が大きいことやパフォーマンスが注目されがちですが、今回のようにオンラインで1チームごとに発表する形式だと、出場している生徒たちの考えや取り組みをじっくり見れたなと思います。
休み時間に他の学校と交流している子が多かったのも、面白かったですね。生徒たちにとってはこのクエストカップの場が新しい社会で、それ自体が非常に豊かな学びの空間にもなり得ると感じました。
社会課題の解決を探求する「ソーシャルチェンジ」。今回、審査委員(チェンジメーカー)として審査するにあたって、どのようなことを大切にされましたか?
まず前提として、「プロセスではなく結果を評価する」ということです。生徒たちがここまで来る道のりは色々あったと思うのですが、僕がそのすべての過程を知っているわけではありません。そこに想いを馳せすぎると偏りが出てしまいます。なので、あくまで当日の発表という「結果」を見るようにしていました。
そして、これがソーシャルチェンジで最も重要ですが、それぞれのチームが考える「誰の、何の課題を解決したいのか」「なぜそれを課題としたのか」という部分に注目して見ていました。
ビジネスコンテストであれば、受益者のニーズを的確に理解し、課題を設定した上でそこに見合ったソリューション(問題の解決方法)を提供しているかどうか、つまり課題に対する「ソリューションの質」が評価されます。しかしソーシャルチェンジでは、「ソリューションの質」よりもむしろなぜその課題を設定したのか、「課題の設定」が重要です。
誰の課題を解決したいと思うのか、何を課題とするのか、なぜそれは課題なのか。そこを皆で話し合いながら、自分自身の身の回りの課題を見過ごさずに定義してみる、本当に課題なのか調査してみる。そしてそこで出てきたものを分析し、ニーズを導き出して、「こういうことをやっていかないといけないんだ」と思える。
こうした他者の痛みを見出して、そこに関わっていくその行為自体が、非常に重要なものだと感じています。なので、たとえ綺麗なソリューションになっていなくても、本質的に「他者と向き合った」と感じられるものを評価しました。
審査の裏側:どこかの誰かではなく、「名前の付いた誰か」をちゃんと想像できているか
ソーシャルチェンジでは、ファーストステージで各ブロックの審査委員(チェンジメーカー)により1チームが選ばれ、セカンドステージで選ばれた8チームの中からグランプリを決定しました。
ファーストステージの審査では、どのようにしてチームを選ばれたのでしょうか。
僕は、ファーストステージ、ブロック8で審査をしました。「自分ならこういう軸で評価する」と決めていたので、そこまで審査における難しさはなかったですね。
「洞察」「構築」「訴求」の3つに沿って二段階で評価をしました。「洞察」では、設定した課題に対してちゃんと分析をしているか、「構築」では、課題を解決できる企画なのか、「訴求」では人に届ける工夫をしているか、ということを見ていました。「構築」については、どのチームもよくできていたなと思います。
その中で、クラーク記念国際⾼等学校(東京)チーム「グローバルライダース」と、東福岡⾼等学校のチーム「BISH ( ⽝ )」は、この3つの評価がいずれもよかった。
迷いましたが、最終的に、クラーク記念国際⾼等学校(東京)チーム「グローバルライダース」を選びました。
やはりユーザー視点、受益者視点で色々考えていたのがすごく伝わってきたことと、深い共感をしている感覚が伝わってきたことが大きかったです。ソーシャルチェンジでは、どこまでいっても「どの個人をハッピーにしたいか」というところに尽きると思います。その洞察からブレずに頑張ろうとしていた姿勢が、チーム「グローバルライダース」は頭ひとつ抜けていたと感じます。
どこかの誰かではなく、「名前の付いた誰か」をちゃんと想像できているかどうか。対象化して課題解決してやろう、ではなくて、その人の立場になってちゃんと考えているかどうか。
紙の上で何を課題とするかは本質ではなくて、「その課題を持った他者と共にこの地球上に存在する」と思えることが、僕は大事だと思っています。
セカンドステージの審査は、他の審査委員(チェンジメーカー)の方々との合議でしたが、審査の様子はいかがでしたか。
そうですね、ファーストステージからあがってきただけあって、どの発表も良かったです。その中で、審査委員(チェンジメーカー)それぞれ評価視点に違いはあったけれど、あらゆる観点から見てもちゃんと考えられているということで、グランプリはクラーク記念国際⾼等学校(東京)のチーム「+ α」に決まりました。
そういう意味では、「ある評価軸に対してすごく尖って優秀なチームが複数あって、どのチームを選ぶべきか」というような議論にはならなかったですね。今回は割とすっとグランプリが決まったと感じています。
あとは、ブロック1からきた⼭形県⽴東桜学館⾼等学校のチーム「team bee」はもう少しフィーチャーされてもよかったのかなと思っています。
あれだけ具体的な提案が出てくるということは、やはり課題を抱える当事者のことを掘り下げて考えているからな気がしたんですよね。そこにこそ全てがあるというか。
逆に、ソリューションがきれいに出ていても、主体的な動機がわからない、本当にやりたいのかわからないなと感じる発表もありました。もしかしたら表現されていないだけで、生徒たちの中には本当はもっと思いや熱意があったのかもしれない。そこはもっと発表の時に表現していただけたらいいなと思いました。
最後に:主体の枠が広がる、その変化に価値がある
最後に、ソーシャルチェンジについてメッセージをお願いします。
ソーシャルチェンジにおいては、主体的な動機付けがとても大事です。
生徒たち一人一人に主体的な葛藤がなく、「ただ与えられたテーマに対してソリューションを出す」というのは、ソーシャルチェンジではなく、ただの調べ学習の延長です。コンサル的な頭の使い方は学べるかもしれないけれど、社会の変化にはつながりません。
「困っている人を助けてあげなきゃいけない」という視点ではなく、相手の持つ課題に深く共感し、自分の課題として「やりたい、やらねばならない」と思えること。
ソーシャルチェンジで同じく審査委員(チェンジメーカー)をされた太田さんもお話していましたが、他人に深く共感し、自分という主体の枠が広がっていくこと、そのことに僕はすごくソーシャルチェンジの価値があると思っています。
李 炯植
特定非営利活動法人 Learning for All 代表理事
特定非営利活動法人Learning for All 代表理事。1990年、兵庫県生まれ。東京大学教育学部卒業。東京大学大学院修士課程修了。2014年に特定非営利活動法人Learning for All を設立、同法人代表理事に就任。これまでにのべ8,000人以上の困難を抱えた子どもへの無償の学習支援や居場所支援を行っている。全国子どもの貧困・教育支援団体協議会理事。2018年「Forbes JAPAN 30 under 30」に選出。
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